東京大学2010年前期物理入試問題


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[1] 途中で宙返りするジェットコースターの模型を作り、車両の運動を調べることにした。線路は水平な台の上に図1のように作った。車両はレールに乗っているだけであり、線路からぶら下がることはできない、車両の出発点である左側は斜めに十分高いところまで線路が伸びている。中央の宙返り部分は半径Rの円軌道であり、左右の線路となめらかにつながっている。円軌道の最下部は台の上面に接しており、以後高さは台の上面から測る。車両の行き先である右側の線路も十分長く作られているが、高さR以上の部分は傾斜角θ の直線であり、この部分では車両と線路の間に摩擦が働くようにした。すなわち、ここでは2本のレールの間を高くしてあり、そこに車両の底面が乗り上げて滑る。傾斜角θ は、この区間での動摩擦係数μを用いて、となるように設定されている。線路のそれ以外の場所ではレール上を車輪が転がるので、摩擦は無視することができる。重力加速度の大きさをgとし、車両の大きさと空気抵抗は無視して、以下の問いに答えよ。

T 質量の車両Aが左側の線路上、高さの地点から初速度0で動き始める。車両Aが途中でレールから離れずに、宙返りをして右側の線路に入るためにが満たすべき条件を求めよ。

次に、左側の線路につながる円軌道部分の最下点に質量の車両Bを置いた。車両Aは円軌道に入る所で車両Bと衝突する。

U 衝突後2つの車両が一体となって動く場合を考える。車両Aは左側の線路の高さの地点から初速度0で動き始める。一体となった車両がレールから離れずに宙返りするために、が満たすべき条件を求めよ。

V 2つの車両が弾性衝突をする場合を考える。車両Aは左側の線路の高さの地点から初速度0で動き始める。車両Aは衝突後、直ちに取り除く。
(1) 衝突後に車両Bがレールから離れずに宙返りするために、が満たすべき条件を求めよ。
(2) (1)で求めた条件を満たす場合、車両Bは宙返り後、右側の線路を進む。右側の線路での最高到達点の高さを求め、最高点到達後の車両のふるまいを述べよ。
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[2] 図2のように、水平面上に2本の導体レールを間隔lで平行に置き、磁束密度の大きさがBである一様な磁場を鉛直下向きに加えた。導体レールの上には、長さl,抵抗値Rの棒を導体レールと直角をなすように乗せた。導体レールには、図に示したように、4つの抵抗1234と、起電力Vの電池、スイッチをつないだ。抵抗123の抵抗値はRであり、抵抗4の抵抗値はである。自己誘導、導体レールと導線の抵抗、電池の内部抵抗は無視できる。

T 棒が導体レールに固定されているとき、以下の問いに答えよ。
(1) 最初、スイッチは開いている。このとき、棒に流れる電流の大きさを求めよ。
(2) 次にスイッチを閉じた。このとき、棒に流れる電流の大きさを求めよ。
(3) (2)のとき、棒に流れる電流が磁場から受ける力の大きさを求めよ。また、その向きは図中()()のどちらか。

U 次にスイッチを閉じたまま、導体レールの上を棒が自由に動けるようにしたところ、棒は導体レールの上を動き始めた。以下の問いに答えよ。ただし、導体レールは十分に長く、棒はレールから外れたり落ちたりすることはない。また、棒が受ける空気抵抗、導体レールと棒の間の摩擦は無視できる。
(1) 棒の速さがになったとき、抵抗3に流れる電流が0になった。を求めよ。
(2) 十分に時間がたつと、棒は速さで等速運動をしていた。を求めよ。
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[3] 管の中では気柱の共鳴という現象が起こるが、そのときの振動数を固有振動数と呼ぶ。なお、以下で用いる管は細いので、開口端補正は無視する。

T 管の長さをL,空気中の音速をVとして以下の問いに答えよ。
(1) 管の両端が開いているときの固有振動数のうち、小さい方から3番目までの振動数を求めよ。
(2) 管の一端が開いていて、他端が閉じられているときの固有振動数のうち、小さい方から3番目までの振動数を求めよ。

U 長さの透明で細長い管の左端に膜をはり、この膜を外部からの電流によって微小に振動させ、管の中に任意の振動数の音波を発生できるようにした。管は水平に置かれ、内部には細かなコルクの粉が少量まかれていて、空気の振動の様子が見えるようになっている。管の右端をふたで閉じて、音波の振動数をゆっくり変化させた。振動数をからまで変化させたとき、で共鳴が起こり、空気の振動の腹と節がコルクの粉の分布ではっきりと見えた。なお、他の振動数では共鳴は起こっていない。
(1) での共鳴のときの空気の振動の節の位置を管の右端からの距離で答えよ。
(2) この条件を用いて、音速Vを求めよ。

V 次に、Uで行った実験では閉じられていた右端を開いて、振動数をからまで変化させた。今度は振動数がで共鳴が起こり、管は大きな音で鳴った。ここで、である。を求めよ。

W この装置を自転車に載せてサッカー場に行った。固有振動数の音を出しながら、図3に示すように、サイドライン上をA点からC点に向かって一定の速さvで走る。C点にはマイクロフォンと増幅器とスピーカーがあり、マイクロフォンでとらえた音を増幅してスピーカーで鳴らす。三角形BCDが正三角形になるように、サイドライン上にB点とD点を設定する。D点で装置からの音とスピーカーからの音を聞く。風の影響は無視して以下の問いに答えよ。
(1) 2つの音源からの音は、干渉によりうなりを生じる。B点からの音とスピーカーからの音が干渉して生じるうなりの振動数を、音速V,自転車の速さv,振動数を用いて表せ。
(2) 自転車がB点を通過するときのうなりの振動数はであった。この値を用いて自転車の速さを有効数字1桁で求めよ。なお、音速の値はUで求めたものを用いよ。
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各問検討

[1](解答はこちら) 今年も東大の[1]は、昨年[1]と同様、力学の総合問題でした。昨年が単振動だったので今年は円運動、という感じですが、円運動だけでなく、衝突、運動量、エネルギー、摩擦、と、幅広く力学の内容が扱われています。かと言って、では来年は万有引力だろう、というほどには、東大の出題に一定の傾向が見られる、ということではなく、来年はどうなるかわかりません。昨年、今年と2年続けて、入試問題として頻出の内容が扱われてきましたが、過去には、特殊な事例を扱う問題も見られます。
東大の入試問題と言っても、本問では、運動方程式、円運動の加速度がになること、運動エネルギーと位置エネルギーの総和は、摩擦などの外力による仕事を受けなければ一定のまま変化しない、という力学的エネルギー保存則、運動量保存、反発係数の式、静止摩擦力は最大静止摩擦力以下であること、動摩擦力や最大静止摩擦力は垂直抗力に摩擦係数をかけたものになること、など、物理の教科書に書かれている基礎事項で解答を進めていくことができます。やや入試技巧的な知識ですが、円運動を続ける条件が、最高点での物体と軌道との接触の維持、つまり、最高点でであること、であること、も使いますが、これも、どの理工系大学を受けるのにも必要になる知識です。
昨年[3]など、やや教科書内容から離れた内容が出題される場合もありますが、問題文にきちんとした説明があり、特殊な入試技巧を使うわけではありません。
つまり、東大物理では、教科書を一通りしっかり理解して、標準的な問題集で各分野数十題も解いてあれば充分です。高難度の問題がないとは言えませんが、ほとんどの問題でレベルがそれほど高いというわけではありません。それにもかかわらず、入試の結果を見ると、合格者の出身高校は毎年同じような高校が並びます。いわゆる進学校では何か特別なことをやっているのだろう、と、白い目で見られるかも知れません。ですが、私の通っていた高校もいわゆる進学校の一つですが、学校の授業では入試対策と言えるようなことは何もやりませんでした。今ではどうかわかりませんが、難関大学を狙おうという受験生の皆さんには、ぜひ、「東大合格のためには特別な知識はいらない」ということを頭に入れておいて頂きたいと思います。
東大合格者の中には数学オリンピックなどの入賞者もいますが、そういう人もいる、というだけであって、数学オリンピックを目指すことが東大合格の条件、というわけではありません。甲子園で活躍する高校野球の選手でも、全員が将来、有名プロ選手になるようなスーパースターばかりというわけではなく、ほとんどの選手が、甲子園を目指して日々の練習で鍛えて上手になった普通の高校生です。そして、この日本を支えているのは、そうした日々の努力で仕事をこなしている「普通の」人たちです。

日本は狭い国土に一億人がひしめき、有力な地下資源もなく、広大な農地もなく、一億人が生活していくためには、農林水産業や鉱業や土木工事では無理です。どうしても、商工業や文化的産業でやっていくしかありません。しかしながら、環境対応自動車や
3次元テレビのような分野でも、最近、日本はアジア諸国に追いつかれ追い抜かれかねない状況にあります。こちらをご覧の皆さんには、好むと好まざるとにかかわらず、先進的な科学技術の開発の現場で活躍して頂かなくてはいけません。科学の進歩なんて、雲の上の出来事で自分には関係ないなどと思わずに、自分こそが日本の牽引者となって、科学の進歩に名を残すような大きな仕事をするんだ、という意欲に燃えて頂きたいと思います。
東大・東工大・京大・早慶をはじめとする難関大学で、そうした意欲的な技術者・研究者を数多く養成して欲しいと思う一方で、難関大学を狙うということは決して雲の上を狙うような特別なことではなく、それなりの努力は必要ですが、日々の高校の授業をきちんとこなしていくという当たり前のことで充分だ、ということも頭に入れておいて頂きたいと思います。今の自分の力では東大なんて無理だ、などと思うのは大きな錯覚です。本問は、きちんと基礎ができている受験生であれば解答可能な問題です。高校の授業をきちんとこなし、少し問題集がやってあれば、充分に東大の合格ラインに届きます。
現時点での高校物理教科書には「ゆとり教育」の弊害と言える大きなカリキュラム上の問題点があります。ですが、大学で専門的な勉強を続けていくのに必要な基礎知識が一通り網羅されています。様々な制約をかかえながらも執筆者がわかり易く物理の興味深い内容を次世代に伝えようとする情熱をひしと感じます。ぜひ、高級入試技巧の暗記に走ろう、などと思わずに、まずは、教科書の基礎事項からしっかりと勉強するようにしてください。それが本問のような問題を解けるようになる近道であり、東大合格の条件です。




[2](解答はこちら) 東大ではキルヒホッフの法則を前面に採り上げる問題は珍しいので、試験会場で本問を目の前にしてため息をついた受験生が多かったのではないかと想像します。電気回路の問題は、慣れていれば、連立方程式を立てて解くだけのことなのですが、慣れていないと、本問のように単純な直列並列ではない回路で、電流をどうおくか、ループをどう見るか、といった基本的なところからまごつくことになりかねません。
大学によっては出題傾向に明らかな偏りがあって、過去問をよく研究しておくことが受験対策になるのですが、東大の場合には、入学してきた学生に弱点があったりすると、その弱点を調べる問題を出題しておこう、というようなことがあるのではないか、という気がします。あるいは、できる限りオリジナルな問題で受験生の生の実力を見よう、ということなのかも知れません。従って、過去問で頻出だからよく練習しておこう、過去問で見当たらないから無視しよう、という方針で準備をすると、試験会場で、入試準備が役に立たずに愕然とする、ということが往々にして起こり得ます。
解答では、設問ごとに連立方程式を立てて解いていますが、スイッチを開閉させたり、棒の固定を外したりするだけで回路そのものは問題を通して変わらないので、はじめから全ての回路要素を入れた連立方程式を立て、

 ・・・E
 ・・・F
を得ておいて、E式でとすればT(2)の答えが出てきます。解答のUでは、として(1)の答えを求め、として(2)の答えを求めました。
もっとも、本問が回路方程式を解くだけの技術的な問題かと言うと、そういうわけではなく、U
(2)で棒が等速運動することから棒に働く電磁力がゼロ、つまり、棒を流れる電流がゼロ、ということを見破る必要があり、物理的な考察も必要な問題です。試験時間が150分で理科2科目なので軽めの問題が多いのですが、技術的なことも要求しながら、物理的考察も要求する、というのが東大物理の特徴と言えます。東大制覇のためには、物理の理論的側面にばかり目を奪われるというのではなく、それなりに受験技巧的なもの、また、教科書に載っていることであれば一通り全般的に見ておく、という準備が必要です。かなり前ですが、過去には交流なども本格的に扱われたことがあります。時間の有効活用のためにムダなものはやらないということではなく、高校の範囲にあるものは基本常識として身につけておこう、という寛大な学習態度が求められていると考えてください。



[3](解答はこちら) 最近、ドップラー効果の入試問題は1次元的なものばかりで、斜め方向のドップラー効果を扱う問題を見かけませんでした。そこで2010年の入試では、難関大学で出題するところがあるだろう、と、予測していたら、案の定、東大が出題してきました。本問は基本的な問題なので、初めて取り組む、という受験生でも、それほどまごつくことはなかったと思います。ドップラー効果というよりも、むしろ本問の最後の近似の仕方を手間取った受験生の方が多かったことでしょう。
過去問をよく研究している受験生に申し上げたいことは、過去に出題されているから準備をしておくべき、というのではなく、過去に出題されていないテーマの方に注意をして欲しい、そして、物理の教科書で採り上げられている内容については、過去に出題されていないから無視、ということをせずに、あまねく勉強しておくべきだ、ということです。また、教科書・参考書の記述の暗記に走るのではなく、本問解答のように、振動の様子を絵に描いて、実際の振動を目で見ているかのように考えるようにしてください。試験場で、覚えてきたことを再現するのではなく、問題文に記述されている状況に物理法則を適用して、試験会場でこそ、研究者の気分を味わいながら、物理を実践してみて頂きたいのです。
さて、本問は、ことし南アフリカでサッカーのワールド・カップが開催されるので、サッカー場をネタにしたのかも知れませんが、理系の受験生も新聞記事などに充分注意しておくべきだ、ということを申し上げたいと思います。
斜め方向のドップラー効果の問題は、本問のように、直線運動する物体の発する音をその直線上以外の所から観測する、というタイプと、円運動する物体の発する音を外から観測する、というタイプの
2種類あります。音源が直線運動する問題が出たので、来年は、音源が円運動する問題が要注意です。このタイプの問題では、円運動する物体の速さをvとして、観測者に向かう方向の速度成分 (は、物体の速度と観測者に向かう方向とのなす角)が時間変化することに注意します。物理の他分野でも、こういう感じで、入試問題の予測をして頂きたいと思います。
さて、日本人のアマチュア天文家により
2005年に発見された超新星が、実は連星の片方が恒星の寿命を迎えて超新星爆発をしたものであった、というニュースが最近伝えられました。連星というのは、2個の星がペアになって相互に影響し合いながら円運動している天体です。どうして、超新星爆発を起こした星が連星の片方だったとわかったのでしょうか?詳しい研究内容はわかりませんが、円運動する恒星の速度変化によるドップラー効果が検出されたのではないでしょうか?上記のが時間変化し、ドップラー効果による振動数のずれが時間変化すると、うなりの振動数も時間変化を起こし、連星から地球に到達する光の強度が時間変化するようになります。来年度の入試では、こうしたストーリーの問題が出題されそうな気がします。今までも、重力レンズ、宇宙ヨット、彗星の木星への衝突、小惑星の地球への衝突など、ニュースで伝えられる天体現象は、入試のテーマとして採り上げられてきました。
円運動する物体が起こすドップラー効果の問題を練習しておいて欲しい、ということもそうなのですが、科学関係のニュースにも充分目を光らせておいて頂きたいのです。科学関係のことがらが何かニュースに出る、ということは、そのニュースに関連した内容を研究テーマとしている研究者がいるということです。こちらをご覧の皆さんには、その研究者が入試問題を作るのであれば、どういう問題を作るか、ということを、ぜひお考え頂きたいと思います。ニュースなんて理系の受験生には関係ない、と、思ってしまう受験生は、残念ながら難関大学向きとは言えません。



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