東大物理'24年前期[2]

固体中に電荷が固定された物体をエレクトレットと呼ぶ。エレクトレットは振動のエネルギーを電気エネルギーとして取り出す振動発電などの分野で利用されている。以下では、電荷を帯びた金属板が誘電体中に固定された物体をエレクトレットのモデルとする。
2-1のような装置を考える。水平な床の上に幅と奥行きがLで厚さの無視できる正方形の金属板(下電極)を固定した。その上に幅と奥行きがLで厚さがの直方体の形状で、中央に金属板が埋め込まれた誘電体を固定した。埋め込まれた金属板は幅と奥行きがLで厚さが無視でき、一定の電荷を帯びている。誘電体の誘電率はεである。上端を固定したばね定数kの絶縁体のばねを用いて、幅と奥行きがLで厚さの無視できる質量mの金属板(上電極)を誘電体の直上に吊り下げた。すべての金属板と誘電体は上方から見て重なっている。上電極は誘電体と平行を保ちながら上下方向に動かすことができる。上電極と下電極は抵抗とスイッチを介して導線でつながれている。この装置は真空中に置かれている。真空の誘電率はである。重力加速度をとする。
上電極の位置を表すために、誘電体の上面からわずかに上の位置をにとり、鉛直上向きに
z軸をとる。上電極の位置がのとき、上電極と誘電体上面の距離は無視できるほど小さい。電荷は、導線を介して上電極と下電極の間でのみ移動する。
初期条件で、図
2-1のようにスイッチは開いており、下電極は電荷を帯びていた。上電極は電荷を帯びておらず、つりあいの位置で静止していた。
これらの金属板で作られたコンデンサーを含む回路について、以下の設問に答えよ。ただし、金属板の面積は十分に大きく、端の効果は無視できるものとする。上電極につながれた導線は上電極の運動には影響しない。電荷の移動や金属板の振動に伴う電磁波の発生は無視できる。


T はじめ、図2-1に示したように下電極はの電荷を帯びており、スイッチは開いている。上電極はつりあいの位置にあり、電荷を帯びていない。

(1) 誘電体に埋め込まれた金属板の電位を求めよ。下電極を電位の基準(電位0)とする。

次に、図2-2()のように、上電極をの位置に固定し、スイッチを閉じた。十分長い時間が経過すると、上電極の電荷は一定になった。

(2) 上電極の電荷を求めよ。

続いて図2-2()のように、スイッチを開いた後、上電極に外力を加え、ある位置までゆっくり移動させた。その位置で上電極を自由に動くようにしたところ、図2-2()のように静止したままであった。

(3) 上電極の電荷を求めよ。

(4) 上電極の電位を求めよ。下電極を電位の基準(電位0)とする。

U 次に、図2-3()()()→・・・→()()で示される順に上電極を動かしながらスイッチを開閉したときの電荷の移動や抵抗の発熱を調べよう。

(1) を求めよ。

2-3()のようにスイッチを閉じたところ抵抗に電流が流れ発熱した。十分長い時間ののち発熱はやみ、上電極の電荷量が一定の値となった。

(2) スイッチを閉じている間の抵抗の発熱量の合計を、kを用いずを含む式で答えよ。

2-3()のように上電極におもりをのせてスイッチを開き、上電極が自由に動くようにしたところ、上電極は下降を始め、誘電体に衝突することなく速度が0になった。図2-3()のように、最低点はであった。その位置で上電極がそれ以上動かないように固定した。

(3) おもりの質量を求めよ。

2-3()のようにおもりを取り除いてスイッチを閉じたところ抵抗に電流が流れ発熱した。十分に長い時間の後に発熱はやみ、図2-3()に示されるはじめの状態に戻った。

(4) 2-3で示される1サイクルについて、抵抗の発熱量の合計を、kを用いず、を含む式で答えよ。


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解答 電荷が残る孤立した節点を持つコンデンサー回路にばねによる単振動が組み合わされた問題です。丁寧に考察を進める必要があります。

本問では、ばねの力をつり合いの位置からの変位で考えます。鉛直に置かれたばねに質量
mのおもりを吊り下げてdだけばねが自然長から伸びたとします。力のつり合いより、

ここで、さらにおもりに外力f を加えて、ばねがさらに伸びたとします。力のつり合いより、
これを、なので、
つまり、つり合いの位置からのばねの伸びによる力f がつり合っているとして考えます。なので、の中には重力が含まれています。そこで、以下では、つり合いの位置からの変位で考えたばねによる力を「ばねの弾性力+重力」と表現します。


T(1) の部分の電場は、正電荷を持つ下電極から負電荷を持つ金属板に向う向きです。この部分では電位zの増加に伴って低くなります。下電極と金属板の間にできているコンデンサーの静電容量はで、コンデンサーは電荷Qを蓄えており、金属板と下電極の間の電圧をVとして、
 ∴
金属板の電位は下電極よりもVだけ低く、下電極を基準とした金属板の電位は、 ......[]

(2) 上電極の電荷をとすると、下電極の電荷はです。上電極と金属板の間にできているコンデンサーの静電容量もです。金属板と上電極の間の電圧、金属板と下電極の間の電圧は等しいので、
 ∴
上電極の電荷は正電荷で、 ......[]
注.上電極と金属板の間にできているコンデンサーと、下電極と金属板の間にできているコンデンサーは、両端の電位が等しいので並列で合成容量です。合成されたコンデンサー両端の電圧は1個のコンデンサーが蓄える電荷は、です。

(3) 金属板と上電極の間は、誘電体上面に薄い金属板があるとして、金属板と誘電体上面の間の誘電体がある部分のコンデンサー(静電容量)と誘電体上面と上電極の間の真空中の部分のコンデンサーに分けて考えます。スイッチを開いた後、上極板には電荷が取り残されています。上電極がの位置で静止しているとき、金属板から誘電体上面、そして上電極に向って電位は高くなり、電場の向きは下向きです。誘電体上面と上電極の間の部分にできているコンデンサーの静電容量はです。コンデンサーが蓄える電荷はです。誘電体上面と上電極の間の電圧は、
 ・・・@
ここにできている電場の強さは
(向きは下向き)
電場が上電極に及ぼす電気力の大きさは、
 ・・・A
向きは下向きです。ばねはつり合いの位置から伸びており(ばねが縮んでいる場合は、電気力もばねの力も下向きで、上電極は静止しません)、ばねの弾性力+重力f ()、図2-2()における力のつり合いより、
......[] ・・・B

(4) 下電極と金属板の間の電圧は、,金属板と誘電体上面の間の電圧もです。下電極よりも金属板の方が電位は低く、金属板よりも誘電体上面の方が電位は高くなります。下電極の電位を0とすると、金属板の電位は,誘電体上面の電位は0,誘電体上面と上電極の間の電圧は@ので、上電極の電位はとなり、
......[]

U 図2-3()の状況は、Tの図2-2()の状況と同じです。T(2)と同じく、上電極の電荷は,図2-3()で、スイッチを開いて上極板の電荷を動けないようにして、上電極を自由に動くようにすると、上極板と誘電体上面との間にできる電場が上電極に及ぼす電気力はAより、下向きに大きさです(コンデンサーの極板間の電場が極板上の電荷に及ぼす力は一定です)。上極板のz座標をzとして、ばねのつり合いの位置からの伸びは、です。ばねが上極板に及ぼす弾性力+重力は、上向きにです。上極板の運動方程式は、上極板の加速度をaとして、
 ・・・C
よって、上極板は、角振動数,振動中心(T(3)で求めた電気力+重力+電気力のつり合いの位置です)単振動をします。

(1) 2-3()()の状況が単振動の振動端で、上電極の速度が0になった図2-3()()の状況がもう一つの振動端です。2つの振動端の中点は振動中心なので、であり、Bより、
......[]

2-3()()の状況で、誘電体上面と上電極の間にできるコンデンサーの静電容量は、T(3)として、です。金属板と上電極の間は、静電容量のコンデンサーと静電容量のコンデンサーの直列接続になっており、合成容量は、
より、です。
スイッチを閉じて電流が流れ十分時間が経過した後、図
2-3()の状況で、金属板と上電極の間のコンデンサーの電荷がになると、下電極と金属板の間のコンデンサーの電荷は、になります。
金属板から上の直列のコンデンサーと、金属板から下のコンデンサーは並列接続状態になっていて、電圧が等しいので、
 ∴
問題文に「を含む式で答えよ」とあるので、を使って考えます。です。
2-3()の状況で、下電極と金属板の間のコンデンサーも、金属板と上電極の間のコンデンサーも電荷を蓄えているので、コンデンサーが蓄えている全静電エネルギーは、
スイッチを閉じて電流が流れ十分時間が経過した後の全静電エネルギーは、

(2) 抵抗の発熱量は、コンデンサーが失った静電エネルギーに等しく、
より、
......[]

(3) 上電極がに来ても、上電極と誘電体上面の間に無視できるほど小さくても、距離が残っているという問題文の指定に注意します。つまり、このときにも誘電体上面と上電極の間のコンデンサーは残っています。上電極のz座標がzのとき、上電極と誘電体上面の間にできているコンデンサーの静電容量はです。コンデンサーは電荷を持っているので、このコンデンサーの極板間電圧は、,極板間の電場の強さは、(向きは下向き),このとき電場が上極板に及ぼす電気力の大きさは、
 (下向き)
注.この電気力は、誘電体上面と上電極の距離が無視できるほど小さくでも一定であることに注意します。
上電極の電荷がのときの運動方程式Cと比べて、上電極のz座標がzのときのばねの弾性力+重力は変わらず、電気力はとなり、おもりの質量をMとしておもりに働く重力が加わり、上電極の運動方程式は、

となり、やはり単振動ですが、問題文の「最低点はであった」という記述から、この単振動は、Cと同じく、を振動中心とする単振動でなければなりません。よって、

......[]

(4) 2-3で示される1サイクルで、装置が受ける仕事は、おもりに働く重力がする仕事、即ち、おもりの位置エネルギーです。抵抗で発生する発熱量は、おもりの位置エネルギーの減少分であるとして、(3)の結果を用いて、
......[]



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