阪大物理'23年前期[3]

以下のABの両方の問題に解答せよ。なおABは独立した内容の問題である。

A.図1のように熱を通さない物質でできた2つの風船をつなぎ合わせた気球がある。一方の風船には単原子分子理想気体である気体A,もう一方の風船には二原子分子理想気体である気体Bが入っている。風船はそれぞれ密閉されていて気体ABは混合しない。風船の材質は力を伴わずに伸び縮みできるので、風船内の気体の圧力は大気圧と常に一致しているとする。2つの風船の接続部には遠隔制御できるヒーター、冷却器、断熱板がある。断熱板を開いているときは、気体ABは互いに熱を交換できる。断熱板を開いた状態でヒーターや冷却器を用いると、両気体の温度を一致させたまま温度をゆっくりと変化させることができる。気体を構成する物質のうち、気体AB以外の部分の質量、体積、熱容量は考慮しなくてよい。温度はすべて絶対温度とする。
気体
ABの物質量、モル質量、定積モル比熱、定圧モル比熱を表1に示す。Rは気体定数、モル質量は1モルあたりの質量である。大気はモル質量がMの理想気体であるとする。地面からの高度が高くなるほど大気の圧力や密度は小さくなるが、気体ABの状態を計算する場合には気球の中心高度に対応する大気圧を気体の圧力として用い、各風船内で圧力や密度が一様であるとしてよい。風の影響はないものとする。地上の大気の圧力は,温度はであった。重力加速度の大きさをとし、高度によらず一定とする。

T.最初、図1のように気球は地面に着地しており、気体ABの温度は大気の温度と同じであった。断熱板を開いた状態でヒーターを用いて気体ABを同時に温めたところ、温度がになったときに気球が地面を離れて浮き始めた。以下の問にnMRのうち必要なものを用いて答えよ。

1 気球が浮き始めたとき、気球に働いている単位体積あたりの浮力の大きさを求めよ。

2 を求めよ。

3 温度がからになるまでにヒーターが気体ABに与えた熱量の合計を求めよ。

 表1 風船内の気体に関する量
気体 物質量モル質量定積モル比熱定圧モル比熱
気体A(単原子分子理想気体)n
気体B(二原子分子理想気体)n

U.つぎに、気球が上昇していかないようにひもで地面に固定した。気体ABの温度がとなるまで温めた時点でヒーターを停止し、断熱板を閉じて気体ABの熱交換を遮断した。気球からひもを外したところ、気球は上空にゆっくりと上がっていき、ある高度で静止した。静止した気球の中心高度の大気圧は地上の大気圧のa倍であった。aの大きさの範囲はである。上空で静止したときの気体Aの温度を,気体Bの温度をとする。

4 nMaRのうち必要なものを用いて表せ。なお、気体ABの圧力変化は十分ゆっくりであるので、理想気体の断熱膨張過程では圧力(p)と体積(V)が「」の関係を満たすことを使用してよい。ここでγは定圧モル比熱を定積モル比熱で割った値である。

5 つづいて、上空で静止している気球の断熱板を開き、気体ABの温度が一致するまで熱交換を進めたところ、気球の高度が変わった。冷却器で両気体を冷やして温度をにすると、断熱板を開く前と同じ中心高度に戻って静止した。nMaRのうち必要なものを用いて表せ。ただし、を用いないこと。

B.一様で流れがない大気中を速さVで伝わる音を考える。音は大気中に静止した音源から、等方的に球面波として発せられる。観測者と音源の大きさは無視できるとし、音の伝わり方は音源により乱されないとする。図2の点Sで音源が振動数の音を発している。この音の振動数を、観測者が点Sから距離dだけ離れた点Oを中心とする半径の円軌道上で、図2のように反時計回りに角速度ωで等速円運動しながら観測する。このとき観測者が観測する音の振動数は、観測者と音源を結ぶ直線方向の速度成分を用いて求めることができる。観測者の位置を点Pの角度をθとする。観測者が、時刻の点を通過してから、この円を一周する間について以下の問に答えよ。音源からの音はで既に観測者に届いているとする。観測者の速さは音速より十分遅いとする。なお、観測者の加速度は十分小さいとし、音の振動数を計算する際は、その時点での観測者の速度を一定として計算せよ。また、角度の単位はラジアンとする。

6 観測者がの振動数を観測したのち、ふたたびの振動数を観測する最初の時刻を、Vdωrのうち必要なものを用いて表せ。

7 観測者が観測する音の振動数を求めるには、観測者の速度のSP方向(SからPに向う方向)の成分が必要である。角度θの位置における観測者のVdωrθのうち必要なものを用いて表せ。

ヒント:は観測者の速度ベクトルと、SP方向を表すベクトルとその大きさを用いて、のように内積を使って求めることができる。

8 問7の大きさを計算すると、となるθにおいて最大となることがわかった。このことを用い、次の文章のに入るべき数式を、Vdωrのうち必要なものを用いて解答欄に記せ。

観測者が最小の振動数を観測したときのの大きさは、と表される。したがって、観測者が観測する最小の振動数はと表される。

9 観測者が観測する最大の振動数を、Vdωrのうち必要なものを用いて表せ。

10 であるとき、観測者が最小の振動数を観測してから次に最大の振動数を観測するまでにかかる時間を、Vdωのうち必要なものを用いて表せ。


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解答 ABも目新しい問題です。A5は、浮力が同じ、と最初から気づかないと難問です(なお、熱気球を参照してください)Bは問題文のヒント通りに考えれば何とかなります。

A
1 気球の体積をV,地面付近の大気の密度をρとして、体積Vの中に入る大気の質量がであることから、アルキメデスの原理より、気球に働く浮力は、です。単位体積当たりの浮力の大きさは、
 ・・・@
大気が体積Vを占めるときの大気のモル数をとすると、地面付近の大気の状態方程式は、

大気のモル質量、つまり、1モルあたりの質量がMであることから、地面付近の大気の密度は、モルの大気の質量を体積で割って、
 ・・・A
よって、@より、単位体積当たりの浮力の大きさは、 ......[]

2 温度がとなり気球が上昇を始めたとき、風船Aの体積を,風船Bの体積をとすると、
風船A内の気体の状態方程式は、 ・・・B
風船
B内の気体の状態方程式は、 ・・・C
B,Cより、 ・・・D 
(断熱板が開いている状態では、気体Aと気体Bの体積は等しくなります)
大気が体積を占めるときの大気のモル数をとすると、地面付近では、大気の温度はであって、大気の状態方程式は、

気球に働く浮力の大きさはです。一方で、気球内の気体A,気体Bに働く重力の和は、であり、両者のつり合いより、

......[]

3 温度がからになるまでの風船内の気体の変化は、圧力がで一定なので定圧変化です。ヒーターが気体ABに与えた熱量の合計は、定圧モル比熱の式より、

......[]

4 温度がのときについて、断熱板が開いているのでDと同様に風船A,風船Bの体積は等しくこれをとおくと、風船内の気体の状態方程式は、 ・・・E
上空に上がったとき、風船内の気体の圧力はです。このとき、風船Aの体積を,気体Aの温度を,風船Bの体積を,気体Bの温度をとすると(気体ABの熱交換を遮断しているので、です)
風船
A内の気体の状態方程式は、 ・・・F
風船
B内の気体の状態方程式は、 ・・・G
F÷Eより、 ・・・H
G÷Eより、 ・・・I
問題文に書かれている
ポアッソンの関係式より、気体Aの比熱比(定圧モル比熱を定積モル比熱で割った値),気体Bの比熱比をとして、
風船
A内の気体について、
∴ 
風船B内の気体について、
∴ 
H,Iより、

......[]

......[]

5 まず、上空で断熱板を開いて気体Aと気体Bの温度が一致したときの温度をとすると、断熱板を開く前後で内部エネルギーが保存されることから、

となって、を求めることはできるのですが、からまで冷やす(なのでであり,実はです)過程がどういう変化なのかがわかりません。冷やしているから断熱変化ではなく、温度が変化するので等温変化でもなく、高度が変化するので圧力も変化し定圧変化でもなく、体積も変化するので定積変化でもありません。つまり、変化を追っても、を求めることはできません。そこで、変化後について、考えてみます。
温度をにしたとき、断熱板を開く前と同じ中心高度に戻った、ということは、このときの気球内の圧力はだということです。断熱板が開いているのでDと同様にして風船
A,風船Bの体積をとおくと、風船内の気体の状態方程式は、
 ・・・J
J÷Eより、 ・・・K
ここで、気球に働く浮力の大きさを求めるために、大気が気球内にモルあるとして、状態方程式を立てたくても、大気の方の温度
(ではありません)が分からないので、が求められません。また、上空大気のモル質量も与えられていません。つまり、気体の状況からは浮力の大きさを求められないのです。ですが、気球に働く浮力重力つり合いの式は立てることができます。
この高度の大気の密度をとすると、浮力の大きさは両風船の体積を用いてと書けます。気球内の気体に働く重力は、問
2で考えたようにです。力のつり合いより、
 ・・・L
温度がのときも、気球は温度のときと同じ高度なので、大気の密度はやはり,風船ABの体積はなので、浮力の大きさはと書けます。気球内の気体に働く重力は変わらずです。力のつり合いより、
 ・・・M
L,Mより、 (つまり、力がつり合っている状況、静止あるいは等速度運動の状況では、浮力は同じ値)
 ・・・N
K,H,Iより、

......[]

B
6 観測者Pの振動数を観測するのは、観測者が右図のにいて、観測者Pの速度方向成分が0だからです。つまり、観測者Pの速度の方向成分が0になるときには、観測者Pの振動数を観測することになります。の次に、観測者Pの速度の方向成分が0になるのは、観測者Pを一端とする直径の他端に来たときです。このときですが、ここに来るまでの時間は観測者の等速円運動の角速度がωなので、 ......[]

7 問題文中ヒントの内積を利用すると、右図で、Oを原点とし方向をx軸、それと垂直な方向をy軸とする座標系をとると、


より、

よって、 ......[]
別解.右図で正弦定理より、
余弦定理より、
よって、

8 は音源Sから遠ざかる方向が正なので、観測される振動数f は、ドップラー効果の公式より、
 ・・・O (7の結果によってを考えれば、においても、なのでこの式は成立します)
O式より、が最大になるとき観測者が観測する振動数が最小で、が最小のとき観測者が観測する振動数が最大になります。
問題文より、のときに最大になりますが、問
7の結果でとすると、の最大値は、より、
 ・・・P (右図では、このときであって、となっています)
よって、観測者が最小の振動数を観測したときのの大きさは、 ......(a)
観測者が観測する最小の振動数は、O式でとして、
......(b)
注.問題文のヒントを検証すると、問7としてθで微分して、

とすると、なので(なのでにはなり得ません)
においてを満たす
θ
においてを満たす
θ
とすると、増減表は以下のようになります。において
θ→大で→小、に注意してください。
θ 0  π  
1     1
00
000

増減表より、のときは最大値をとり、のときは最小値をとることが分かります。ですが、試験場で問題文中にヒントとして与えられていることを確認するようなことを始めてしまうと、合格は難しくなるかも知れません。

9 観測される振動数が最大となるのは、Oよりが最小のときですが、これは観測者が右上図のに来たときで、このときとなり、Pと同様に、 (は遠ざかるとき正なので、負になるということは、は音源に近づく方向です)となります。観測者が観測する最大の振動数は、ドップラー効果の公式Oにおいてとすることにより、
......[]

10 のときを最大とするは、問8よりです。このとき、においては、です。問8・問9での検討より、のときの観測者の位置は右図ので、ここで観測される振動数が最小になります。のときの観測者の位置は右図ので、ここで観測される振動数が最大になります。よって、観測者が最小の振動数を観測してから次に最大の振動数を観測するまでにかかる時間は、観測者の等速円運動の角速度がωであることから、 ......[]



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