京大物理'07年前期[2]

次の文を読んで、文中の  に適した式を、それぞれの解答欄に記入せよ。また、問1では指示にしたがって所定の解答欄に記入せよ。

磁石を傾斜したアルミニウム板の上で滑らせると、力学的摩擦が無視できる場合でも、磁石の滑り落ちる速さは短時間のうちにほぼ一定値に達する。これは、磁石の運動にともなってアルミニウム板の内部にうず電流が生じ、このうず電流から磁石が力を受けるために起こる現象である。以下の装置は、この現象をモデル化したものである。

1のように、水平面に対し角度θ で傾斜させた滑り台上のプラスチックの板の上から、質量mの磁石を滑らせる。磁石の大きさは幅a,長さbで、厚みは薄いものとする。また磁石の真下には磁石の底面に垂直下向きの強い一様な磁束密度Bが生じており、その他の位置への磁束密度はここでは考慮しないことにする。板には磁石がなめらかに滑るような幅aの溝があり、溝の底面には幅a,長さb,電気抵抗Rの長方形の閉じた電線(一巻きのコイル),・・・,,・・・が、お互い電気的に絶縁されてすき間なく多数埋め込まれている。電線の太さは無視できるものとし、またコイル間の相互インダクタンスは無視でき、コイルの自己インダクタンスも十分に小さく、誘導起電力に応じて電流は十分早く変化するものとする。重力加速度をgとし、磁石と板との間の摩擦力および空気抵抗は無視できるものとする。

この状況では、滑り出して一定時間の後には、磁石の運動は、近似的に等速度運動になる。このときの速度を終端速度という。


(1) まず、磁石が速さVの終端速度で運動する場合を考える。
上からn番目のコイルの上端に磁石が達した時刻をとし、それを基準に測った時刻をtとする。このとき、コイルを貫く磁束は、のときのとき イ ,その他の時刻では0となる。コイルに誘導される電流は、上から見て時計回りを正方向にとると、のとき ロ となり、のとき ハ となる。したがって、磁石がコイルにおよぼす力は、傾斜した板の表面に沿って下向きを正にとると、のとき ニ であり、のとき ホ である。
このことから、すべてのコイルから磁石が受ける力
Fは、斜面に平行に下向きを正に取ると、と表すことができ、 ヘ となる。磁石に働く重力も考慮すると、速さは ト と求められる。( ヘ  ト FCVを用いずに表せ。)

(2) 次に、磁石を静止状態からで静かに離した後、速度が終端速度(大きさV)に近づく様子を考える。((1)の場合とは時刻の原点が異なることに注意せよ。)
時刻tにおける磁石の速さをとすると、(1)の場合と同様に、コイルから磁石が受ける力Fは、 ヘ を用いて、と表すことができる。(Fおよびは、斜面に平行に下向きを正にとるものとする。)

したがって、微小時間を用いて、tからまでの平均加速度をで表すと、磁石に関する運動方程式は チ と書ける。( チ Cを含む式で表せ。)ここでVとの差に注目しとおくと、この運動方程式より、wに比例し、 リ wと書き表せる。( リ mCを用いて表せ。)

この方程式と同様の式で表される現象の一つに原子核の崩壊がある。原子核の崩壊においては、時刻tにおける原子核の個数をとすると、十分に短い時間の間の変化率に比例し、正の係数β を用いてと表せる。このようなは、と書けることが知られている。(は自然対数の底である。)

したがって、 リ wから、 ヌ と求められる。( ヌ Cを含む式で表せ。)次に、磁石がどのように終端速度に近づいていくかを考える。まず、,すなわち、となる時刻を考えると、mCを用いて、 ル と表される。このを緩和時間という。を用いると、ではではとなり、磁石の運動が速さVの等速度運動に近づいていくことがわかる。

1 の場合について、(a) 終端速度の大きさV,および、(b) 緩和時間を計算し、それらの値を、有効数字2けたで単位をつけて、それぞれ所定の解答欄(a)(b)に記入せよ。


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解答 教育的配慮に富む問題で、問1の数値計算が付加されているのは、受験生に自分で実験をしてみたらどうかと示唆しているのでしょう。

(1)  における磁束Φは、コイルと磁石の重なっている部分の長方形は、幅a,長さなので、面積は,よって、 ・・・@
において、磁石はコイルと完全に重なり、重なる部分の面積は,よって、
において、磁石の下端がコイルの下端からだけ行き過ぎています。コイルと磁石の重なっている部分の長方形は、幅
a,長さなので、面積は、よって、 ・・・A
......[]
磁束Φと時間tの関係は右図のようになります。
 電磁誘導の法則より誘導起電力,コイルを貫く磁束Φ増加するとき、コイルには、レンツの法則より上向き磁界を作る方向に起電力が発生するので、反時計回り電流が流れます。時計回りを正とするので、このときの電流です。従って、コイルに流れる電流は符号も含めて、
における誘導電流は、@より、
......[]
 における誘導電流は、Aより、
......[]
 において、フレミング左手の法則より、コイルの上端の辺を流れる電流は、磁石から、斜面に沿って下向き(符号は)を受けます(右図(a))。この力は符号も含めて、,コイルの左辺、右辺に働くは等大逆向きでつり合います。
......[]
 において、コイル下端の辺を流れる電流は、磁石から、斜面に沿って下向き(符号は)を受けます(右図(b))。この力の大きさは、()と同じです。また、コイルの左辺、右辺に働くは等大逆向きでつり合います。
......[]
 磁石がをまたぐような位置にあるとき、磁石は()()で求めた反作用を受けます。の下端の辺との上端を流れる電流が受けると同じ大きさで逆向きのの合力は、符号も含めて、()()の結果より、

......[
]
 磁石は等速度運動しているので、磁石に働く力のつり合い(右図(c))より、 ・・・B

......[
]

(2)  磁石に働くは、()と同様に、 ......[]
 運動方程式は、 ・・・C
とおくと、
これらとBより、Cは、

 ・・・D
......[]
 のときに、となることから、Dでβ と見て、

のとき、より、
 ・・・E
......[]
 のとき、Eにおいて、

......[
]

1 Bより、と書けるので(b)を先に求める方がラクです。
()()の結果を用いて、


(a) ......[] (b) ......[]
1の結果より、ほぼ、あっという間に秒速30cm程度の等速度運動に移行してしまうことがわかります。


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