京都大学2007年前期物理入試問題


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[1] 次の文を読んで、  には適した式を、  には適切な語句を、{  }には図36つのグラフから適切なものを選びその番号を、それぞれの解答欄に記入せよ。また、問1,問2では指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄の枠内に記入せよ。

1のように、滑らかな面の上で静止している質量の物体1に向かって、質量の物体2を初速で打ち出したとき、衝突によって物体1が受ける衝撃が、緩衝装置によってどのように弱められるかを考える。物体の大きさは無視でき、運動は図の左右一方向のみとし、空気抵抗や面からの摩擦力はないものとする。緩衝装置のモデルとして、図2のような3種類を考える。モデル(a)は、ばね定数Kのばねである。モデル(b)では、自由に空気が出入りできる穴のあるピストンがシリンダー内を動き、シリンダーから一定の大きさFの動摩擦力を受けるものとする。モデル(c)では、穴のあるピストンが、油のつまったシリンダー内を動き、シリンダーに対する相対的な速さに定数Cを乗じた大きさの粘性力を受けるものとする。衝突の間、これらの緩衝装置が縮みきってしまうことはないとする。以下、緩衝装置の質量およびに比べて十分小さいものとし、力、速度、加速度などのベクトル量は、図の右方向を正として表す。

(1) 緩衝装置の右端と左端がそれぞれ物体1と物体2におよぼす力をとする。まず、緩衝装置の全質量に比べ十分に小さいときは、としてよいことを以下で確認しておこう。 ア の法則より、緩衝装置が物体1と物体2から受ける力はそれぞれである。よって緩衝装置が受ける外力の和はであり、それは緩衝装置の重心の加速度に イ をかけたものに等しい。緩衝装置の重心の加速度は物体1や物体2の加速度と同程度の大きさであるので、およびに比べて十分小さいとき、およびに比べて無視してよいのである。

(2) 次に、物体1と物体2の相対運動について考える。(1)で確認したことより、物体1と物体2の加速度をとし、fとおくと、運動方程式はそれぞれと書ける。この2つの式の両辺をそれぞれで割り、それらの差をとると、 ウ となる。この式は、が物体2に対する物体1の相対運動の加速度aであることに注意すると、という形に書ける。ここで、mは換算質量と呼ばれ、により エ と表される。すなわち、質量が2つの物体の相対運動は、質量がm1つの物体の運動と同じ方程式にしたがう。

(3) 以上のことから、モデル(a)(b)(c)の各場合に物体1が受ける力を時間の関数としてグラフに示すと、それぞれ図3{ オ }{ カ }{ キ }となる。モデル(a)(b)(c)の各場合に、物体1が力を受けている時間はそれぞれ ク  ケ ,無限大であり、力の最大値はそれぞれ コ  サ  シ である。( ク  シ ではmを用いてもよい。必要ならば、物体が速度に比例し速度と逆向きの力を受ける場合、速度の絶対値は時間とともに指数関数的に減少することを用いよ。)

1 モデル(a)の場合、衝突後十分な時間がたったあとの物体1の速度は、ばね定数Kに依存しない。その理由を簡潔に述べよ。

2 静止している自動車に別の自動車が追突した。乗客は幸い無事であったが、自動車は2台ともかなりつぶれてしまった。このとき、静止していた自動車の乗客が衝突によって感じる、水平方向の加速度の最大値はいくらか。解答にいたる過程を説明したうえで、有効数字2けたで解答せよ。自動車の質量はいずれもkg,追突した自動車の初速は時速18kmであり、2台の自動車は衝突部分がつぶれて25cmずつ短くなった。つぶれた部分を緩衝装置とみなし、モデル(b)で解析せよ。2台ともブレーキをかけておらず、地面との摩擦は無視でき、また、自動車のつぶれた部分および乗客の質量は無視できるとする。
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[2] 次の文を読んで、文中の  に適した式を、それぞれの解答欄に記入せよ。また、問1では指示にしたがって所定の解答欄に記入せよ。

磁石を傾斜したアルミニウム板の上で滑らせると、力学的摩擦が無視できる場合でも、磁石の滑り落ちる速さは短時間のうちにほぼ一定値に達する。これは、磁石の運動にともなってアルミニウム板の内部にうず電流が生じ、このうず電流から磁石が力を受けるために起こる現象である。以下の装置は、この現象をモデル化したものである。

1のように、水平面に対し角度θ で傾斜させた滑り台上のプラスチックの板の上から、質量mの磁石を滑らせる。磁石の大きさは幅a,長さbで、厚みは薄いものとする。また磁石の真下には磁石の底面に垂直下向きの強い一様な磁束密度Bが生じており、その他の位置への磁束密度はここでは考慮しないことにする。板には磁石がなめらかに滑るような幅aの溝があり、溝の底面には幅a,長さb,電気抵抗Rの長方形の閉じた電線(一巻きのコイル),・・・,,・・・が、お互い電気的に絶縁されてすき間なく多数埋め込まれている。電線の太さは無視できるものとし、またコイル間の相互インダクタンスは無視でき、コイルの自己インダクタンスも十分に小さく、誘導起電力に応じて電流は十分早く変化するものとする。重力加速度をgとし、磁石と板との間の摩擦力および空気抵抗は無視できるものとする。

この状況では、滑り出して一定時間の後には、磁石の運動は、近似的に等速度運動になる。このときの速度を終端速度という。


(1) まず、磁石が速さVの終端速度で運動する場合を考える。
上からn番目のコイルの上端に磁石が達した時刻をとし、それを基準に測った時刻をtとする。このとき、コイルを貫く磁束は、のときのとき イ ,その他の時刻では0となる。コイルに誘導される電流は、上から見て時計回りを正方向にとると、のとき ロ となり、のとき ハ となる。したがって、磁石がコイルにおよぼす力は、傾斜した板の表面に沿って下向きを正にとると、のとき ニ であり、のとき ホ である。
このことから、すべてのコイルから磁石が受ける力
Fは、斜面に平行に下向きを正に取ると、と表すことができ、 ヘ となる。磁石に働く重力も考慮すると、速さは ト と求められる。( ヘ  ト FCVを用いずに表せ。)

(2) 次に、磁石を静止状態からで静かに離した後、速度が終端速度(大きさV)に近づく様子を考える。((1)の場合とは時刻の原点が異なることに注意せよ。)
時刻tにおける磁石の速さをとすると、(1)の場合と同様に、コイルから磁石が受ける力Fは、 ヘ を用いて、と表すことができる。(Fおよびは、斜面に平行に下向きを正にとるものとする。)

したがって、微小時間を用いて、tからまでの平均加速度をで表すと、磁石に関する運動方程式は チ と書ける。( チ Cを含む式で表せ。)ここでVとの差に注目しとおくと、この運動方程式より、wに比例し、 リ wと書き表せる。( リ mCを用いて表せ。)

この方程式と同様の式で表される現象の一つに原子核の崩壊がある。原子核の崩壊においては、時刻tにおける原子核の個数をとすると、十分に短い時間の間の変化率に比例し、正の係数β を用いてと表せる。このようなは、と書けることが知られている。(は自然対数の底である。)

したがって、 リ wから、 ヌ と求められる。( ヌ Cを含む式で表せ。)次に、磁石がどのように終端速度に近づいていくかを考える。まず、,すなわち、となる時刻を考えると、mCを用いて、 ル と表される。このを緩和時間という。を用いると、ではではとなり、磁石の運動が速さVの等速度運動に近づいていくことがわかる。

1 の場合について、(a) 終端速度の大きさV,および、(b) 緩和時間を計算し、それらの値を、有効数字2けたで単位をつけて、それぞれ所定の解答欄(a)(b)に記入せよ。
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[3] 次の文を読んで、  には適した式を、{  }には正しい番号を一つ選び、それぞれの解答欄に記入せよ。また問1,問2,問3には適切な説明を所定の枠内に記入すること。

熱力学は気体だけではなく、さまざまな対象にも適用することができる。本問ではひも状の物体の熱力学を考えてみよう。あるひも状の物体を引き伸ばし、長さがからの範囲内で張力
Xを測定したところ、Xは長さLに依存せず、絶対温度Tおよび正の定数Aを用いてと表された。この物体の変形としては、Lからの範囲内にある一次元的な伸縮のみを考え、また内部エネルギーUは正の定数Cを用いてとなるとして、以下の問いに答えよ。

(1) この物体に外から微小仕事を加えて微小量だけ伸ばしたときに、という関係式が成り立つ。吸熱量を,内部エネルギーの変化をとしたとき、熱力学第一法則よりは、ATを用いて あ と表される。一方より、物体を伸ばしたときの温度変化を用いて、内部エネルギーの変化は い とも書ける。
断熱的に物体をゆっくりと微小量伸ばしたときの温度変化は、CATを用いて表すと う となり、温度は{:@ 下降する。 A 変わらない。 B 上昇する。}ただし、とする。

(2) さて、この物体を断熱的にゆっくりと伸ばした。そのときが一定であった。ここで、Tの自然対数である。

1 この理由を述べよ。ただし、正の変数Tまでわずかに変化させたときのの変化量をと表すと、が成り立つことを用いてよい。

(3) 次に、同じ物体を温度Tに保ったまま、長さからLまでゆっくりと変化させたときに物体に外から加えられた仕事は お であり、その間の吸熱量は か である。ただし、 お および か ATLのみで表すこと。

(4) 1のように横軸を物体の長さLとし、縦軸を温度Tとしてこの物体の状態変化を表す。物体を温度に保ちゆっくりと等温変化をさせ、その後ゆっくりとまで断熱変化させ、さらに温度でゆっくりと等温変化をさせた後に、断熱的にゆっくりと温度の初めの状態に戻すサイクルを考えよう。高温熱源(温度)から熱を吸収して仕事をし、低温熱源(温度)に熱を放出するようなサイクルは、{:@ (a)を時計回りに回る。 A (a)を反時計回りに回る。 B (b)を時計回りに回る。 C (b)を反時計回りに回る。}

2 このサイクルでは、が等しくなる。その理由を述べよ。

(5) 一般にサイクルでの熱効率は、物体がサイクルを通じて外にする正味の仕事を、高温熱源から吸収する熱量で割った量として導入される。よって、サイクルを動かす間の熱効率は、とサイクルを動かす間に放出する熱量を用いて く と書ける。

3 これまでの結果を用いて、(4)のサイクルの熱効率がとなる理由を説明せよ。
[解答へ]




各問検討

[1](解答はこちら) 大した問題のようには見えないのですが、細部を気にし出すと、なかなか意地悪にできている問題なので、試験場で錯覚してハマってしまい易い問題です。基本に忠実に考えていけば何でもないことであっても、基本から離れてしまうと、ミスし易くなります。本問のような問題では、混乱しそうになればなるほど、教科書に書かれている基本的な物理法則に則して考えるように努力して欲しいと思います。
問題は、
(3)()()ですが、グラフは、あまり深く追求せずに、()は、ばねの単振動だからC,()は、一定の動摩擦力が働くからB,()は、問題文に「物体が速度に比例し速度と逆向きの力を受ける場合、速度の絶対値は時間とともに指数関数的に減少する」というヒントがあるのでA,と直感的に解答してしまうのがよいかも知れません。あとは、グラフを見ながら考えて、単振動の周期と振幅を考え、等加速度運動の公式を適用すれば答えが出ます。
2は、「乗客が衝突によって感じる、水平方向の加速度の最大値」を求めよ、ということなので、問題文が何を要求しているのか、じっくりと考えてから解答する必要があります。たかが等加速度運動の問題なのですが、こうして実地のテーマを題材にすると、受験生には難しく感じるかも知れません。
よく、教育評論家が、大学入試は机上の空論ばかりを問題にしていて、現実的なテーマを扱わない、と、気安く批判するのですが、受験生が試験会場で取り組めるようなレベルの問題にするためには、問題にいろいろな制約をつけなければいけないので、どうしても机上の空論になってしまうのです。そうした意味では、実地に即した雰囲気を出すために、この問題の出題者も随分と苦労して作っているように思います。



[2](解答はこちら) 東大'07年前期[2]と類似のテーマの問題ですが、東大では、エネルギー保存から終端速度を求めるのに対し、京大では微分方程式を考えて終端速度に至る時間変化の式を求めるようになっています。
ですが、本来教育的配慮がなされている良問のはずが、微積を避けるために、こんなわかりにくい入試問題になってしまうのであれば、微分方程式を高校の範囲に入れてしまって、もっと平易な問題するべきだ、と、私は思います。
定量的に扱わずに定性的に扱うことによって高校生にわかりやすくなる、と強硬に主張なさる方もいますが、私は、定性的な理解を無理強いすることが高校生の物理離れを起こす原因だと思っています。微積の計算で済ませてしまえば簡単なことなのに、なぜ、抽象的に、難しくしてしまうのでしょうか?

この問題の前半は、磁束の変化から電流、力を求める標準的な問題です。後半は、実質的に、
 ・・・@
という微分方程式から、原子核の自然崩壊との類似性より、を導く内容になっています。ですが、微分方程式を避けるためにかえってわかりにくく難問になってしまっています。同様の問題はコの字型回路をテーマとした
'92立教大理[3]などにも見られるのですが、ニュートン以来、物理学は微積分学と密接な関係にあるわけで、無理に、物理と微積の間を引き裂いて高校生を混乱させる意味が私にはわかりません。
を規定する方程式@を導き、逆関数の微分法の公式を用いて、

twの関数と見て、この両辺を積分し、
 
(C:積分定数) ・・・A
のとき、より、

 ∴
Aに代入して、
これより、
とすれば、この問題の流れよりも余程、高校生にわかりやすいと私は思いますけれども。



[3](解答はこちら) 私は「超弦理論」など勉強したことがないのでわかりませんが、断熱変化をするひも状の物体、というのは、超弦(superstring)のことなのでしょうか?だとしたら、この問題は、物理学の最先端の話題をテーマとして取り上げた画期的な問題と言えるかも知れません。
「超弦」というのは、アインシュタインが重力と電磁気力を統一的に記述しようとして成し得なかった「統一場理論」の基本構成要素として考えられているものの有力な候補ですが、現時点でも、理論は未完成で現在進行形の状況だそうです。我こそはと思う方は、完成させれば間違いなくノーベル賞を取れるので、ぜひチャレンジして頂きたいと思います。
ですが、物理学の最先端の話題など受験生にとってはどうでも良いことなので、こういう意味不明のものを入試問題に持ち出されると受験生には迷惑かも知れません。問題文を見た瞬間に、何だこれ?と投げ出してしまった受験生もいると思います。

ですが、私が思うに、一見して高校の範囲を脱却したようなテーマの問題は、易しいことが多いのです。この問題も見かけ倒しで、ひも状の物体の長さを気体の体積に読み替えれば、カルノー・サイクルの平凡な問題に過ぎません。使う物理の基礎事項は、ほぼ熱力学第一法則だけ、状態方程式も出てこなくて、断熱変化と等温変化しか出てきません。気体分野の問題としても、平易な部類に入ると思います。恐らく、この問題に真剣に取り組んだかどうかで、合格・不合格に大きく響いただろうと思います。

ひも状の物体の長さと気体の体積の違いは、ひも状の物体に仕事をすると長さが増大するのに対し、気体に仕事をすると気体の体積は減少する、という点です。断熱変化で、気体が体積を増大させると温度が下がり
(断熱膨張)、気体が体積を減少させると温度が上がり(断熱圧縮)ます。この辺が、カルノー・サイクルのグラフを選ぶところで注意しなければいけない点です。ですが、断熱膨張や断熱圧縮の方が、人間の自然な感性と逆になっているので、この問題の状況設定はむしろ受験生には考え易いのではないかという気がします。
カルノー・サイクルでは、サイクルを一周して最初の状態に戻ってくるので、
1サイクルで内部エネルギーの変化はゼロになります。これより、気体が絶対温度の高熱源から吸収した熱を,絶対温度の低熱源に放出した熱をとして、熱効率η は、
となることは、記憶しておいても損はないと思います。



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