中大理工物理'05年[2]
次の文章の空欄にあてはまる式、グラフ、語句または文章を、それぞれ記しなさい。
無重力の宇宙空間で、図のような細い管でできた半径Rの円形のリングをリングの直径方向を回転軸にして一定の角速度Ωで回転させる。管の内壁は滑らかで摩擦が無視できるとして、管内にある質量mの質点Pの運動を調べよう。
これを調べるには、静止した観測者から質点Pを眺める方法とリングと一緒に回転している観測者から見る方法が考えられる。リングと一緒に回転している観測者から眺めると、質点Pの回転運動は観測されず、かわりに遠心力と呼ばれる見かけの力が現れる。すなわち、宇宙空間でも管内にある物体には、あたかも重力が働いているかのように力が作用する。物体が受けるこの人工重力(遠心力)は、回転軸と物体の距離をhとすると、の大きさである。一方、静止している観測者から見ると、見かけの力は消える。そのかわり、質点Pの回転運動が観測される。
これら2つの見方のどちらを使うのがよいかは一概には言えない。むしろ、何が知りたいかによって、見方を変えるとよい。そこで、はじめにリングと一緒に回転している観測者から質点Pを眺めることにしよう。この見方で考えると、質点Pが図のように回転軸からθ の位置にいるとき、中心OとPを結ぶ方向(y軸)には、力のつり合いが成り立つことになる。管の内壁からの垂直抗力をNとすると、つり合いの式は重力がないのですこし簡単になって、 (1) と書ける。一方、リングに沿った方向(x軸)の見かけの力Fは、θ が増加する方向を正として、 (2) である。Fのθ 依存性を区間で図示すると (3) のようになるから、リングに沿った方向には、 (4) の位置に向かって質点Pを動かす力が働くことがわかる。
この力の性質をもう少し詳細に調べるために、の場合を考える。ここで、ϕは充分に小さい()とする。なら、およびの近似式が成り立つ。Fをϕ の1乗までの項で表すと、 (5) である。はの位置から測った変位であるから、リングに沿った方向の運動は単振動と考えてよい。したがって、この運動は周期運動で、その周期Tは (6) となることがわかる。
初期時刻でPの位置が (),リングに沿った方向の速度vがであるとする。リングに沿った方向の運動が単振動であることを使うと、時刻でのvは容易に求まり、を使って、 (7) と表すことができる。
このように、リングと一緒に回転している観測者から見る方法で考えると、質点Pの運動の様子が簡単にわかる。では、質点Pの力学的エネルギーはどのようになるのであろうか。リングと一緒に回転している観測者から見たのでは、この問題はわかりにくい。そこで、静止した観測者の立場から質点Pの運動を見ることにしよう。この見方では、時刻tでの力学的エネルギーは運動エネルギーのみである。このことから、時刻tのPの位置をθ,リングに沿った方向の速度をvとすると、 (8) と書くことができる。
時刻でPの位置は,リングに沿った方向のPの速度はゼロであるから、このときのエネルギーは、の時に成り立つ近似式を使っての2乗の項まで考慮すると、 (9) である。同様にして、時刻でのエネルギーも容易に求まる。その結果を使うと、一見意外な、 (10) の関係が得られる。
以上のことから、リングに沿った方向に質点Pの運動が起こると、リングの回転を一定の角速度Ωに維持するためには、外から (11) が必要であることがわかる。
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解答 近似を行うことにより、つり合いの位置の近くで単振動になることを導く問題です。合わせて、回転運動する観測者から見る場合と、静止している観測者から見る場合とを比較します(慣性力を参照)。また、通常の近似とは違い2次の項まで残すことにも注意が必要です。
(1) 質点Pが回転軸からθ の位置にいるとき、質点Pと回転軸との距離hは、 質点Pにy軸方向に働く力は、管の内壁から受ける垂直抗力N (y軸負方向)と、遠心力のy軸方向成分 (y軸正方向)です。この2力のつり合いより、 ......[答] (2) x軸方向に働く力は、遠心力のx軸方向成分です。 ......[答] (3) Fのθ依存性のグラフは右図。 (4) (3)のグラフより、においては正方向の力、においては負方向の力が働くので、リングに沿った方向では、の位置に向かう方向に力が働きます。 ......[答] (5) 問題文中の近似式を(2)の結果に適用して、
を無視してϕを残すと、 ......[答] (6) リングに沿った方向での質点Pの加速度をaとして、運動方程式: ∴ 問題文中にあるように、はの位置から測った変位なので、これは、角振動数Ω の単振動を表します。単振動の周期は、 ......[答] (7) における質点Pの変位は,速度は0で、このとき質点Pは単振動の振動端にあります(単振動の振幅は)。ここから周期後に質点Pは振動中心(変位0での位置)に来ますが、ここは速さ最大の位置です。単振動の公式:より、このときの質点Pの速さは,なら速度は負、なら速度は正なので、質点Pの速度vは、 ......[答] (8) 静止した観測者の立場から質点Pの運動を見るとき、質点Pの速度のリングに沿う方向の成分はv,これと垂直にリングの回転による速度成分があります。2成分を合成して、質点Pの速さは,よって、 ......[答] 問題文中の近似式を用いて、
を無視して、まで残すと、 ......[答] (10) において、,より、(8)の結果を用いて、 ......[答] (11) 単振動においては力学的エネルギーが保存されるはずですが、(10)の結果によると、
です。従って、リングに沿った方向に質点Pの運動が起こると、リングの回転を一定の角速度Ωに維持するためには、外から仕事を加えること(においては,においては)が必要になります。
仕事を加えること ......[答]
追記.(5)の近似は、
としても同じ結果が得られます。
(9)の近似も、
としても同じ結果が得られます。
(10)のですが、本問では「単振動」と言っても純粋な単振動ではなく、単振動+回転運動なので、の半分は、回転運動の半径の違い(とR)による運動エネルギーの差であり、残る半分は、単振動させる力による、言わば、位置エネルギー (ばね定数のばねと思えばよい)と言えるものです。
右図のように地表でリングを角速度Ωで回転させる場合は、重力を考慮することになります。リングとともに回転する観測者から見て、リングの接線方向に働く力は、重力と遠心力です。
この2力がつり合うのは、
として、
・・・@ のときです。回転が充分に速くである場合には、リング上に力のつり合いが成立する位置が存在します。@を満たすθ をとして、は鈍角なので、力のつり合いの位置は、リングの半分から下のどこかにあります。
質点Pが位置θ で加速度aで運動しているとき、運動方程式:
本問と同様にとしてϕを微小角として、,の近似を行うと、
∴
本問と同様に、をの位置からの変位と考えれば、この式は、角振動数:の単振動を与えます。本問は重力を考慮しないのでここでとした場合に当たります。
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