九大物理'08[2]

3に示すように、紙面と垂直に裏から表へ向かう磁束密度Bの一様な磁界(磁場)中で、大きさの無視できる導線aWXYZbが、abを回転軸として、aからbを見て時計まわりに一定の角速度ωで回転している。このとき、ab間には時間とともに変化する誘導起電力が発生する。導線の折れ曲がり部はすべて直角で、WXXYYZの長さはすべてdである。この導線には抵抗値Rの抵抗および電気容量Cのコンデンサーが図のように接続されている。時刻で、導線aWXYZbは紙面内の図に示す位置にあったとする。抵抗値がR以外の電気抵抗は無視でき、誘導起電力は接続する回路に影響されないとする。
以下の各問いで特に指示のない場合は、
BCdRtωのうち必要なものを用いて解答せよ。また、角速度の単位をとする。必要ならば下記の三角関数の公式を用いてよい。
 
1.時刻からの間で、電位が高いのはabのうちどちらか。
2.正方形の領域WXYZを貫く磁束をΦとする。時刻tにおけるを求めよ。ただし、からの間で正の値をとるとする。
3.時刻tからの間に正方形の領域WXYZを貫く磁束が変化する量は、の大きさが十分小さいときには、と近似できる。を求めよ。ただし、θ の大きさが十分小さいときに成り立つ三角関数の近似式を用いてよい。
4.時刻tにおいてab間に発生する誘導起電力を求めよ。ただし、bに対してaの電位が高いときを正とする。
5.時刻tにおいて抵抗に流れる電流を求めよ。ただし、は図の矢印の向きを正とする。
6.時刻tにおいてコンデンサーに蓄えられている電気量をとするとき、時刻tからの間にが変化する量は、の大きさが十分に小さいときにはと近似できる。を求めよ。ただし、θ の大きさが十分に小さいときに成り立つ三角関数の近似式を用いてよい。
7.時刻tにおいてコンデンサーに流れる電流を求めよ。ただし、は図の矢印の向きを正とする。
8.横軸に時間をとりからまでのの変化を解答用紙の問8に示した図中に描け。なお、電流の最大値および最小値を同図の   に記入せよ。
9に対しての位相はどうなるか。下の解答群から適切なものを選べ。
@ 遅れている  A 同位相である  B 進んでいる  C π進んでいる


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解答 物理入試で微積を使うな、と言う先生がいるのですが、物理学は微積分学と足並みを揃えて発展してきている学問なのに、科学の進歩を無視した、全くナンセンスな意見です。
問題文に「必要ならば用いてよい」と言うのですから、問
3.問6.のように「近似できる」と書いてあって、近似によって解答せよ、という指示がある場合はともかく、電磁誘導・交流の問題など、仮に三角関数の公式が書いてあっても、加法定理は必要ないので使いませんでした、として、微積分で簡単に片付けるべきだと私は思います。ちなみに私は、'72年の東大入試で、物理のモーターの逆起電力の問題、原子の問題では微積を使った覚えがあります(数学を大失敗したのにもかかわらず合格しました)。数学でのロピタルの定理やmod記号などでも同じことが言えますが、そもそも、出題者が近似によって解答させたいのであれば、「必要ならば用いてよい」ではなく、「以下の公式を使え」、「近似を行え」と問題文に明示するべきであり、何も指示せずに数学Vで学ぶ高校指導要領の範囲内の微積分を使ってはならない、数学の知識を忘れて解答せよ、などと言うのであれば、大分県教育委員会が行った教員採用選抜並の卑怯な入学者選抜だと言わざるを得ません。
また、三角関数の公式も覚えていないのに物理が異常にできる、という受験生をしばしば見かけますが、物理で満点でも数学で零点では何にもなりません。物理の試験で問題用紙に三角関数の公式が書いてあるからといっても、合格したいなら、
加法定理などの基礎事項はしっかり暗記するべきです。

この問題は、入試会場で、問
6.の「蓄えられている」が元々「蓄えられる」だったのを直すように指示があったようですが、における瞬間に蓄えられる電気量、と受験生に錯覚されるのを懸念したのでしょう。こうしたことや、の正方向を指定していることから考えて、出題者の意図は、物理的描像をつかんだ上で符号をはっきり認識して答えているかを見たい、あるいは、符号ミスによる連鎖ミスをさせたくない、というところにあるのであって、微積分を使わせたくない、ということではない、と、私は思います。

さて、この問題は
交流の発生(電磁誘導を参照)と、コンデンサーを流れる電流の位相(容量リアクタンスを参照)を原理面から考えさせる問題です。

1フレミング右手の法則で考えます。導線WXと導線YZの部分に生じる起電力は打ち消し合うので、導線XYの部分に生じる起電力を考えます。
の間、導線XYは、図3で見て紙面右から左への運動方向成分をもっています。これが右手親指の向きです。磁界の向きは紙面裏側から表側への向きでこれは右手人差し指の向きです。右手中指は、紙面下から上(YZ)を向きます。これが起電力の向きです。
端子
ab間に抵抗を外付けすると、導線aWXYZbbaの方向に、外付けされた抵抗には、abの方向に電流が流れます。ということは、abのうち電位が高いのは、a ......[]

2.正方形WXYZ磁界が貫く有効部分の面積Sを考えます。導線WXの時の位置から角回転しているので、WXのうち磁界が貫く有効部分の長さです。よって、
磁束は、 ......[] (これで、の間、です)

3
が十分に小さいので、より、
......[]
注.と近似できるときのを求めよ、とは、導関数を求めよ、と、言っているので、微分しても解答できます(この問題では正解できます)が、単に「求めよ」というのではなく近似の仕方に指示がついている場合、微分したときと結果が異なるように問題を作る場合もある(2次の微小量まで残すような場合)ので、微分は確認にとどめ、面倒でも近似によって解答する方が無難です。

4電磁誘導の法則より、導線に発生する誘導起電力は、問3の結果より、
誘導起電力正が、「bに対してa電位が高いときを正とする」と指定されているので、問1より、においてなので、
......[]

5bに対してa電位が高いとき、図の矢印の向きに抵抗電流が流れるので、オームの法則より、
......[]

6より(コンデンサーを参照)

が十分に小さいので、より、
......[]
注.問3と同様に、近似計算で答えておく方が無難です。

7.図の矢印の向きにコンデンサーを電流が流れるのは、コンデンサーが充電しているときです。コンデンサーの極板間電圧は問4なので、が増大している間()に正の電流が流れることになります。
6は、においてなので、
......[]

8の変化を右図に示します。
電流の最大値は,最小値はです。

9の変化を右図に示します。
のグラフはのグラフを位相 (周期)だけt軸負方向に平行移動したものになっています。t軸負方向に平行移動する、というのは、同じような変化が早い時間に起きる、ということであって、「進んでいる」ということです。よって、に対して位相進んでいます。B ......[]


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