京都大学2023年前期物理入試問題


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[1] 次の文章を読んで、  に適した式または数値を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、  はすでに  で与えられたものと同じものを表す。また、問1,問2では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。ただし、円周率はπとする。

(1) 1のように点Oを中心とする質量Mの地球のまわりを、地球より十分小さい質量mの宇宙船Uが楕円軌道でまわっている。宇宙船Uから点Oに向かう方向の速さをu,それと垂直な方向の速さをv,宇宙船Uと点O間の距離をrとし、宇宙船Uには点Oに向かう方向の万有引力のみがはたらくものとする。このとき、宇宙船Uの運動エネルギーはmuvで表すと ア であり、さらに、位置エネルギーは無限遠方を0として万有引力定数GおよびMmrで表すと イ である。宇宙船Uの力学的エネルギーを負の一定値Eとすると
と表すことができる。ここで、ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)が成り立つことから面積速度を一定の値として、rを含む項をまとめた関数GMmrSを用いて表すと ウ である。宇宙船Uが楕円軌道を運動する間、0を最小値とする有限の範囲を変化する。したがって、となるrの範囲が、宇宙船Uと点O間の距離が変化する範囲を表す。

1 関数の概形はどのようになるか。rを横軸,を縦軸として特にのときの振る舞いがわかるようにグラフに描け。このとき、地球を大きさが無視できる質量Mの質点とみなせ。また、横軸、縦軸に0以外の値を記入する必要はない。

(2) 2のように、宇宙船Uの軌道が半径Rの円軌道とみなせる場合を考える。このRは以下で常に一定値をとり、したがって、(1)rと異なることに注意せよ。このとき、宇宙船Uの速さをv,軌道を一周する周期をTとする。周期TGMRで表すと エ である。
次に、宇宙船Uに、点Oに向かう方向(半径方向)に十分弱い力が外部から瞬間的に加わった場合を考える。すると、宇宙船Uは元の円軌道とはわずかに異なる軌道をたどり始める。この後の運動を以下のように考察しよう。宇宙船Uの半径方向の位置が内向きを正としてだけ内側にずれた点、すなわち点Oから距離の点での、半径方向に垂直な方向の速さをとし、はそれぞれRvに比べ常に十分小さいとする。瞬間的な外力により宇宙船Uの運動エネルギーはわずかに増加するが、半径方向の力であるためケプラーの第2法則はこの間、常に成立する。これより、に比例する項を無視すると、Rvを用いて オ と表せる。
位置が元の円軌道の半径
Rからだけ内側にずれたことで、宇宙船Uにはたらく力がどのように変化するか求めよう。以下では、1より十分小さいときに成り立つ近似式 (pqは実数)を用いよ。まず、万有引力の大きさの増分をに比例する形でGMmRを用いて表すと
 カ 
である。一方、遠心力は半径,速さの円運動と同様に考えることができる。これより、遠心力の大きさの増分をに比例する形でmRvを用いて表すと
 キ 
である。以上より、内向きを正とする合力の増分がに比例する形でGMmRを用いて
 ク 
と求まる。したがって、この力は宇宙船Uの半径方向の位置のずれを元に戻す復元力としてはたらく。この力が引き起こす加速度を内向きを正としてと定義すると、半径方向の運動方程式は ク となる。以上の議論はが負、つまり宇宙船Uの位置が半径Rから外側にずれた場合にも成立する。よって、上記の運動方程式から宇宙船Uは半径方向の微小変位について単振動することがわかる。この微小な振動運動の周期をt とすると、宇宙船Uが軌道を一周する周期Tとの比 ケ である。この運動は元の円運動とは異なるものの、宇宙船Uがその後も継続して地球を周回し続けることは変わらない。

(3) 質量mの宇宙船Uが質量Mの天体Xのまわりを運動する場合を考える。mMより十分小さいとする。宇宙船Uには天体Xからの引力のみがはたらくが、その力の大きさはニュートンの万有引力の法則を含む一般的な形で、
と表せるとする。ここで、rは天体Xの中心から宇宙船Uまでの距離、Akは正の定数であり、ならばニュートンの万有引力の法則に相当する。なお以下では、天体Xからの引力以外の物理法則、すなわち遠心力を表す式とケプラーの第2法則は変わらず成り立つものとする。
いま、任意の
kの場合に対して、この引力を向心力とする、天体Xの中心を周回する半径Rの円運動を考えることができる。このときの半径方向に垂直な方向の速さをARkで表すと コ である。ここで、宇宙船Uに、天体Xの中心に向かう方向に十分弱い力が外部から瞬間的に加わった場合を考察しよう。
(2)と同様に、宇宙船Uの軌道がわずかに内向きに変化したとする.宇宙船Uの軌道のずれが内向きを正としての場合、合力の増分を(2)と同様の方法で考えることができる。引力の大きさを表す式がとなったことに注意し、その増分をに比例する形でAmRkを用いて表すと
 サ 
である。内向きを正とする合力の増分もに比例する形でAmRkを用いて
 シ 
と求まる。以上の議論はが負、つまり宇宙船Uの位置が半径Rから外側にずれた場合にも成立する。
これより、宇宙船
Uの運動はkの値に応じて異なることが以下のようにわかる。まず、(2)で考えたような半径方向の微小振動を伴う運動となるのは ス の場合のみである。また、この場合、微小な振動の周期と軌道を一周する周期の比kのみの関数として セ と表せる。

2  ス の場合、軌道が内側にだけずれたときに合力の増分のはたらく向きはどちら向きで、大きさはとともにどのように変わるか、が正の場合について答えよ。また、その結果、宇宙船Uの運動はどのようになるか述べよ。

[解答へ]


[2] 次の文章を読んで、  に適した式または数値を、{  }からは適切なものを一つ選びその番号を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、  はすでに  で与えられたものと同じものを表す。また、問1,問2では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。ただし、真空中のクーロンの法則の比例定数はk,円周率はπとする。

(1) 真空中に置かれた正の電気量Qの点電荷から出る電気力線の本数を考える。点電荷を中心とする球面を考えると、その球面を貫く単位面積あたりの電気力線の本数(電気力線の密度)は、電場の強さと等しくなるように定められている。このことから、点電荷から出る電気力線の本数は イ である。

(2) 真空中にある半径aの導体球Aに正の電気量Qを与えると、電荷は{ロ:@球内全体に,A球の表面に}一様に分布する。球の中心Oから距離rの球面を貫く電気力線の本数はでは イ で、電気量Qの点電荷を中心Oに置いたときと同じである。そのため、電場の強さと電位は、点電荷の場合と変わらない。一方、では電場の強さは ハ で、電位は ニ となる。ただし、無限遠を電位の基準(電位=0)とする。

(3) (2)の状態にある導体球Aを、図1の断面図のように、電荷が与えられていない中空の導体球B(内半径b,厚さd)で囲む。ただし、導体球Aと中空導体球Bは同一の点Oを中心とする。中空導体球Bを、導体球Aがつくる電場の中に置いたので、中空導体球Bには静電誘導によって正電荷と負電荷の分布の偏りが生じた。その結果、では、電場の強さが(2)の状態から変化したが、それ以外の領域では囲む前と同じであった。そのため、では、電位は無限遠を基準として(2)の状態と変わらない。また、導体球Aと中空導体球Bに挟まれた領域()においても、(2)の状態から電場が変化していないので、この領域内の2点間では、電位差も変化しない。よって、中空導体球Bの内側表面()と導体球Aの表面()との電位差() ホ と求められる。

1 (3)の状態の電位Vについて、rを横軸、Vを縦軸として、グラフを描け。におけるVの値がわかるように縦軸に記入せよ。

(4) (3)の状態から中空導体球を接地したところ、電気量 ヘ が地表に流れた。接地により中空導体球の電位は0になり、導体球Aの電位は ト になった。この状態の電荷分布の様子から、導体球Aと中空導体球Bの組み合わせは、Qの電気量を蓄えたコンデンサーとみなすことができる。このコンデンサーの電気容量は チ である。

(5) 2の断面図のように、同一の点Pを中心とする、半径aおよびb ()の半球形の、厚さを無視できる薄い導体が真空中に置かれている。この装置を利用して、光電効果などで真空中に放出された電子(質量m,電気量)の運動エネルギーを分析することができる。内側の半球(内球)と外側半球(外球)の間に電位差 ()を与えると、両者に挟まれた領域(領域T)に電場が生じる。ただし、半球の端における電場の乱れや、他の領域の電場は無視できるとする。このとき、内球と外球の組み合わせはコンデンサーとみなすことができる。領域Tに生じる電場の強さは、(4)のコンデンサーに電位差を与えたときの値と同じであり、中心Pからの距離rの関数としてrabを用いて リ と表される。
次に、電子が図2の装置のスリットを通過し、点Xから領域Tに進入した場合を考える。ただし、スリットは十分に狭く、図2のように電子は、点Pと点Xを結ぶ直線に対して垂直に通過し、紙面内を運動するものとする。また、重力と地磁気の影響は無視できるとする。特定の速度をもったもの、すなわち、特定の運動エネルギーをもったものだけが、点Pを中心とする等速円運動をし、点Yに到達した後、十分狭いスリットを通過することができる。ここで、円軌道の半径はである。このときの電子の運動エネルギーabeを用いて ヌ と表すことができる。

(6) 金属の表面に紫外線などの光を当てたときの光電効果を考えよう。金属内部の自由電子は、いろいろなエネルギーをもっている。そのエネルギーの最大値をとし、最大のエネルギーをもつ電子を金属の外に取り出すために必要なエネルギーの最小値(仕事関数)Wとする。より低いエネルギーをもつ電子を金属の外に取り出すには、Wより大きいエネルギーが必要である。
ここで特に、金属内部でエネルギー ()をもった電子について考える。この電子が、ある波長λの単色光を金属に照射したことで、光子のエネルギーを受け取り、運動エネルギーの光電子として放出されたとする。このとき、光電子の運動エネルギーは、λWおよび真空中の光速c,プランク定数hを用いて ル と表される。

2 放出された光電子の数を、光電子の運動エネルギーのの関数として描いたとき、そのグラフの概形として最も適切と考えられるものを、図3の@〜Cのうちから選び、その番号を解答欄に記入せよ。また、グラフを特徴づける運動エネルギーλWchのうち必要なもので表せ。

2の装置を利用して、光電子の運動エネルギーの分布を決めることができる。このような方法は光電子分光法を呼ばれている。
[解答へ]


[3] 次の文章を読んで、   に適した式または数値を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、  はすでに  で与えられたものと同じものを表す。問1,問2では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。ただし、円周率はπとし、角度の単位にはラジアンを用いる。

偏光はディスプレーや光通信、光量子技術など様々な分野で利用されている。この偏光を操作する方法について考えてみよう。
光は電磁波の一種であり、電場と磁場が光の進行方向と垂直に振動しながら伝わる。電場の振動する方向を、ここでは偏光の方向と呼ぶ。電場はベクトルであり、異なる
2つの方向の成分に分解し、また合成して考えることができる。偏光板は、ある特定の方向(透過軸と呼ぶ)と平行に振動する電場成分を損失なく透過し、透過軸と垂直に振動する電場成分を完全に遮断するとする。また以下で考える光検出器の信号強度I は、偏光の方向に依存せず、入射する光の電場の振幅の2乗に比例するものとする。
なお、偏光板や光検出器および後述する透明物体は、その表面が光の進行方向と垂直になるように真空中に置かれており、表面における光の位相の変化や反射は無視する。また、以下での入射光の波長の値は真空中での値とする。
いま、図1(a)のように、波長がの単色の入射光を、偏光板Aを通過させた後、光検出器で検出した。z軸を光の進行方向として図1(a)の左下のようにx軸とy軸をとり、偏光板の透過軸とy軸のなす角度をθとする。偏光板はの範囲で、xy平面内で回転できる。入射光にはいろいろな方向に振動する光が一様に含まれている。そのため、θを上記の範囲で変化させたとき、光検出器の信号強度はで常に一定であった。また、他の波長の入射光を用いた場合にも同様の結果が得られた。偏光板Aを通過した後の光の状態は、その大きさが電場の振幅で、その向きが電場の向きと一致するベクトル (以下、これを振幅ベクトルと呼ぶ)を用いて特徴づけられる。図1(b)に示すように、x軸方向の成分とy軸方向の成分に分解して考えることができ、と表せる。なお図1(b)では紙面の裏から表の向きをz軸の正の方向とする。

(1) 2のように、偏光板Aと光検出器の間に偏光板Bを設置した。偏光板Aの角度0に固定し、偏光板Bの角度だけを変化させた場合、前ページの下線部に注意すると、光検出器の信号強度は あ ×となる。また、偏光板Aの角度と、偏光板Bの角度を、同じ角度にして変化させた場合の光検出器の信号強度は い ×となる。

(2) 偏光の方向を操作する方法として、偏光板のみを用いる方法について考えよう。図3のように、偏光板Aの角度を0,偏光板Bの角度をに固定し、その間に偏光板Cを、角度をにして設置した。波長の光を入射したときの光検出器の信号強度I は、 う ×である。

次に図4のように、偏光板Aの角度を0,偏光板Bの角度をに固定し、その間に偏光板を (N2以上の整数)枚設置した。偏光板Aに近いものから順に偏光板k ()と呼び、偏光板kの角度をに設定する。波長の光を入射したときの光検出器の信号強度I は、 え ×であり、のときには お ×となる。
さらに
N1より十分大きい場合について考えてみよう。1より十分小さい()ときと近似でき、またaを定数としてのときと近似できることを用いると、 え ×
と近似できる。このことから、の極限での光検出器の信号強度I は、に漸近することがわかる。この結果より、光強度を減衰させずに偏光の方向を角度だけ回転させることが、原理的に偏光板のみを用いて可能であるという、興味深い結論が得られる。

(3) 偏光の方向を操作する別の方法として、光の偏光の方向によって屈折率が異なる透明な媒質を用いる方法について考えよう。図5のように、偏光板Aと偏光板Bの間に、そのような媒質からなる直方体の透明物体を挿入した場合を考える。その光の進行方向の厚みをd,光の電場の振動方向がx軸方向の場合の屈折率をy軸方向の場合をとし、これらの屈折率は光の波長によらず一定で、互いに異なるとする。また、この透明物体中では、光は偏光の方向によらず同じ経路を直進し、光の吸収は無視できるとする。
いま偏光板Aの角度と偏光板Bの角度をともにに設定し、波長の光を入射すると、光検出器の信号強度が0になった。このような状況になる透明物体の最小の厚みを求めてみよう。
偏光板
Aを通過した光の偏光方向がy軸となす角度はであり、電場のx軸方向成分とy軸方向成分は、それぞれの振幅をとして同位相(位相差0)で振動している。透明物体部分の光路長は電場のx軸方向成分に対しては き y軸方向成分に対しては く であり、それらの光路差() け で与えられる。この光路差が、および0以上の整数mを用いて こ と表されるとき、透明物体を通過した後の電場のx軸方向成分とy軸方向成分は逆位相(位相差π)となる。このとき、電場の振幅ベクトルのx軸方向成分が、透明物体を通過する前と変わらずだとすれば、y軸方向成分は、符号が反転しとなる。これらの成分がベクトルとして合成される結果、偏光方向がy軸となす角度はとなり、偏光板Bの透過軸と直交し、検出器の出力は0となる。この条件を満たす透明物体の最小の厚みを用いて表すと、 さ である。

1 のとき、偏光板Aと偏光板Bの角度をともにθとして、θ0からまで変化させた際の光検出器の信号強度I の変化を、グラフに描け。その際、θを横軸、光検出器の信号強度I を縦軸にとり、信号強度I の最大値、最小値と、それぞれに対応するθの値が分かるように図示せよ。

(4) (3)の状況で、図5の偏光板Aの角度と偏光板Bの角度をともにに設定し、こんどは厚みが20()の同種の透明物体を設置して、波長の光を入射した。このとき、光検出器の信号強度は し ×となった。

2 (4)の状況で、入射光として波長がの単色の光を用いると、信号強度は0となった。このような入射光の波長は複数考えられる。として、最小のを、を用いて表せ。導出過程も示せ。

以上で調べた、屈折率が異なる物質における偏光方向の変化は、結晶の性質や厚みを調べる偏光顕微鏡などでも活用されている。
[解答へ]



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