京大物理'23年前期[3]
次の文章を読んで、 に適した式または数値を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、 はすでに で与えられたものと同じものを表す。問1,問2では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。ただし、円周率はπとし、角度の単位にはラジアンを用いる。
偏光はディスプレーや光通信、光量子技術など様々な分野で利用されている。この偏光を操作する方法について考えてみよう。
光は電磁波の一種であり、電場と磁場が光の進行方向と垂直に振動しながら伝わる。電場の振動する方向を、ここでは偏光の方向と呼ぶ。電場はベクトルであり、異なる2つの方向の成分に分解し、また合成して考えることができる。偏光板は、ある特定の方向(透過軸と呼ぶ)と平行に振動する電場成分を損失なく透過し、透過軸と垂直に振動する電場成分を完全に遮断するとする。また以下で考える光検出器の信号強度I は、偏光の方向に依存せず、入射する光の電場の振幅の2乗に比例するものとする。
なお、偏光板や光検出器および後述する透明物体は、その表面が光の進行方向と垂直になるように真空中に置かれており、表面における光の位相の変化や反射は無視する。また、以下での入射光の波長の値は真空中での値とする。
いま、図1(a)のように、波長がの単色の入射光を、偏光板Aを通過させた後、光検出器で検出した。z軸を光の進行方向として図1(a)の左下のようにx軸とy軸をとり、偏光板の透過軸とy軸のなす角度をθとする。偏光板はの範囲で、xy平面内で回転できる。入射光にはいろいろな方向に振動する光が一様に含まれている。そのため、θを上記の範囲で変化させたとき、光検出器の信号強度はで常に一定であった。また、他の波長の入射光を用いた場合にも同様の結果が得られた。偏光板Aを通過した後の光の状態は、その大きさが電場の振幅で、その向きが電場の向きと一致するベクトル (以下、これを振幅ベクトルと呼ぶ)を用いて特徴づけられる。図1(b)に示すように、はx軸方向の成分とy軸方向の成分に分解して考えることができ、と表せる。なお図1(b)では紙面の裏から表の向きをz軸の正の方向とする。
(2) 偏光の方向を操作する方法として、偏光板のみを用いる方法について考えよう。図3のように、偏光板Aの角度を0,偏光板Bの角度をに固定し、その間に偏光板Cを、角度をにして設置した。波長の光を入射したときの光検出器の信号強度I は、 う ×である。 次に図4のように、偏光板Aの角度を0,偏光板Bの角度をに固定し、その間に偏光板を (Nは2以上の整数)枚設置した。偏光板Aに近いものから順に偏光板k ()と呼び、偏光板kの角度をに設定する。波長の光を入射したときの光検出器の信号強度I は、 え ×であり、のときには お ×となる。
さらにNが1より十分大きい場合について考えてみよう。が1より十分小さい()ときと近似でき、またaを定数としてのときと近似できることを用いると、 え ×は と近似できる。このことから、の極限での光検出器の信号強度I は、に漸近することがわかる。この結果より、光強度を減衰させずに偏光の方向を角度だけ回転させることが、原理的に偏光板のみを用いて可能であるという、興味深い結論が得られる。
(3) 偏光の方向を操作する別の方法として、光の偏光の方向によって屈折率が異なる透明な媒質を用いる方法について考えよう。図5のように、偏光板Aと偏光板Bの間に、そのような媒質からなる直方体の透明物体を挿入した場合を考える。その光の進行方向の厚みをd,光の電場の振動方向がx軸方向の場合の屈折率を,y軸方向の場合をとし、これらの屈折率は光の波長によらず一定で、互いに異なるとする。また、この透明物体中では、光は偏光の方向によらず同じ経路を直進し、光の吸収は無視できるとする。 いま偏光板Aの角度と偏光板Bの角度をともにに設定し、波長の光を入射すると、光検出器の信号強度が0になった。このような状況になる透明物体の最小の厚みを求めてみよう。
偏光板Aを通過した光の偏光方向がy軸となす角度はであり、電場のx軸方向成分とy軸方向成分は、それぞれの振幅を,として同位相(位相差0)で振動している。透明物体部分の光路長は電場のx軸方向成分に対しては き ,y軸方向成分に対しては く であり、それらの光路差()は け で与えられる。この光路差が、および0以上の整数mを用いて こ と表されるとき、透明物体を通過した後の電場のx軸方向成分とy軸方向成分は逆位相(位相差π)となる。このとき、電場の振幅ベクトルのx軸方向成分が、透明物体を通過する前と変わらずだとすれば、y軸方向成分は、符号が反転しとなる。これらの成分がベクトルとして合成される結果、偏光方向がy軸となす角度はとなり、偏光板Bの透過軸と直交し、検出器の出力は0となる。この条件を満たす透明物体の最小の厚みを,,を用いて表すと、= さ である。
問1 のとき、偏光板Aと偏光板Bの角度をともにθとして、θを0からまで変化させた際の光検出器の信号強度I の変化を、グラフに描け。その際、θを横軸、光検出器の信号強度I を縦軸にとり、信号強度I の最大値、最小値と、それぞれに対応するθの値が分かるように図示せよ。
(4) (3)の状況で、図5の偏光板Aの角度と偏光板Bの角度をともにに設定し、こんどは厚みがの20倍()の同種の透明物体を設置して、波長の光を入射した。このとき、光検出器の信号強度は し ×となった。
問2 (4)の状況で、入射光として波長がの単色の光を用いると、信号強度は0となった。このような入射光の波長は複数考えられる。として、最小のを、を用いて表せ。導出過程も示せ。
以上で調べた、屈折率が異なる物質における偏光方向の変化は、結晶の性質や厚みを調べる偏光顕微鏡などでも活用されている。
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解答 「偏光」などと言われると恐怖感がありますが、親切な誘導に乗って解答を進めて行けます。最後だけ考え込むかも知れません。
また、問題文中の「前ページの下線部」は、原問題冊子でのことなので、このウェブページにおいては、「上記の下線部」と読むようにしてください。
光検出器の信号強度は、検出器に入射する光の電場の振幅の2乗に比例し、図1(a)で偏光板Aに入射する光にはいろいろな方向に振動する光が一様に含まれているので、偏光板の透過軸とy軸との角θがいかなる角であっても、kを比例定数として、は、
・・・@
になるとして考えます(東大物理23年[2](2)の注を参照)。このとき、透過光のは偏光板の透過方向を向いていることにも注意してください。
また図1(b)から、の偏光方向の光がこれと角θをなす方向を透過方向とする偏光板を通過した後の振幅は、となることがわかります(右図)。
注.問題文の説明によると、振幅ベクトルを成分に分けて考えると、互いに垂直な透過方向を有する2枚の偏光板を透過してしまう光があるような錯覚が起きるかも知れません。あらゆる方向に振動する光を一様に含む入射光を、y軸から時計回りに角θだけ回転させた透過軸をもつ偏光板に入射して通過させると、図1(b)の方向(偏光板の透過軸の向き)を向く振幅ベクトル, となるわけですが、この透過光をさらに、y軸から時計回りに角だけ回転させた透過軸をもつ偏光板に入射させたとします。のx方向成分の透過軸方向成分はで、これと垂直な方向(方向)成分は遮断されます。のy方向成分の透過軸方向成分はで、これと垂直な方向成分は遮断されます。透過光の振幅ベクトルが、y軸から時計回りに角だけ回転した方向をもつように思えますが、透過軸方向成分は、 となるので、成分に分けて考えても、透過方向がだけ異なる2枚の偏光板を通すと、完全に遮断されることになります。
(1) 図2において、偏光板Bの透過方向は偏光板Aの透過方向と角をなすので、偏光板Bを通過した後の振幅ベクトルの透過方向成分はです。光検出器の信号強度は、@より、 ......[あ] 偏光板Bの透過方向と偏光板Aの透過方向が一致するときは、偏光板Bを通過した後の透過方向の振幅はです。光検出器の信号強度は、@より、 1 ......[い]
(2) 図3において、偏光板Cの透過方向は偏光板Aの透過方向と角をなし、偏光板Bの透過方向は偏光板Cの透過方向と角をなすので、偏光板Bを通過した後の振幅ベクトルの透過方向成分はです。光検出器の信号強度は、@より、 ......[う] つまり、偏光板Aと偏光板Bの透過方向が互いに垂直であっても、AとBの間に中間的な偏光方向を有する偏光板を挟むと、透過する光ができる、というわけです。
図4において、偏光板を1つ通過するごとにその透過方向が、1つ手前の偏光板の透過方向となす角はなので、偏光板1つ通過するごとに、振幅ベクトルの透過方向成分は倍されていきます。全部でN枚の偏光板を通過するので、振幅ベクトルの透過方向成分は倍されます。光検出器の信号強度は、 ......[え] [え]の結果でとすると、 ......[お] Nが十分大きい場合、問題文の近似式より、,[え]の結果について、 ここで、問題文の近似式でとみて、光検出器の信号強度は、 ......[か]
(3) 波長の光は、屈折率の物質中では波長はになり、屈折率の物質中では波長はになり、偏光方向によって波長が異なることになります。この問題ではこれを、波長のまま透明物体中を進み、距離を屈折率倍した光路長を通過すると考えるので、光が距離d進むとき、電場のx軸方向成分に対しては光路長,y軸方向成分に対しては光路長だけ進むと考えます。 ......[き] ......[く] それらの光路差()は、 ......[け]透明物体を光が通過した後に電場のx軸方向成分とy軸方向成分が逆位相になる(波の位相を参照)のは、光路差が半波長の奇数倍になる(波の干渉を参照)ときで、mを0以上の整数として、 ・・・A ......[こ]となります。
問題文に、透明物体に進入前に偏光方向がy軸となす角がであったものが、透明物体通過後にy軸方向成分だけ反転してになることが説明されていますが、この状況を右図に示します。
Aにおいて、検出器の出力が0になる条件を満たす最小のdは、のときで、そのときの透明物体の厚みは、 ......[さ] ・・・B
問1 偏光板Aと偏光板Bの角をともにθとすると、偏光板A通過後の電場は問題文の図1(b)のようになります。のとき、問題文に書かれているように、透明物体通過後、電場の振幅ベクトルのy軸方向成分が反転します。電場の振幅ベクトルはとなりますが、これがy軸と角θをなす偏光板Bを通過すると、右上図のように、と偏光板Bの透過方向は角をなすので、偏光板B透過方向成分はとなり、これが振幅になるので、光検出器の信号強度は、に注意して、 ・・・C Cによると、のとき (最大値),のとき (最小値)となるので、信号強度の変化のグラフは右下図。
(4) のときの光路差は、Bより、 光路差が、波長の整数倍なので、電場のx軸方向成分とy軸方向成分は同位相です。なので、(1)[い]と同じ状況になり、光検出器の信号強度は、 1 ......[し]
問2 波長のとき、光検出器の信号強度が0だった、ということは、透明物体通過後の電場のx軸方向成分とy軸方向成分は逆位相だったということで、Aでと考え、mを0以上の整数として、 ......[答]
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