京大物理'24年前期[3]

次の文章を読んで、  に適した式または数値を、{  }からは適切なものを一つ選びその番号を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、  はすでに  で与えられたものと同じものを表す。また、問1では、指示にしたがって、解答を解答欄に記入せよ。ただし、円周率をπとする。

物質中を光が進むときのふるまいを考え、それを応用した光ファイバーなどについて考察しよう。以下では空気の屈折率を
1とする。

(1) 1のように屈折率がの物質Aと屈折率がの物質Bが平らな面で接しており、とする。AからBへ光が入射したとき、境界面の法線に対する角度として、入射角,反射角,屈折角を定める。 あ であり、の関係は い となる。がある値より大きいとき、光は境界面で全反射される。の関係は う である。

(2) 光ファイバーは、図2(a)のように屈折率の異なるガラスを同軸状の細線にしたものである。中心部分をコア、外側部分をクラッドとよぶ。コアとクラッドの屈折率をそれぞれ()()とする。また、コアの軸を含む平面内を進む光を考える。
屈折率の関係が{え:@,A,B}で、さらにコア内で光の進む方向と光ファイバーの軸方向のなす角度θがある角度より小さければ、図2(b)のように光はコアとクラッドの境界で全反射される。(1)での議論をふまえると、およびの関係は お となる。このように光がコアとクラッドの境界面で全反射されるためには、光ファイバーの端面において空気中からコアに光が入射する際に、軸方向に対する光の入射角がある条件を満たす必要がある。その条件を、を用いて表すと、 か となる。ただし、光ファイバーの端面はその軸方向に対して垂直であるとし、端面においてコアの軸上から入射する光を考えよ。

(3) 入射した光が光ファイバー中を進むためには、(2)の条件だけでは不十分である。それを考察しよう。
コアの軸を含む平面内を進む光を考える。図3のように、コア中の光の波長をとし、光の進行方向とコアの軸方向のなす角度をθとする。このとき、径方向の波面間の距離をとすると、 き となっている。したがって、径方向には波長がの波が生じているとみなせる。
半径のコア内で光が弱まらずに進んでいくとき、径方向には定在波が形成されている。ここでは、議論を簡単にするため、自然数
Nに対し、コアの直径が倍であればそのような定在波が形成されるとする。このとき、Nを用いて、 く と表せる。
実際に光ファイバーを使う際には、空気中での波長がの光をレンズ等で集光してコアに入射させるため、光はさまざまなで入射し、入射直後の
θは連続的な値を持ち得る。そのうち く を満たすとびとびの値のθを持つ光だけがコア内を進むことができる。Nで特徴づけられるこの光をモードとよぶ。一方、あるNのモードについて、がある値より大きいとき、このモードはコアとクラッドの境界で全反射できず伝わらなくなる。Nを用いて表すと、 け となる。ここで、の関係を用いよ。を満たすとき、コア内を伝わる光はのモードのみとなる。下限はカットオフ波長とよばれ、を用いて こ と表せる。

(4) 以下では、のモードだけが伝わる場合を考える。コア内の波長がの光は、図4のような波の合成の結果、軸方向と垂直な波面をもつ波とみなせる。また、θが小さい場合を考え、合成された光の波長はに等しいとする。
5のように、光ファイバーのコアに、光を散乱する構造を周期的に軸方向に導入したものを考える。これをファイバー・ブラッグ・グレーティング(FBG)という。この構造の周期をaとすると、FBGは間隔aの回折格子のようにはたらく。すなわち、入射した光のごく一部が散乱されて入射側へと返っていくが、たがいにa離れた位置からの散乱光が強め合うとき強い光が返っていき、図5の検出器で検出することができる。軸方向に返っていく光が強め合う条件から、検出できる光の最も長い波長は、aを用いて さ と表すことができる。検出器が検出するのは空気中の波長であることに注意せよ。以下では強め合って返っていく光のうち波長が さ の光を考え、これを反射光と呼ぶ。

(5) FBGを含む光ファイバーの一部分を考える。これが長さDの状態からDとくらべて十分に小さい量だけ一様に伸縮し、長さがになると、FBGの周期もaからに変化する。この場合、Daの関係は し である。また、この周期の変化により、FBGからの反射光の波長もからに変化する。光の波長は高感度に計測できるため、FBGは微小な伸縮を検出するセンサーとして利用できる。ここで、Aを定数として、とおく。Aは伸縮にともなうFBG内のコアの屈折率の微小な変化の影響などを含んだ係数である。
Aを決定するため、の光ファイバーに波長が付近の連続スペクトルの光を導入し、FBGを含む部分の長さをから変化させながら、FBGからの反射光の強度と波長の関係を空気中で測定した。すると、図6の結果が得られた。この結果から係数Aは有効数字1桁で す と求めることができる。
FBGの応用例の一つに、熱膨張測定がある。固体物質の長さをL,絶対温度をTとすると、多くの物質は室温付近においてという関係を示す。係数αは線膨張率、は室温に近い基準温度、での長さである。
上述の
FBGを、長さの固体物質Xの試料に図7(a)のように貼り付けた。Xは一様に熱膨張し、光ファイバーはXの熱膨張に完全に追随して伸縮すると仮定する。また、温度変化によるの変化は微小である。FBGに空気中での波長が付近の連続スペクトルの光を導入すると、基準温度においての光が反射され、温度を変えながら反射光の空気中での波長の変化を測定した結果、図7(b)が得られた。ただし、試料の熱膨張以外に起因する波長の変化は差し引いてある。表1Xの候補物質とそれらの線膨張率である。

1 実験結果とAの値を用い、Xが表1のどの物質かを推定せよ。議論の過程も示せ。
1
 物質名 線膨張率
白金 8.8
18.9
亜鉛30.2



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解答 光ファイバーの問題ですが、光ファイバー内を光が伝播していく状況を調べる問題ではなく、光ファイバー内に設けられるFBGと呼ばれる、特定の波長の光だけ通過させるようにするための構造を扱う問題です。

(1) 反射の法則より、反射角と入射角は等しく、 ......[]
屈折の法則より、 ......[]
[
]において、のときの(臨界角)として、より大きいとき光は境界面で全反射されます。より、 ......[]

(2) []においてになってしまうと、全反射を起こす入射角が存在しなくなってしまうので、光ファイバー内において全反射を続けるためには、コアの屈折率がクラッドの屈折率を上回る必要があります。よって、 @ ......[]
コアからクラッドに入る光についてクラッド内の屈折角をとして、屈折の法則より、
のときの
θとして、
......[]
空気中からコアに入射するときの屈折の法則より、
のときコアとクラッドの境界面で全反射するので、
[]より、
 ∴ ......[]

(3) 3より ∴ ......[]
これより、コアの直径倍である(半波長の整数倍が媒質の長さになる。定常波を参照)ことから、
......[]
(2)
の問題文よりのときコアとクラッドの境界面で全反射するので、のときにはコアとクラッドの境界で全反射できず光は伝わらなくなります。つまり、のときに全反射できず伝わらなくなるので、径方向に定在波が生ずる条件[]を用いて、

よって、のとき全反射できずに伝わらなくなるとして、
......[]
さらにとして、[]よりカットオフ波長は、
......[]
コア内をのモードのみ伝わりのモードが伝わらない条件:は、となります。

(4) 隣接する「散乱する構造」を光が往復する距離はです。コアの屈折率はなので光学的距離はです。散乱光同士が強め合う条件(光の干渉を参照)は、mを整数として、,これを満たす波長 (は、問題文の注意にある通り、空気中の波長です)のうち、最も長いものは、のときの ......[]

(5) 光ファイバーが伸縮するとき、光ファイバーの長さの変化の割合と、FBGの周期の変化の割合は等しいので、 ......[]
6を見ると、のときににあった反射光強度の波長は、そのずれの大きさはほぼに比例し、のときほぼです。[]より
より、
よって、有効数字
1桁で、 ......[]
注.にならないのは、光ファイバーが伸縮するとき、[]においてFBGの周期aが変化するだけでなく、屈折率(周期の変化をやや打ち消す方向に)変化するからです。

1 より
7よりのときのの反射光の波長変化はおよそで、
と見て、より、
 ∴
1の中で近いのは、亜鉛 ......[]



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