東大物理'06年前期[2]

真空放電による気体の発光を利用するネオンランプは、約80V以上の電圧をかけると放電し、電流が流れ点灯する。したがって、起電力が数Vの乾電池のみでネオンランプを点灯させることはできない。しかし、コイルおよびスイッチと組み合わせることにより、短時間ではあるがネオンランプを点灯させることができる。
 ここでは、図
2-1の電圧−電流特性をもつネオンランプを起電力9.0Vの乾電池で点灯させることを考える。図2-2のように、乾電池、コイル、およびスイッチを直列につなぎ、ネオンランプをコイルと並列につなぐ。コイルの自己インダクタンスL1.0H,コイルの抵抗を35Ω,乾電池の内部抵抗を10Ω,ネオンランプの端子Bを基準とする端子Aの電位をとして、以下の問に答えよ。ただし、ネオンランプに流れる電流の大きさは、端子ABのどちらが正極であっても図2-1で与えられるとする。また、ネオンランプの電気容量、コイル以外の回路の自己インダクタンスは無視できるほど小さく、ネオンランプの明るさはネオンランプを流れる電流の大きさに比例するものとする。
T 時刻に回路のスイッチを入れたが、ネオンランプは点灯しなかった。
(1) スイッチを入れた直後のの大きさと符号を求めよ。
(2) スイッチを入れてしばらくすると、回路を流れる電流は一定となった。このときコイルを流れる電流の大きさ、およびの大きさと符号を求めよ。
U 回路を流れる電流が一定になった後、時刻にスイッチを切った。その後、ネオンランプは図2-3のように時間Tだけ点灯した。
(1) 点灯が始まった直後にネオンランプを流れる電流の大きさを求めよ。
(2) 2-1を利用して、ネオンランプの点灯が始まった直後のの大きさと符号を求めよ。
(3) ネオンランプの点灯が始まった直後、および点灯が終わる直前にコイルに生じている誘導起電力の大きさを、それぞれ求めよ。
V ネオンランプの点灯時間Tのおおよその値を求めたい。計算を簡単にするため、点灯中に生じている誘導起電力の大きさは一定値であると近似する。
(1) 点灯が始まった直後にネオンランプを流れる電流の大きさをとする。点灯時間TLを用いて表せ。
(2) V(1)の結果にLの値を代入し、点灯時間Tを有効数字1桁で求めよ。ただし、の値はU(3)の結果を参考にして、適当に定めてよい。


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[解答] 難しくはありませんが、V(1)など、物理的に考える部分があります。

T(1) スイッチを入れた直後は、コイル内は断線したのと同じ状況になります(自己誘導を参照)。ネオンランプは電流が流れていないので、AB間には電池の電圧がそのままかかります。Aの方が高いのでの符号は正となり、
V ......[]

(2) 回路を流れる電流が一定となるとき、ネオンランプには電流が流れず、コイル内は単に導通させたのと同じ状況になります(自己誘導を参照)。乾電池の起電力に、35Ω10Ω抵抗が直列に入る形になるので、
9.0V÷45Ω=0.20A ......[]
電流が一定になってしまうと、コイルの電圧は電流の変化に比例するので0となり、ネオンランプの電圧は、コイルの抵抗両端の電圧となります。コイルの抵抗にはA側からB側に向かって電流が流れるのでA電位B電位よりも高くの符号は正で、電流0.20Aが35Ωに流れるので、オームの法則より、
V ......[]

U(1) 点灯が始まった直後、つまり、スイッチを切った直後に、コイルは切る直前と同じ電流を流そうとするので、
0.20A ......[]

(2) スイッチを切った直後も、コイルは0.20A電流をコイル内でABの方向に流そうとするのですが、スイッチは既に開いているので、スイッチを通して電流が流れることはありません。すると、この電流はネオンランプ内をBAの向きに流れるのです。図2-1より、電流0.20A流れるときの電圧の値を読むと、103Vです。ネオンランプ内を電流BAの向きに流れるので、A電位B電位よりも低くなります。よって、
V ......[]

(3) スイッチを切った直後、ネオンランプの電圧Vで、ネオンランプとコイルの回路には0.20A電流が流れるので、コイルの抵抗には7V電圧が生じます。Aからコイルに向かって電流が流れ込むので、抵抗のAと逆側はAよりもさらに7V低い電位になります。従って、コイルに生じる誘導起電力の大きさは、
V ......[]
点灯が終わる、ということは、ネオンランプの電流0になるということです。点灯が終わる直前にネオンランプの電圧は、図2-1より80Vです。このとき、ネオンランプの電流0なので、コイルの抵抗には電圧は発生せず、ネオンランプの電圧がそのままコイルの電圧となり、誘導起電力の大きさは、
80V ......[]

V(1) コイルの誘導起電力の公式:において、誘導起電力を一定値と考えるということは、電流変化率:が一定で、電流は直線的に変化するということです。時間Tの間に電流となるので、電流の変化率は、です。誘導起電力の大きさがなので、
......[]
(エネルギーで考えて、としても求められます)

(2) の値をU(3)から適当に定めよ、ということなので、110V80Vの間をとって、Vとします。Aより、
......[]


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