阪大物理'10年前期[2]

電気力線について考察しよう。真空中に置かれた電気量 ()の正の点電荷から発生する電気力線の総本数NQに比例する。そこで、比例係数Aを用いてで与えられるとしよう。また、点電荷から発生する電気力線は、全ての方向に等しく放射状に広がる。このとき、電場(電界)の強さは、電気力線に垂直な面を考え、それを通過する電気力線の単位面積当たりの本数nに比例する。そこで、比例係数Bを用いてで与えられるとしよう。電場ベクトルの向きは電気力線の向きに等しい。一方、負の電気量の点電荷に対する電気力線は向きが逆になる。これらのことを踏まえて以下の問いに答えよ。なお、解答には係数ABを用いてよいが、問題中で与えられていない記号を用いてはならない。

T.図1のように、原点Oに電気量 ()の点電荷を置いた。
1 点電荷から距離の点における電場ベクトルについて、動径方向(半径rの球面に垂直でrが増す方向)の成分を示せ。
2 図2(a)または(b)のように、のところに電気量のもう一つの点電荷を置いた。このとき、二つの点電荷を通る直線上の点Pでの電場ベクトルについて、動径方向の成分を示せ。ただし、点電荷から点Pまでの距離をaとし、図2(a)の場合と図2(b)の場合について、それぞれ答えよ。

U.厚さが無視できる平板上に電荷を分布させた面電荷について考察しよう。図3のように、平板はz軸に垂直でにあり、x軸方向とy軸方向にそれぞれ十分に広い幅をもつ。この平板上に単位面積当たりの電気量がとなるように電荷を一様に分布させた。なお、以下の問いでは面電荷のふちの効果は考えなくてよい。
3 図3に示した面電荷によるでの電場ベクトルについて、z軸方向の成分を示せ。
4 図3で与えたの面電荷に加えて、図4のように、だけ離れたのところに同様の面電荷を与えた。ただし、単位面積当たりの電気量をとした。このとき、3つの領域における電場ベクトルについて、z軸方向の成分をそれぞれ示せ。

V.図4において ()とし、また、二つの平板は導体でできた極板とすると、二つの面電荷はコンデンサーの二つの極板に蓄えられた電荷と等しくなる。
5 二つの極板を互いに接触しない範囲で十分に接近させた状態から、面間隔dの状態まで広げるのに必要なエネルギーを示せ。
6 面間隔dの状態において、二つの極板の間の電位差の大きさを示せ。また、この結果を用いて、コンデンサーとして考えたときの電気容量を示せ。

W.図4において ()とした状態で、導体でできた極板の間に誘電体を挿入した。誘電体の厚さはdx軸方向とy軸方向の幅は極板のサイズと等しく、それぞれLMとする。
7 極板の間を全て満たす位置に誘電体を挿入した。このとき、誘電分極(不導体の静電誘導)によって誘電体の上と下の面に見かけの面電荷が発生した。その結果、問6で求めた誘電体を挿入しない場合に比べて極板の間の電位差は、この面電荷によってf倍になった。ここでfは誘電体の種類によって決まる1より小さな正の定数である。誘電分極によって誘電体の下の面に発生した見かけの面電荷について、単位面積当たりの電気量を示せ。さらに、極板をコンデンサーとして考えたときの電気容量を示せ。
8 問7の状態から誘電体を部分的に引き抜き、図5のように、x軸方向に深さ ()まで挿入した状態とした。誘電体が挿入されている領域と挿入されていない領域における下の極板()の面電荷について、単位面積当たりの電気量をそれぞれ示せ。
9 問8の状態において、二つの極板の間の電位差の大きさと、コンデンサーとして蓄えられている静電エネルギーを示せ。


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解答 「誘電体を挿入するコンデンサー」という題材自体は頻出のものですが、既成の考え方を機械的にあてはめることができないように工夫されていて、考えづらい問題です。特に問8は、問6、問7をうまく利用する必要があります。

T.問1 電荷から本の電気力線が発生します。Oを中心とする半径rの球面の面積です。点電荷Oに置くとき、Oから距離の点において、単位面積当たりの電気力線の本数は、
電場ベクトルの動径方向成分は、 ......[]

2 問1の結果より、電荷が点Pに作る電場は、大きさで、向きは動径方向正方向です。
電荷が点Pに作る電場は、大きさで、向きは、図2(a)の場合には動径方向負方向、図2(b)の場合には動径方向正方向です。
重ね合わせの原理より、点
Pにおける電場の動径方向成分は、
の場合には、
......[]
の場合には、 ......[]

U.問3 平板の面積で、平板に分布する面電荷総電気量,平板の面電荷から発生する電気力線の総本数は本,平板をぴったりと覆う閉曲面を考えると、その面積単位面積当たりの電気力線の本数は電場の大きさは、,向きは、の場合、平板から出て行く向きで、の部分ではz軸正方向です(ガウスの法則を参照)
面電荷によるでの電場z軸方向成分は、 ......[]
電場の向きはの部分ではz軸負方向で、での電場z軸方向成分は、です。
4 問3と同様に、に位置する面電荷の作る電場z軸方向成分は、
において、において、
重ね合わせの原理より、両
面電荷の作る電場z軸方向成分は、
において、
......[]
において、 ......[]
において、 ......[]

V.問5 に位置する面電荷総電気量ですが、この面電荷が、に位置する面電荷によりの部分に作られる電場から受ける電気力は、 (マイナスはz軸負方向のであることを意味します)
両極板を広げるのに必要なエネルギー、即ち、この電気力に逆らうz軸正方向の外力面電荷距離dだけ移動させるときにする仕事は、 ......[]
6 問4の結果より、において電場は一様で、
 ・・・@
公式:(電位・電圧を参照)より、極板間の電位差の大きさVは、
......[]
注.距離dの極板間の電位差が、単位面積当たりの電気量qをかけたものになることに注意してください。
コンデンサーに蓄えられた電荷で、公式:(コンデンサーを参照)より、コンデンサーの静電容量は、 ......[]

W.問7 誘電体を挿入した後の極板間の電位差は、問6の結果をf倍して(誘電分極を参照)
注.極板間に誘電体を挿入すると、距離dの極板間の電位差は、単位面積当たりの電気量qをかけたものになることに注意してください。
極板間の電場の大きさは、公式:より、
極板間には、電気力線単位面積当たり本、発生しています。
@より、極板間には、もともと、大きさ
電場があり、単位面積当たり本の電気力線が発生していました。
誘電体の挿入により、極板間に本あった
電気力線本に減った、ということは、誘電体の上と下の面に見かけの面電荷が発生して、面電荷から発生した電気力線の一部本が、見かけの面電荷に終端してしまった、ということを意味しています。
面電荷と対向する誘電体の表面、つまり、誘電体の下の面には、とは逆極性の電荷(負電荷)が発生し、この面に発生した見かけの面電荷単位面積当たりの電気量は、
......[]
コンデンサーに蓄えられている電荷のままで、公式:より、静電容量は、
......[]
8 誘電体が挿入されている部分の面積で、問7と同様に、静電容量
誘電体が挿入されていない部分の面積で、静電容量
2つのコンデンサーは並列接続されていて、合成容量は、
コンデンサーに蓄えられている電荷のままで、公式:より、極板間の電位差は、
 ・・・A
7の注.を利用して、誘電体が挿入されている領域の単位面積当たりの電気量は、
......[]
6の注.を利用して、誘電体が挿入されていない領域の単位面積当たりの電気量は、
......[]
9 Aより、極板間の電位差の大きさは、 ......[]
静電エネルギーU(コンデンサーの過渡現象を参照)
......[]


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