京大物理'11[1]

次の文を読んで、  に適した式を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、  はすでに  で与えられたものと同じものを表す。また、問1,問2については、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。

1に示すように、十分広いフロントガラス面上を面に沿って回転せずに水平方向(1の矢印⇒の方向)に移動する質量Mのワイパーに関して、以下の問いに答えよ。
フロントガラスは平面で、水平面と角度
β をなすものとする。ワイパーは、重力に加えてフロントガラス面に対して垂直方向にの力を受け、フロントガラス面に押しつけられている。ワイパーは、時刻0に位置Aにおける静止状態から矢印⇒の方向に動き始め、時間とともに速度を増し、時刻において速度となった後、一定速度で運動を続ける。時刻より速度を減じ、しばらくして停止する。ワイパーとフロントガラスとの間の静止摩擦係数および動摩擦係数をそれぞれμ (),重力の加速度をgとし、水膜の有無による摩擦係数の違いおよび空気の抵抗は無いものとする。

(1) まず、水膜がない状況でワイパーを動かした場合について考える。
(11) 時刻0からの間にワイパーに一定の力を水平方向(1の矢印⇒の方向)に加えたところ、時刻0からの間にワイパーの速度は0からまで増加した。このとき、ワイパーの加速度は ア となり、加えた力は イ で与えられる。時刻0からの間にワイパーを動かすのに要した仕事は ウ となる。ワイパーの速度は時刻に達し、その後からの間は一定値となるように力が加えられる。時刻からワイパーに加えていた水平方向の力を0としたところ、ワイパーは距離 エ 進み、時刻 オ に停止した。
(12) 時刻0からと時刻からの間で、それぞれ一定の加速度が得られるように、ワイパーに種々の水平方向の力を加えた。その結果、図2の折線abcdの動きは実現したが、時刻における速度がより小なる動きは実現しなかった。
1 折線dの時刻0からの間の傾きが満たすべき条件を、その導出過程とともに示せ。
2 時刻にて速度が実現する図2の運動abcdの中で、時刻0からまでに水平方向の力のワイパーにする仕事が最小となる運動を選ぶとともに、最小となる理由を記せ。

(2) 次に、フロントガラス面上に降雨があり、雨が止んだ後にフロントガラス面上に一様な厚さの水膜が形成された場合について考える。
水膜の厚さは薄く、重力により落下しないものとする。ワイパーは位置Aから動き始め、図2の直線cに従い、通過した領域の雨水を全て集めながら水平方向(1の矢印⇒の方向)に進む。ワイパーにより集められた雨水はワイパーと一体となって動き、付着した雨水の質量だけワイパーの質量が増加した状態と同じとみなされるものとする。ワイパーが単位長さ進むと、ワイパーには質量nの雨水が付着する。また、ワイパーに付着していない水膜は静止しており、ワイパーの運動に影響を与えないものとする。
時刻
0からt ()の間にワイパーが通過する距離をsとすると、ワイパーが集める雨水の質量はとなるので、時刻tにおいてワイパーに加えるべき水平方向の力は カ となる。
時刻からまでは一定速度で運動する。このとき、時刻
t ()において加えるべき水平方向の力を求める。時刻tにおけるワイパーと雨水を合わせた質量と速度は、時刻における付着水量をで表すと、それぞれおよびとなり、時間後の時刻におけるワイパーと雨水を合わせた運動量の増加は、 キ ×となる。ワイパーに作用する水平方向の合力は キ で一定となり、時刻tにおいて加えるべき水平方向の力は ク となる。


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解答 基礎事項を問う易問も、問題文の表現のまずさから(出題者が意図的にそうしているのかも知れませんが)難問になってしまう(物理的に難問というわけではありません)という例です。不明確な問題文で空所補充形式、というのでは、どういう採点をしているのかと思ってしまいます。なぜ、こんなワイパーなどで設問するのかという点についても意図をつかみかねます。

(1) 1矢印⇒方向(水平方向)にワイパーに加えたとすると、ワイパーに働くは、及び、フロントガラス面に垂直に働く,ガラス面から受ける垂直抗力N,鉛直下向きの重力,⇒と逆向きの動摩擦力です。
このうち、フロントガラス面に垂直な方向に働くは、図1で左下向きの,左上向きのN重力のこの方向の成分 (左下向き)です。この方向では力のつり合いが成立しています。
 ∴
() 時間の間の速度変化なので、ワイパーの加速度は、 ......[]
() 水平方向に働くは、矢印⇒方向の,矢印⇒と逆向きの動摩擦力です。
ワイパーの運動方程式
ワイパーに加えた
は、 ......[]
() 時刻0からの間にワイパーが移動した距離は、図2の部分に運動cを示す直線が作る三角形の面積として、です(変位・速度・加速度を参照)
ワイパーの最初の運動エネルギー0時刻でのワイパーの運動エネルギー,この間に動摩擦力がした仕事時刻0からの間にワイパーを動かすのに要した仕事(がした仕事)Wとして、エネルギーの原理より、
......[]
() 時刻以降では、がなくなり、停止するまでに移動した距離sとして、ワイパーの運動エネルギーから0になり、この間に動摩擦力がした仕事です。エネルギーの原理より、
......[]
() 停止した時刻をとして、運動量の原理より、
 ∴ ......[]
1 問題文の「時刻における速度より小なる動きは実現しなかった」という記述の意味するところですが、ワイパーの運動に何らかの制約があって、時刻における速度vが、となるということです。この制約は何かを考えることになります。
においては、ワイパーに水平方向に一定のが働き、ワイパーは等加速度運動をします。ここには、速度に制約を与えるような条件はありません。従って、制約ができるとすれば、時刻の動き出す時点です。最初ワイパーの速度0で停止していたので、までワイパーに働いていた摩擦力静止摩擦力であり、を加えてワイパーが動き出すためには、最大静止摩擦力を上回る必要があります。よって、
時刻におけるワイパーの速度vとして、
における運動方程式
よって、

以上よりv下限値について、
......[]
追記.問題文に「時刻における速度より小なる動きは実現しなかった」と書かれているので、上記のように解答しましたが、「傾きが満たすべき条件」という言い方からして、出題者は、
という答え方を想定しているような気がします。
2 ()と同様にして、水平方向の力のワイパーにする仕事,ワイパーの移動距離として、エネルギー原理の式を立てると、

従って、移動距離が最も小さい運動でが最小となります。ワイパーの移動距離は図2v-tグラフとt軸の間で挟まれる部分の面積なので、が最小となる運動はv-tグラフが最も下を通るd ......[]
理由.運動エネルギーの変化はどの運動も等しい。運動dが移動距離最小で動摩擦力に抗してする仕事が最小だから。 ......[]

(2)() 時刻t ()における加速度で一定です。時刻t におけるワイパー+雨水の質量で、ワイパーが受ける重力の大きさはとなり、ワイパーが受ける動摩擦力の大きさはとなります。ワイパーに加えるべき水平方向のとして、ワイパーの水平方向の運動方程式は、
......[]
() 時刻t における運動量時刻における運動量です。運動量の増加は、

......[]
() 動摩擦力の大きさは,ワイパーに作用する水平方向の合力なので、ワイパーに加えるべき水平方向のとして、力のつり合いより、
......[]


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