京大物理'22年前期[3]

次の文章を読んで、   に適した式または数値を、{   }からは適切なものをすべて選びその番号を、それぞれの解答欄に記入せよ。問1,問2では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。ただし、などを付した物理量は微小量であり、1次の項までを考えるものとする。

(1) 1のように、ピストンによって、断面積Sのシリンダー内に密閉されたモル(mol)nの理想気体を考える。以下、シリンダー内の理想気体を単に気体と呼ぶ。シリンダーは固定されており、ピストンは摩擦なしに動くものとする。ここで、気体定数はRとする。シリンダーの底(左端)とピストンの内面との間の長さをL,気体の絶対温度をTとする。このとき、シリンダー内の気体の圧力pは、 あ である。
1の状態から、次の2通りの状態変化について考える。
) 気体の体積を一定に保って外部から熱を加え、温度をとした。気体は仕事をしないので、その熱はすべて内部エネルギーに変化する。このとき、定積モル比熱をとすると、気体の内部エネルギーの変化と温度の変化の間には、 い という関係式が成り立つ。
) 気体の温度Tを一定に保ってピストンを引き、長さをとした。このとき、内部エネルギーの変化は う であり、気体が外部にした仕事は、 え となる。
前述のような気体の状態変化を組み合わせて、図2のような、過程T,過程U,過程V,過程Wの4つの過程からなる熱力学的なサイクルを考える。

・ 過程Tでは、温度をに保ったまま、長さがからになるまで、ゆっくりピストンを押す。
・ 過程Uでは、長さのまま、温度をからに上昇させる。
・ 過程Vでは、温度をに保ったまま、長さがからになるまで、ゆっくりピストンを引く。
・ 過程Wでは、長さのまま、温度をからに戻す。
なお、は、ある正の定数であり、を満たす。
これらの過程のうち、気体が吸熱する過程をすべて挙げると、
{お:@過程T,A過程U,B過程V,C過程C}が該当する。このサイクルにおいて、気体が外部に対してする仕事の総量は、{か:@正,A0,B負}である。

(2) 理想気体とは異なる物質を用いても、熱力学的なサイクルを作ることができる。以下では、ゴムのように伸縮するヒモを熱力学的に考察してみよう。ヒモを自然長から引き伸ばすと、その張力は、引いた向きと逆向きに作用する。ヒモの張力の大きさFが、絶対温度Tに依存し、長さL ()のとき、
で表される場合を考える。ここで、と係数Aは、いずれもTLによらない正の定数とする。また、このヒモの内部エネルギーUは絶対温度Tに比例し、Lによらない正の係数Kを用いて
と表せるものとする。
3(a)のような、長さL (),温度Tのヒモを、だけさらに伸ばし、図3(b)のように長さ,温度になったとする。この過程で、ヒモが外部にした仕事は、ヒモの張力Fを用いて
と書ける。ヒモの吸熱量をとすると、ヒモの内部エネルギーの変化は、FKを用いずに表すと、 き となる。一方、この過程における温度変化に注目すると、とも表せる。それゆえ、このヒモを断熱的にゆっくり伸ばした場合、温度の変化は、AKLT,
を用いて く と表せる。
このヒモの状態変化を組み合わせて、以下の過程
α,過程β,過程γ,過程δ4つの過程からなる熱力学的なサイクルを考える。
・ 過程αでは、温度をに保ったまま、長さLからになるまで、ゆっくりヒモを引く。
・ 過程βでは、長さのまま、温度をからに上昇させる。
・ 過程γでは、温度をに保ったまま、長さLを変え、からまで、ゆっくり戻す。
・ 過程δでは、長さのまま、温度をからに戻す。
なお、は、ある正の定数であり、を満たす。

1 図4を解答欄に描き写し,過程α,過程β,過程γ,過程δからなるサイクルを、ヒモの長さLを横軸、ヒモの張力の大きさFを縦軸としてグラフに示せ。その際、過程αの最初の状態の張力の大きさを,過程βの最後の状態の張力の大きさをとして、各過程におけるLFの変化を実線で示し、それぞれの線にαβγδの記号をつけて表せ。また、作図に必要な補助線を破線で示すとともに、状態変化の向きを示す矢印も記入せよ。

このサイクルの各過程でヒモが外部にする仕事をみてみよう。各過程でヒモがする仕事は、微小なの総和であるが、その大きさは、問1のグラフにおいて、対応する面積を求めることでも計算できる。
過程
αにおいてヒモがする仕事は、Aを用いると、 け と表される。過程γにおいてヒモがする仕事は、 こ と表される。ヒモが過程βでする仕事と過程δでする仕事は、 さ である。以上より、この1サイクルにおいて、ヒモが外部に対してする仕事の総量は、{し:@正,A0,B負}であることがわかる。

2 (1)の理想気体と(2)のヒモでは、系の長さLを変化させる際の熱力学的な応答が異なる。断熱的に長さLを大きくする場合を例にとり、理想気体およびヒモがする仕事の違いに着目し、両者の内部エネルギーおよび温度の増減をそれぞれ説明せよ。


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解答 理想気体とヒモとの熱力学的挙動の違いを考えてみようという問題です。問題文に書いてある道すじに沿って素直に解答できます。

(1) 気体の状態方程式は、 ∴ ......[]

定積変化における内部エネルギーの変化は、 ......[]
等温変化では、内部エネルギーは変化せず、 ......[]
気体がピストンに及ぼす力はで、気体が外部にした仕事は、[]の結果より(この問題では、問題文中で与えられている物理量が、nRTSLであることに注意)
  ......[]
過程Tでは、等温変化で内部エネルギーは変化せず体積が減るので気体のした仕事は負、熱力学第一法則より、気体は排熱しています。
過程Uでは、定積変化で気体は仕事をせず、温度が上昇するので気体の内部エネルギーの変化は正、気体は吸熱しています。
過程Vでは、等温変化で体積が増加するので、気体は吸熱しています。
過程Wでは、定積変化で温度が下がるので気体は排熱しています。
気体が吸熱しているのは、A過程UとB過程Vです。 A,B
......[]
過程Uと過程Wでは気体のした仕事は0で、[]の結果で考えて、仕事の絶対値はより過程Tよりも過程Vの方が大きく、過程Vが正で過程Wが負なので気体が外部に対してする仕事の総量は正です。 @正 ......[]

(2) 熱力学第一法則より、
......[]
ヒモが伸びるとき,,つまりヒモが外部に負の仕事をすることに注意してください。
より、断熱変化でのときには、
[]の結果より、
 ∴ ......[]

1 過程αにおいてはより、のときなので、,これより、過程αのグラフは、を通る直線です。また、のとき、です。
過程βにおいては、のまま、Fからまで変化します。
過程
γにおいてはより、,過程γのグラフは、を通る直線です。のとき、です。
過程
δにおいては、のまま、Fからまで変化します。
これらを図示すると右図
(補助線は、破線ではなく灰色の直線で描いてあります)

過程αで気体のした仕事を右図で台形の面積から求めると、よりヒモは伸びていて、気体のした仕事が負であることに注意して、

......[]
過程γでは、ヒモは短くなっているので気体のした仕事は正で、過程αの温度が温度となるので、
  ......[]
過程βでした仕事,過程δでの仕事は、 ......[]
この過程でヒモが外部に対してする仕事は、より、
 @ ......[]

2 理想気体で断熱的にLを大きくすると、つまり体積を増加させると、気体のした仕事なので、熱力学第一法則より、,内部エネルギーの変化は負で、温度は下がります。
ヒモでは、断熱的にLを大きくすると、ヒモがした仕事なので、熱力学第一法則より、内部エネルギーの変化は正で、温度が上昇します。 ......[]



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