東京工業大学2008年前期物理入試問題


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[1][A] 図1のように、焦点距離が12cmの凸レンズから20cm離れた場所に、光軸に垂直に長さ4cmの物体PQを配置する。レンズの左側を前方、右側を後方と呼ぶことにする。図1には、後方および前方の焦点をそれぞれFで記してある。
(a) PQの像を、答案用紙上に作図によって求めよ。
(b) PQの像は、レンズの中心面(中心を通り光軸に垂直な面、図の点線)から前方または後方に何cm離れたところにできるか、計算で求めよ。解答欄では、(前方,後方)の適当な方を選んで○で囲み、何cmかを記入せよ。
(c) Pの像は、光軸から上または下に何cm離れたところにできるか。計算で求めよ。解答欄では、(上,下)の適切な方を選んで○で囲み、何cmか記入せよ。
(d) 2のように、レンズのすぐ前方に黒い紙を置いてレンズの上半分を覆った。像の位置、形、明るさはどう変化するか。以下の各項目について(1)(2)(3)の中からひとつずつ選び、その番号を解答せよ。
() 像の位置は (1)レンズに近づく。(2)レンズから遠ざかる。(3)動かない。
() 像の形は (1)変わらない。(2)上半分が欠ける。(3)下半分が欠ける。
() 像の明るさは (1)変わらない。(2)暗くなる。(3)明るくなる。

[B] 設問[A]の黒い紙を取り去り、図3に示すように、物体PQの代わりにPの位置に点光源Rを置く。さらに、レンズの後方39cmのところに光軸に垂直に平面鏡を置く。
(e) Rのレンズによる像をとし、さらにの平面鏡による像をSとする。およびSを答案用紙上に作図によって求めよ。
(f) レンズによるSの像の位置(レンズの中心面からの距離および光軸からの距離)を計算により求めよ。解答欄では、(前方,後方)および(上,下)の各かっこ内の適切な方を選んで○で囲み、それぞれ何cmかを記入せよ。
(g) 次の各像が実像か虚像かを答えよ。
()   () S  () 
[解答へ]


[2] nモルの単原子分子理想気体を考える。気体の圧力をp,体積をV,温度をT,気体定数をRとしたとき、状態方程式はで与えられ、内部エネルギーEである。以下では、その理想気体が、なめらかに動くピストンの付いた密閉された容器に入れられ、断熱変化する過程を扱うことにする。

[A] ピストンを少し動かすことにより、内部エネルギーがEからへ、体積がVからへ、温度がTからへそれぞれ微小変化した。
(a) の間に成り立つ関係式を求めよ。
(b) TVを用いて表せ。
(c) Caを定数として、TVとの間にの関係が成り立つと仮定する。このときとなることを示せ。ただし、微小量εおよび実数bについて、としてよい。
(d) 問い(b)(c)の結果より、aの値を求めよ。

[B] ゆっくりとした状態変化により、この理想気体が体積,温度の状態から体積がの状態に移った。
(e) 設問[A]の結果に基づき、その間に気体が行った仕事をnRTを用いて表せ。
[解答へ]


[3]図のような荷電粒子の質量を測定する装置を考える。荷電粒子は正の電荷qを持ち、線分OCと直交するように速さでスリットXに入射する(図の☆印)。灰色の領域には紙面垂直上向きに大きさBの磁束密度をもつ一様磁界がかけられている。また領域Y (白抜きの狭い領域)には、粒子が横切ると加速または減速されるような交流電圧がかけられている(fは交流周波数)。図に示すように、この装置の中で粒子は平面内を2周し、再びX付近に戻ってくる。この間Y2回通過するが、1回目と2回目の加速・減速(あるいは減速・加速)のつり合いをうまくとれば2周後にスリットXを再び通過させることができ、そこで粒子検出の信号が発生するようになっている。
以下の設問では、粒子は、磁界の領域からはみ出ることなく真空中を運動し、障害物に衝突することはないものとする。また、スリット
Xの厚みは無視できるものとする。さらに、Yの電極間の幅は円運動の半径に比べて無視でき、粒子は、線分ODを横切る際、瞬時に加速(または減速)されるものとする。
まず、設問
[A][B]においてはXのスリットの幅dの大きさを無視する。
[A](a) スリットXを通過し最初にYに入射するまでの粒子の回転半径と角速度を、粒子の質量mおよびqBの中から必要な記号を用いて表せ。
(b) 粒子が1回目にYを通過したときに、電位差で加速された。1回目にYを通過してから2回目にYに入射するまでの粒子の回転半径と角速度を、粒子の質量mおよびqBの中から必要な記号を用いて表せ。
(c) 1回目にYを通過してから2回目にYに入射するまでの時間Tを、粒子の質量mおよびqBの中から必要な記号を用いて表せ。(以後Tを周回時間と呼ぶ。)

[B] 実際には、粒子は交流電圧の初期時刻とは関係なく不規則に次々と入射する。粒子が入射時刻によらず2周後にスリットXを必ず通過するように周波数fの値を調整する。このような周波数はいくつも存在するが、これらを低い順に並べ,・・・,,・・・と表す(ただしnは整数)
(d) 周回時間Tを、およびnを用いて表せ。
(e) 質量mを、qBnを用いて表せ。

[C] 設問[B]の結果が示すように、粒子の質量mや周回時間Tを求めるには、スリットX2周後に戻ってくるような周波数を見つければよいことがわかる。実際にはスリットXには幅dがあり、スリット中心から外側または内側にそれぞれの範囲で位置がずれたとしても粒子検出の信号が発生する。したがって、この方法で質量を測定する際には誤差が生じる。以下では、1個の粒子に着目し誤差の大きさを評価する。簡単のため、粒子は最初スリットXの中心に正確に入射したものとし、2周後にXを通過する際のスリット幅のみ誤差の原因になるものとして問いに答えよ。
(f) 周波数がから少しずれていたために、2回目にYを通過する時刻における電圧が、加速・減速のつり合いがとれる電圧よりもだけずれた。このため粒子は、スリットXを、その中心よりだけ外側にずれて通過した。dqBの中から必要な記号を用いて表せ。ここで電圧のずれによるエネルギーの変化は粒子の運動エネルギーに比べて十分小さく、 (1に比べて十分小さいとき)としてよい。
(g) ずれた周波数に基づいて求めた周回時間と、真の周回時間Tとの差をとする。そのとき、前問におけるはよい近似での関係式が成り立つものとする(ただしとする)。スリットの幅に起因する質量の誤差の最大値qBbdの中から必要な記号を用いて表せ。
[解答へ]


[4]図のように、水平面上に質量mの物体Aを置き、ばね定数kのばねをつなぐ。ばねが自然長となる物体Aの位置を原点Oとし、水平方向にx軸をとり、右向きを正の向きとする。原点Oから点P (位置)までの区間は摩擦のある領域であり、それ以外の領域は摩擦がないものとする。点Pの右側に質量mの物体Bを置く。物体Aおよび物体BOP間における静止摩擦係数をμ,動摩擦係数をとする。重力加速度をgとして以下の問いに答えよ。ただし、物体ABの大きさは無視できるものとする。
[A] はじめに物体Aを原点Oに静止させておく。物体Bに原点Oに向かう速度を与え、摩擦のある領域を通過させたところ、物体BAに衝突し、その後1つの物体ABとなって運動した。はじめに物体Bに与えた運動エネルギーをEとする。
(a) 衝突直前の物体Bの運動エネルギーEmglを用いて表せ。
(b) 衝突直後の物体ABの運動エネルギーを、Emglを用いて表せ。ただし物体BAの衝突は瞬間的に起こり、その際、摩擦力の影響は無視できるものとする。

設問[A]において、物体Bにはじめに与える運動エネルギーEを変化させて、物体ABの運動を調べる。ただし以下の問では、μlkmgおよびを満たすものとする。

[B] ある運動エネルギーEをはじめに物体Bに与えたところ、物体ABは、衝突して一体となった後、再び原点Oに戻り、OP間のある位置xで速度が0になった。
(c) 速度が0になる位置xを、Eklを用いて表せ。
(d) 速度が0になった後、一体となった物体ABはどのような運動をするか、理由をつけて答えよ。

[C] 設問[B]で与えた運動エネルギーより大きい運動エネルギーEをはじめに物体Bに与えたところ、一体となった物体ABPの右側に飛び出し、Pから再び摩擦のある領域に入った後、OP間のある位置xで速度0になった。
(e) 位置xを、Eklで表せ。

[D] 問い(e)の答x0とするような、物体Bに与える運動エネルギーEとする。
(f) 物体A(一体となった後は物体AB)が最終的に静止する位置xを、Eの関数とみなし、における関数のグラフの概略を描け。
[解答へ]




各問検討

[1](解答はこちら) この問題は出題意図が読めません。レンズについても出題しておかないと、レンズを勉強してこない学生がいて困る、ということなのでしょうか?
レンズの公式:,倍率
を知っていれば答えることができます。光線の作図は、解答では見やすくするために矢印を入れましたが、矢印を入れろという指示がない限り、入試の答案としては矢印をつけないでください。レンズの光線の作図は、物体から出て平行に進み、レンズ通過後に焦点を通る光線と、物体から出てレンズの中心を通過し直進する光線の2つを作図しておけば充分です。
実像は、実際に光が集まってできる像で、そこにスクリーンを置くと物体が映って見えます。虚像は実像ではない像で、レンズや鏡の反対側から見たときに、あたかもそこに物体があるかのように見える像です。教科書でよく確認しておいてください。


[A](d)は試験会場で削除の指示があったそうです。センター試験で同一内容の問題があったから、ということなのですが、センター試験と同一内容の問題は2次試験では出さない、と宣言してしまうと、2次試験内容について予見を与えることになります。また、センター試験で物理を選ばなかった受験生(あまりいないと思いますが。なお物理の必須の科類もあります)に不利に働くことになります。
大分県教委のようなことがあるかと思えば、大学入試では必要以上に公正さに神経過敏になっていたり、私には不思議です。



[2](解答はこちら) 標準レベルの大学では、これくらいの問題で大問1題になると思いますが、東工大の入試問題としては、[1]と同様にやや物足りない印象を受けます。
内容的には、断熱変化の問題として頻出タイプの問題です。
'08年前期[3]'08年前期[4]が重たい問題なので、東工大受験生は、[1][2]合わせて10分〜15分くらいで片付けたいところです。
とは言え、気体の問題、特に、こうした断熱変化の問題を苦手にしている受験生が多いのも確かです。この問題を難しく感じる受験生は、熱力学第一法則:
の理解が不足している、と、私は思います。
Qは気体が吸収した熱、W気体がした仕事、は内部エネルギーの増分で、気体は吸収した熱を使って外部に仕事をし、残った分は内部エネルギーとして貯め込む、と、言っている法則です。吸収したのか排出したのか、気体がしたのかされたのか、増分か減少分かをよく注意してください。本来わかり易い法則のはずなのですが、受験生の重要性に対する認識が不足しているのか、理解できていない受験生をよく見かけます。熱力学第一法則は理工系受験生必須の知識です。表現が違っているかも知れませんが、実質的に同等の内容が教科書に詳細に書かれているので、しっかりとマスターしておいてください。
状態方程式と熱力学第一法則を組み合わせて、ポアッソンの関係式:=一定
(γは比熱比),または、この問題の=一定 を導く、というストーリーは頻出です。手を動かしてよく納得しておいてください(この問題の誘導は、簡単にできるようによく工夫されています)
[B]もよくあるパターンで、断熱変化ではなので、気体のした仕事Wは、 (これは単原子分子理想気体の場合。2原子分子以上も想定した、定積モル比熱の理想気体ではです)として、求められます。状態変化後の温度を=一定 から求めて、に放り込めばよいので、理工系受験生は必ずできるようにしておいてください。


[3](解答はこちら) 国語が苦手だから理系にした、とか、東工大志望だから学校の国語の授業は関係ないので無視する、と言っている受験生を見かけるのですが、そうした受験生には厳しい問題だったと思います。読解力が身についていない受験生は、[B]など、問題文が何を言っているのか全く理解できなかっただろうと思います。
東工大の物理の入試問題は、特殊な実験装置
(恐らく、出題者の教授がふだん使っている装置)を題材にした問題が多く、実験装置の動作を言葉で説明するとどうしてもわかりにくい文章になってしまいます。問題文が悪いから、自分はこの問題は解けない、と、言っているようでは、東工大の先生に、じゃあ、君を入れてあげるわけにはいかない、と、言われるだけのことです。何とか、わかりにくい問題文を読みこなしてこそ、理工系の最高峰を極めることができるのだ、と、自分に言い聞かせてください。

[B]は、領域Yで加速(または減速)されるので、領域Yを通過するごとに速さと回転半径が変化し、2回の加速(または減速)で打ち消し合うようにしなければならず、加速電圧が正負逆になるようにしなければいけない、粒子は不規則に次々と入射されるので、周回時間の間に交流の位相が逆位相にならなければいけない、ということに気づかないといけません。そのために、[A]で、速さと回転半径が変化し周回時間が変化しないことを確認しているのです。
のときとのときで逆位相になるようなグラフ、解答では簡単のために、となるようなグラフをいくつも描いて考えました。
ここが切り抜けられなければ、この問題は壊滅状態となり、
[1][2]が簡単で差がつかないので合格は難しくなります。つまり、国語の能力で東工大の合否が決まっている、ということです。東工大の志望者は、学校の国語の授業もぜひ大切にしてください。

[C]は、さらにわかりづらくなります。[B]としていたのを、だけずれたので、として、粒子が2周して戻ってきたときにどれだけスリット中心からずれるのか回転半径の差から求めてみよ、と、言っているのですが、ここまで取り組めた受験生がどれほどいたでしょうか?何のために[A]を考えたのか、ということをしっかりつかんで、解答のような図を描いて考えれば別に難しいわけではありません。試験場で冷静に題意把握ができるかどうか、ということが問われているのです。

この問題は、問題文の意味するところが読みこなせさえすれば、物理の問題として難問というわけではないのですが、状況の複雑さを読み取る読解力のところが難問という問題です。



[4](解答はこちら) 問題文を読み始めて、ばねにつながれた物体の運動なので、単振動が出てくるのか、と思います。摩擦のある領域に出たり入ったりするたびに振動中心が変化するのですが、この問題では、単振動の考察をする部分はありません。はじめの物体Bの運動エネルギーがEと与えられているので、力学的エネルギーがどうなっていくのか、という意識を持って問題を眺めていくことになります。摩擦のない領域での運動では力学的エネルギーが保存され、摩擦のある領域では力学的エネルギーは摩擦力がする負の仕事の分だけ失われる、というところに目をつけて考えていけば、最後までたどりつくと思います。
最後にグラフを描くところで、場合分けをする必要があるので、「
OP間のある位置xで速度0になった」という問題文の表現から、最初の運動エネルギーEに関する条件(解答の@,A)を一々考えておく必要があります。

出てきた結果の通りに何も考えずにグラフを描いてしまえばそれで無事に済んでしまいますが、グラフのに不連続なところができるので、不思議に思う受験生がいたかも知れません。解答の中に書いておきましたが、
ABPを通過して右に進み、振動端まで行って戻ってくると、この間にPを通過したときの力学的エネルギーを保持し続け、勢いがついている(ばねが縮もうとしている)ので、すぐには止まれず、の位置まで来てしまう、ということです。つまり、ABが点Pで運動エネルギー0となって静止したとしても、ばねの弾性エネルギーは残っていて、Pを通過してしまえば、戻ってきたときに、の間では、弾性エネルギーの減少分から供給された運動エネルギーが摩擦力のする仕事を上回ります。
動摩擦係数と静止摩擦係数の違いによってできる不連続点ですが、簡単な設定でいて、おもしろい問題で、解いていて感動させられる入試問題の傑作だと、私は思います。



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