東工大物理'08年前期[3]

図のような荷電粒子の質量を測定する装置を考える。荷電粒子は正の電荷qを持ち、線分OCと直交するように速さでスリットXに入射する(図の☆印)。灰色の領域には紙面垂直上向きに大きさBの磁束密度をもつ一様磁界がかけられている。また領域Y (白抜きの狭い領域)には、粒子が横切ると加速または減速されるような交流電圧がかけられている(fは交流周波数)。図に示すように、この装置の中で粒子は平面内を2周し、再びX付近に戻ってくる。この間Y2回通過するが、1回目と2回目の加速・減速(あるいは減速・加速)のつり合いをうまくとれば2周後にスリットXを再び通過させることができ、そこで粒子検出の信号が発生するようになっている。
以下の設問では、粒子は、磁界の領域からはみ出ることなく真空中を運動し、障害物に衝突することはないものとする。また、スリット
Xの厚みは無視できるものとする。さらに、Yの電極間の幅は円運動の半径に比べて無視でき、粒子は、線分ODを横切る際、瞬時に加速(または減速)されるものとする。
まず、設問
[A][B]においてはXのスリットの幅dの大きさを無視する。
[A](a) スリットXを通過し最初にYに入射するまでの粒子の回転半径と角速度を、粒子の質量mおよびqBの中から必要な記号を用いて表せ。
(b) 粒子が1回目にYを通過したときに、電位差で加速された。1回目にYを通過してから2回目にYに入射するまでの粒子の回転半径と角速度を、粒子の質量mおよびqBの中から必要な記号を用いて表せ。
(c) 1回目にYを通過してから2回目にYに入射するまでの時間Tを、粒子の質量mおよびqBの中から必要な記号を用いて表せ。(以後Tを周回時間と呼ぶ。)

[B] 実際には、粒子は交流電圧の初期時刻とは関係なく不規則に次々と入射する。粒子が入射時刻によらず2周後にスリットXを必ず通過するように周波数fの値を調整する。このような周波数はいくつも存在するが、これらを低い順に並べ,・・・,,・・・と表す(ただしnは整数)
(d) 周回時間Tを、およびnを用いて表せ。
(e) 質量mを、qBnを用いて表せ。

[C] 設問[B]の結果が示すように、粒子の質量mや周回時間Tを求めるには、スリットX2周後に戻ってくるような周波数を見つければよいことがわかる。実際にはスリットXには幅dがあり、スリット中心から外側または内側にそれぞれの範囲で位置がずれたとしても粒子検出の信号が発生する。したがって、この方法で質量を測定する際には誤差が生じる。以下では、1個の粒子に着目し誤差の大きさを評価する。簡単のため、粒子は最初スリットXの中心に正確に入射したものとし、2周後にXを通過する際のスリット幅のみ誤差の原因になるものとして問いに答えよ。
(f) 周波数がから少しずれていたために、2回目にYを通過する時刻における電圧が、加速・減速のつり合いがとれる電圧よりもだけずれた。このため粒子は、スリットXを、その中心よりだけ外側にずれて通過した。dqBの中から必要な記号を用いて表せ。ここで電圧のずれによるエネルギーの変化は粒子の運動エネルギーに比べて十分小さく、 (1に比べて十分小さいとき)としてよい。
(g) ずれた周波数に基づいて求めた周回時間と、真の周回時間Tとの差をとする。そのとき、前問におけるはよい近似での関係式が成り立つものとする(ただしとする)。スリットの幅に起因する質量の誤差の最大値qBbdの中から必要な記号を用いて表せ。


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解答 [C]は、問題文の図をよく見て考える必要があります。何気なく書かれている図でも、大きなヒントが隠されていることもあるので注意したいものです。

[A](a) 粒子に働くローレンツ力向心力となり、粒子は等速円運動を行います。運動方程式は、

......[]
......[
] (公式:を使用)
(b) 粒子がYにおいて受け取るエネルギーです(電位・電圧を参照)1回目にYを通過してから2回目にYに入射するまでの粒子の速さとすると、1回目にYに入射する以前に粒子が持っている運動エネルギーで、Yにおいてというエネルギーを受け取り、Yを通過後の運動エネルギーになるので、エネルギーの原理より、
 ・・・@
(a)と同様にして、
......[]
......[
]
(c) 周回時間 ......[] (公式:を使用)
周回時間が一定になることが[B]を考える上での前提になっていることに注意してください。

[B] 題意がとりづらいのですが、問題文の図をよく見てください。1周目はYで加速されて、戻ってきたときにはスリットからずれた位置を通るのに、2周目では、戻ってきたときにスリットの位置を通る、と、言っているのです。
(b)と同様に考えて、2回目にYに入射したときに電位差で加速(減速)されたとすると、2回目にYを通過して以後の粒子の速さとして、@に対応するエネルギーの式は、
 ・・・A
図を見ると、2周してXに戻ってくるときスリットを通過するためには、このときの半径(a)で求めたに等しくなければいけないのです。ということは、である必要があります。よって、Aより、
 ・・・B
です。これは、とで、ちょうど位相πずれていて、符号が逆の電圧になっている、と、言っているのです。
周回時間は、粒子の速さに依存しないので、例えば、右図のような図を描いて、考えてみてください。
(d) 右図より、黒線について、周回時間Tは、交流電圧周期倍で、
青線について、Tは、交流電圧周期倍で、
赤線について、Tは、交流電圧周期倍で、
これらより、Tは、交流電圧周期倍で、
......[]
(e) (c)(d)の結果を合わせて、
......[]

[C](f) ここでは誤差を考えているのですが、スリットの中心より外側にずれた(半径が大きくなった)、ということは、A式のが少し大きくなった、つまり、B式を、
 ・・・C
として考えろ、と、言っているのです。
この結果、円の
直径が、右図のように大きくなり、
 ・・・D
となります。加速(減速)されるのは、Yにおいてだけなので、Yで円が接することに注意してください。
CをAに代入して、

題意より、なので、を用いて、問題文で指示された近似を行うと、
これをDに代入して、
......[]

(g) (f)の結果でとして、
(c)の結果で、周回時間Tずれによって質量の誤差が生じたとすると、
よって、

......[]


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