東大物理'20年前期[2]

T 図21のように、水平面上に置かれた2本の長い導体のレール上に、質量mの導体棒が垂直に渡してある。磁束密度の大きさBの一様な磁場が全空間で鉛直方向(紙面に垂直方向)にかけられている。導体棒とレールの接点をXYと呼ぶ。また、導体棒はレール方向にのみ動けるものとし、摩擦や空気抵抗、導体棒の両端に発生する誘導電荷、および回路を流れる電流が作る磁場の影響は無視できるものとする。
21のように、間隔dの平行なレールの端に電池(起電力)、抵抗(抵抗値R)、スイッチを取り付け、導体棒を静止させる。スイッチを閉じた後の様子について、以下の設問(1)(5)に答えよ。
(1) 以下の文中の ア  オ の空欄を埋めよ。ただし ア  エ  オ には式を記入し、 イ  ウ にはそのあとの括弧内から適切な語句を選択せよ。
スイッチを閉じると、回路に電流が流れ、導体棒は右向きに動きはじめた。ある瞬間の電流をIとすると、導体棒には大きさ ア の力が働き加速されるからである。このことから磁場の向きは、鉛直 イ  (上,下)向きであることがわかる。導体棒が動くと、接点XY間には ウ  (XY)側を正とする誘導起電力Vが発生し、導体棒を流れる電流は小さくなる。電池の起電力と誘導起電力Vの間に エ の関係が成り立つと、電流は流れなくなり、導体棒の速さは一定になる。この一定の速さを以下では「到達速さ」と表記する。この場合の到達速さは オ で与えられる。

(2) 導体棒に電流Iが流れているとき、微小時間の間に、導体棒の速さや接点XY間の起電力はどれだけ変化するか。速さの変化量,起電力の変化量を、BdImRのうち必要なものを使ってそれぞれ求めよ。

(3) スイッチを閉じてから導体棒が到達速さにいたるまでの間に、導体棒を流れる電気量を、BdmRのうち必要なものを使って求めよ。

(4) 設問(2)(3)より、導体棒に流れる電流や電気量と接点XY間に発生する起電力との関係が、コンデンサーを充電する際の電流や電気量と電圧の関係と類似していることがわかる。スイッチを閉じてから導体棒が到達速さにいたるまでの間に、接点XY間の起電力に逆らって電荷を運ぶのに要する仕事はいくらか。設問(1)で求めた到達速さをとして、BdmRのうち必要なものを使って求めよ。

(5) 設問(3)で求めた電気量をQとすると、スイッチを閉じてから導体棒が到達速さにいたるまでに電池がした仕事はで与えられる。この電池がした仕事は、どのようなエネルギーに変わったか、その種類と量をすべて答えよ。

U 設問Tの設定のもとで、導体棒が間隔dの平行なレール上を到達速さで右に移動している状態から、図22のように、導体棒は間隔の平行なレール上に移動した。以下の文中の カ  ケ の空欄を埋めよ。

この間スイッチを閉じたままであった場合を考える。このとき、間隔のレール上での到達速さは、間隔dのレール上での到達速さに比べ、 カ 倍になる。また、それぞれの到達速さで移動しているときの接点XY間の起電力は、レール間隔が2倍になるのにともない、 キ 倍になる。
次に、導体棒が間隔
dのレール上を到達速さで移動しているときにスイッチを切り、その後スイッチを切ったままの状態で、導体棒が間隔のレール上に移動した場合を考える。このときは、レール間隔が2倍になるのにともない、速さは ク 倍になり、接点XY間の起電力は ケ 倍になる。

V 図23に示すように、間隔dの平行なレールと間隔の平行なレールを導線でつなぎ、設問Tと同様に、電池、抵抗、スイッチを取り付けた。磁場も設問Tと同じとする。スイッチを切った状態で、図23のように質量m2つの導体棒12をそれぞれ間隔d,間隔のレール上に垂直に置き静止させたのち、スイッチを閉じたところ、導体棒12はともに右向きに動き始めた。十分に時間が経ったのち、導体棒の速さは一定と見なせるようになった。このときの導体棒12の速さをBdmRのうち必要なものを使ってそれぞれ求めよ。



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解答 コの字型回路とコンデンサー回路との対比をする問題は過去にも類題がありますが、本問U以降は、頻出問題とは異なる状況のもとに物理的な意味を深く考える必要があってなかなかの難問です。

T(1)() 磁束密度の大きさBの磁場中の長さdの導線部分に電流Iが流れるときに導体棒に働く電磁力の大きさは、 ......[]
() フレミング左手の法則より、力が右向き(左手親指の向き)、電流が下向き(中指の向き)であれば、磁場の向き(人差し指の向き)は鉛直方向下向き ......[]
() フレミング右手の法則より、動く方向が右向き(右手親指の向き)、磁場の向きが鉛直方向下向き(人差し指の向き)のとき、起電力の向き(中指の向き)は電流をYXの方向に流す向きで、このとき、導体棒の外側ではXから電池、抵抗を経てYに電流が流れるので、Xが高電位、Yが低電位側となり、X ......[] を正とする誘導起電力が発生します。
() 導体棒にX側を正とする誘導起電力Vが発生し、 ......[] となると、電流が流れず、導体棒に働く電磁力がゼロになって導体棒の速さは一定になります。
() 導体棒の速さ一定になるとき、コの字型回路の誘導起電力の大きさは、到達速さを,磁束密度の大きさをB,磁場を横切る導体棒の長さをdとするとき、 ∴ ......[]

(2) 導体棒に電流Iが流れているとき、導体棒が受ける電磁力の大きさは運動量の原理より、微小時間の間の導体棒の運動量の変化は、受けた力積に等しく、
 ∴ .......[]
コの字型回路の誘導起電力の大きさVは、,起電力の変化量は、一定より、
......[] ・・・@

(3) @式で、は定数ですが、電流Iは時間変化します。そこで、として、スイッチを入れた瞬間から導体棒が一定速度になるまで積分計算をします。導体棒を流れる電気量は、です。@よりVのとき、tとして(置換積分を参照)

 ∴ ......[]

(4) (3)の結果で、コンデンサーの静電容量Cとみると、
となるので、コンデンサーとの類似が問題文に指摘されています。コンデンサーで考えると、電圧で電荷を蓄えたときの静電エネルギーは、(1)()の結果を用いて、
......[]
これが、XY間の起電力に逆らって電荷を運ぶのに要する仕事になりますが、導体棒が得た運動エネルギーにほかなりません。

(5) 電池のした仕事は、(4)で求めた導体棒の運動エネルギー ()と、抵抗で消費されるジュール熱になります。

U スイッチを閉じたままレール間隔をとするのと、スイッチを切ってからレール間隔をとするのとで、どう違って、それぞれ、何が保存されるのかを深く考察する必要があります。
まず、スイッチを閉じたまま、レール間隔をとすると、導体棒が一定速度になるときには導体棒に電磁力が働かず回路に流れる電流がゼロになるので、導体棒に発生する最終的な誘導起電力はです。
() 導体棒の到達速さをとして、導体棒に発生する誘導起電力について、
 ∴   ......[]
() 接点XY間の起電力はのまま変わらず、1 ......[]
スイッチを切ってから、レール間隔をとすると、導体棒に発生する最終的な誘導起電力は電池の電圧にはなりません。このときは、スイッチが切れていて回路に電流が流れないので、導体棒には電磁力が働かず、導体棒は等速度運動を続けます。
() 力が働かないので、導体棒の速さはのまま変わらず、1 ......[]
() 接点XY間の起電力は、 2 ......[]

V 導体棒1,導体棒2は、直列に接続されているので、電流は共通で、ある瞬間におけるこの電流をIとします。この瞬間に導体棒1,導体棒2が受ける電磁力は、それぞれ、で、この瞬間の微小時間に導体棒1,導体棒2が受ける力積は、それぞれ、です。この瞬間の微小時間における導体棒1,導体棒2の速さの変化をとして、運動量の原理より、
 ∴
スイッチを入れた瞬間の速さは、導体棒1,導体棒2とも0です。導体棒1,導体棒2の到達速さを,また、として、スイッチを入れた瞬間から導体棒の速さが一定とみなせるときまで積分計算を行うと、のとき、として(置換積分を参照)
 ∴  ・・・A
導体棒の速さが一定になり回路に電流が流れなくなったとき、導体棒1,導体棒2に発生する誘導起電力は、それぞれ、キルヒホッフ第2法則より、
Aより、 ∴ ......[],Aより、 ......[]



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