東大物理'22年前期[1]
地球表面上の海水は、地球からの万有引力の他に、月や太陽からの引力、さらに地球や月の運動によって引き起こされる様々な力を受ける。これらの力の一部が時間とともに変化することで、潮の満ち干が起こる(潮汐運動)。ここでは、地球の表面に置かれた物体に働く力について、単純化したモデルで考察しよう。なお、万有引力定数をGとし、地球は質量で密度が一様な半径Rの球体とみなせるとする。以下の設問T,U,Vに答えよ。
T 地球の表面に置かれた物体は地球の自転による遠心力を受ける。地球の自転周期をとするとき、以下の設問に答えよ。
(1) 質量mの質点が赤道上のある地点Eに置かれたときに働く遠心力の大きさ,および北緯のある地点Fに置かれたときに働く遠心力の大きさを求め、それぞれm,R,を用いて表せ。
(2) 設問T(1)の地点Eにおける、地球の自転による遠心力の効果を含めた重力加速度を求め、G,,R,を用いて表せ。
U 次に、月からの引力と、月が地球の周りを公転運動することによって発生する力を考える。ここではこれらの力についてのみ考えるため、地球が自転しないという仮想的な場合について考察する。 月が地球の周りを公転するとき、地球と月は、地球と月の重心である点Oを中心に同一周期で円運動すると仮定する(図1-1)。なお、図1-1において、この円運動の回転軸は紙面に垂直である。月は質量の質点とし、地球の中心と月との距離をaとする。また、地球の中心および月から点Oまでの距離をそれぞれ,とする。以下の設問に答えよ。
(1) 点Oから見た地球の中心および月の速さをそれぞれ,とする。およびをa,G,,を用いて表せ。 (2) 点Oを原点として固定したxy座標系を、図1-2(a)のように紙面と同一平面にとる。時刻において、座標がである地球表面上の点を点Xとする。月の公転周期をとするとき、時刻t における点Xの座標を、,R,,t を用いて表せ。ただし、地球の自転を無視しているため、時刻以降で図1-2(b),(c)のように位置関係が変化することに注意せよ。
(3) 設問U(2)の点Xに、およびに比して十分に小さい質量mの質点が置かれているときを考える。この質点について、地球が点Oを中心とした円運動をすることで生じる遠心力の大きさを求め、G,m,,aを用いて表せ。
(4) ある時刻において、地球表面上で月から最も遠い点をP,月に最も近い点をQとする。質量mの質点を点Pおよび点Qに置いた場合に、質点に働く遠心力と月からの万有引力の合力の大きさをそれぞれ,とする。,をG,m,,a,Rを用いて表せ。また、点Pおよび点Qにおける合力の向きは月から遠ざかる方向か、近づく方向かをそれぞれ答えよ。
V さらに、太陽からの引力と、地球の公転運動によって発生する力について考える。これらの力についても設問Uと同様に考えられるものとする。なお、地球と太陽の重心を点とする。太陽は質量の質点とし、地球の中心と太陽の距離をbとする。 図1-3のように、ある時刻において地球表面上で太陽から最も遠い点をSとする。質量mの質点が点Sに置かれたとき、地球が点を中心とした円運動をすることで生じる遠心力と太陽からの万有引力の合力の大きさをとする。設問U(4)で求めたに対するの比は以下のように見積もることができる。 表1-1
地球の質量 | | |
月の質量 | | |
太陽の質量 | | |
地球の中心と月との距離 | a | |
地球の中心と太陽との距離 | b | |
地球の半径 | R | |
万有引力定数 | G | |
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解答 題材は難しそうですが、やってみると等速円運動と慣性力(遠心力)の基本問題です。
T(1) 地球の自転周期がなので、地球の自転の角速度はです。赤道上の地点Eでは円運動の半径はRなので、質量mの物体に働く遠心力の大きさは、 ......[答] 北緯の地点Fでは、円運動の半径はとなり、遠心力の大きさは、 ......[答]
(2) 地球と地球上の物体との間に働く万有引力による重力加速度をとすると、 万有引力と遠心力は逆向きで、遠心力も含めた重力は、 ∴ ......[答]
∴ ......[答] ∴ ......[答]
(2) 月の公転周期がであることから、月の角速度はです。図1-2(a)を見ると、地球の円運動の中心は、のときに,図1-2(b)を見ると、時刻tにおいて、月の回転角(月と原点Oを結ぶ動径がx軸となす角)は,地球の中心と原点Oを結ぶ動径がx軸となす角は,地球の中心の座標は、 点Xの座標は、 ......[答]
(3) @より、地球の円運動の加速度の大きさは、 ......[答] 慣性力の向きは、地球の円運動の加速度と逆向きで、地球の円運動の加速度は円の中心Oを向くので、質点が受ける遠心力の向きは、円の中心Oから外向きです。
(4) 質点と月の間に働く万有引力は、点Pでは、点Pと月との距離がなので、大きさは,向きはPから月の方向です。点Qでは、点Qと月との距離がなので、大きさは,向きはQから月の方向です。 地球の円運動による遠心力は、(3)より、大きさは,向きは月から遠ざかる向きです。
よって、点P,点Qにおける遠心力と万有引力の合力の大きさ,は、より、 ......[答]
......[答] 合力の向きは、は月から遠ざかる方向、は月に近づく方向 ......[答] 注意.ここは、勘違いしやすいので注意が必要です。ある時刻t において、図1-2(a)()から測るとき、地球の中心の点Oの周りの回転角はですが、図1-2(c)は、の状況で描かれています。このときの地球の円運動の向心力は右図の赤い矢印の向きで、点Oから月に向かう向きです。従って、P,Qに置かれた物体に働く遠心力は、月から遠ざかる向きです。問題文中の図1-2(c)だけを見ると、のときに、向心力、従って、遠心力の向きが変わるように錯覚しやすいのですが、このときは、右図の右側のような位置関係にあって、やはり、遠心力は月から遠ざかる向きです。月も点Oの周りに円運動していることに注意してください。
V Uの月を太陽と入れ替えて、,とすると、と同様に考えては、 表を見ると,より、 つまり、,に入る数字は、4 ......[答]
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