東京医科歯科大物理'10[1]

地表面上で静止した半径Rの球面の内側に沿って、図1のように質量mの物体が等速円運動している。球の中心点Oから垂らした鉛直線と球面との交点をA,軌道上の一点をBとすると、角AOBの大きさはθ ()であった。ただし、物体の大きさおよび物体と球面との摩擦は無視できるものとし、重力加速度をgと表記する。
以下の各問いに答えよ。


1 物体が球面から受ける垂直抗力の大きさを求めよ。
2 等速円運動の周期Tを求めよ。また、Tθ の関数とみなし、その概形を解答用紙中のグラフに図示せよ。

つぎに物体を点Bに静止させ、そっと手を離した。すると物体は点Aを通る振動を始めた。

3 手を離した瞬間に、物体が球面から受ける垂直抗力の大きさを求めよ。
4 点Aにおける物体の速さvおよび物体が球面から受ける垂直抗力の大きさを求めよ。

つぎに、図2のように、点Oを通る水平面で球を切断し上半分を除いて半球とし、これをの方向に加速度にて等加速度運動させる。ただし点Cは点Bから線分OAにおろした垂線の足である。半球とともに運動する観測者が物体を点Bに静止させ、そっと手を離した後の運動に関して、次の問いに答えよ。

5 物体は球面から離れたり半球の外に飛び出すことなく、点Aを通る振動を始めた。θ の満たす条件を求めよ。
6 手を離した瞬間に、物体が球面から受ける垂直抗力の大きさを求めよ。
7 半球とともに運動する観測者から見た、物体の速さの最大値Vを求めよ。


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解答 重力を考慮する必要のある鉛直面内の円運動は、不等速円運動になりますが、ここにさらに慣性力が加わるとどうなるか、という問題です。問5の聞き方が漠然としていて何をすればよいか悩みますが、別解のように最初から見かけの重力を考えれば一本道です。

1 物体は鉛直方向には動きません。鉛直方向に物体に働くは、下向きの重力垂直抗力の鉛直方向成分(上向き)です。鉛直方向の力のつり合いより、
......[]
2 水平面において、物体は、半径の円周上を等速円運動します。向心力垂直抗力の水平方向成分です。物体の速さvとして、運動方程式は、

長さ円周速さvで回るので、等速円運動の周期Tは、
......[]
グラフは右図実線。
3 物体は球面に沿って運動を始めるので、球面に垂直な方向(法線方向)では、力のつり合いが成立します。法線方向に物体に働くは、中心に向かう方向の垂直抗力重力の法線方向成分(中心から外向き)です。
......[]
4 A点を基準としてB点における物体の位置エネルギー A点での運動エネルギー力学的エネルギー保存より、
......[] ・・・@
物体が点
Aに来たときに物体に働く力は、鉛直上向きの垂直抗力と鉛直下向きの重力です。点Aにおける運動方程式は、
@より、
......[]
5 まず、半球とともに移動する観測者から見て、手を離した時に物体に働くは、垂直抗力重力慣性力ですが、いずれも、直線OBから点Aの位置する側の方に向くです。従って、手を離した後に、物体はBからAの側に動き始めるので、半球の右端から外側に飛び出すことはありません。
また、動き始めて以降、点Aに到達するまで、物体に働くは、物体の位置と球の中心を結ぶ直線から点Aの位置する側の方に向くので、物体は、Aの方へ動き続けます。しかも、慣性力重力もともに物体に正の仕事をなすので、物体の速さは次第に大きくなります。従って、物体は必ず点Aを通ります。
以上より、物体が振動するためには、物体が半球内面との接触を保ち、半球の左端から飛び出さなければよいことになります。
物体の位置と球の中心を結ぶ直線と直線
OAとのなす角がφ ()のとき、法線方向に物体に働くは、垂直抗力N (中心を向く)重力の法線方向成分 (中心から外を向く)慣性力の法線方向成分 (中心を向く)で、物体の速さvとして、円運動の運動方程式
 ・・・A
Bから角φの位置まで物体が来るとき、点Bを基準として、重力位置エネルギー慣性力がする仕事
力学的エネルギー保存より、
 ・・・B
Aに代入して、

 ・・・C
,つまり、において、N,つまり、のときに最小です。においてもであれば、物体は、BAの間で半球との接触を保ちます。よって、Cでとして、
 (6で見るように、このNB点での垂直抗力です)
 ・・・D
半球の左端を越えない条件は、のときにとなることです。Bより、
よって、
Dも考慮して、より、
......[]
別解.上記では、あまりに大変です。以下のように、「見かけの重力」に着目しましょう。
AからBと逆の側へ回った点をDとします。鉛直下向きの重力方向の慣性力を合成すると、から時計回りに回転した方向(方向)を向く大きさの「見かけの重力」になります。
この状況は、半球を反時計回りに回転させ、
Dが底になるように半球を置いて重力加速度にしたのと同じ状況です。
となる位置に物体を置くと、
見かけの重力のために物体は半球の内面から離れてしまいます。
であれば、物体をどこに置いても
A側に動き始め、半球から飛び出すことはなく、必ずAを通ります。
ODに関する対称性から、半球の左端から物体が飛び出さないために,これより、となります。
6 Cにおいてとすることにより、手を離した瞬間に、物体が球面から受ける垂直抗力の大きさは、
......[] (に注意)
7 物体の運動エネルギーは、Bより、φの範囲を動くとき、,つまり、のときに最大となり、そのときとして、
......[]


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