京大物理'04年前期[2]
次の文を読んで、 に適した式をそれぞれの解答欄に記入せよ。なお、文中に挿入された問1については、解答欄にグラフを描け。
図1のように、一端が壁Aで閉じられた、断面積Sのシリンダーがあり、摩擦なしで動くことができるピストンB,Cによって3つの空間領域T,U,Vに分けられている。領域Tには電気抵抗rのニクロム線でできたヒーターがあり、内部抵抗を無視できる起電力Vの電池とスイッチKでできた外部の回路に導線でつながれている。ピストンBにはごく細い通気口が開けられているが、最初は弁Dによって閉じられている。ピストンB,Cは、フックの法則に従う自然の長さがLのばねで結ばれている。シリンダー内には、壁Aから距離の位置にストッパーが、さらにからばねの自然長LとピストンB,Cの厚さをあわせた距離の位置にストッパーが設けられ、ピストンを停止できるようになっている。ただし、Lはより大きい。また、シリンダーとピストンはともに断熱材でできており、ストッパー、ばね、弁、通気口、ヒーターおよび導線の体積は、いずれも無視できるものとする。なお、大気圧をとする。
最初は、領域Uは真空で、領域Tには単原子分子理想気体が入れられ、その圧力と温度がそれぞれ,であった。また、領域Vは常に大気圧の外気と通じている。図1に示したように、この状態でピストンBはストッパーに接触して停止し、ピストンCはストッパーから距離aの位置で停止していた。このことから、ばね定数は イ であることが分かる。その後、以下のように過程(1)から(4)の順にシリンダーの状態を変化させた。
(1) スイッチKを閉じて回路に電流を流すと、領域Tの気体の温度はゆっくりと上昇し、ある時刻にピストンBがストッパーを離れ始めた。このときの領域Tの気体の温度は ロ であった。電池により供給されたエネルギーがすべて気体に吸収されたとすれば、この時刻はスイッチKを閉じてから時間 ハ の後である。 (2) その後、ピストンBはゆっくりと移動し、領域Tの気体の温度が ニ になると、ピストンCがストッパーに接触し停止した。この過程で領域Tの気体が吸収した熱量は ホ である。 (3) さらにピストンBはゆっくりと移動し、ピストンB,C間の距離が縮まっていった。ばねの長さがに達した時点でスイッチKを開いた。このとき領域Tの気体の温度は ヘ であり、過程(3)で領域Tの気体が吸収した熱量は ト である。 問1 (1)から(3)までの過程における領域Tの気体の状態変化の様子を、図2のように体積を横軸に、圧力を縦軸にとり、解答欄にグラフで示せ。グラフ用紙の横軸と縦軸の目盛りの数値は、それぞれ量とを1として表している。例えば図中の×印の点は、体積が,圧力がの状態に対応する。グラフは概略を示すものでよいが、図中の記入例にならって、各過程の始点と終点に黒丸・を、さらに適当な位置に(1),(2),(3)の番号を付け、グラフのそれぞれの部分がどの過程を表すかが分かるようにすること。
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解答 「ばねつきピストン」というだけでなく、(4)では、自由膨張まで考えるので、問題文に「断熱変化」というヒントはありますが、それでも考え込んでしまいます。
(イ) ばね定数をkとします。最初、ピストンCには、右向きで大きさの(ばねの)弾性力と、左向きで大きさの大気圧による力が働いて、つりあっています。 力のつり合い:
∴ ......[答]最初の領域Tの気体(以下、気体Tとします)について、状態方程式: ・・・@
(1)(ロ) ピストンBがストッパーを離れるとき(ピストンBとストッパーの間の垂直抗力は0)、気体Tの圧力をP,温度をとして、ピストンBとばねとピストンCから成る系に働く力は、気体Tの圧力による右向きで大きさの力と、大気圧による左向きで大きさの力で、この両者の力のつり合いより、 このときの気体Tの状態方程式: ・・・A
A÷@より、 .......[答]
(ハ) スイッチKを閉じてから、ピストンBがストッパーを離れるまで(この間の変化は定積変化です)の時間をtとして、気体Tが吸収した熱は 気体Tの体積は変化していないので、気体Tのした仕事は0気体T(単原子分子理想気体なので定積モル比熱はです)の内部エネルギーの変化は、温度がと変化したので、@を用いて、 ∴ ......[答]
(2)(ニ) (1)の後、ピストンBとばねとピストンCから成る系に働く力は、右向きの気体Tの圧力による力と、左向きの大気圧による力のみです。ピストンBがゆっくり移動したと問題文に書かれているので、無視できるくらいの小さな速度で等速度運動したと考えると、過程(2)においても、ピストンBとばねとピストンCから成る系に働く力のつり合いが成立します。従って、気体Tの圧力はで一定に保たれていて、気体Tは定圧変化をしています。 ピストンCがストッパーに接触したとき、気体Tの体積はで、温度をとして、気体Tの状態方程式: ・・・B
B÷@より、 ......[答]
(ホ) 単原子分子理想気体の定圧モル比熱はです。過程(2)において気体Tの温度は、と変化します。 定圧モル比熱の式を用いると、過程(2)において気体Tが吸収した熱量は、@を用いて、
......[答]
(3)(ヘ) ばねの長さがに達した時点(ばねの縮みは)で、気体Tの体積はで、圧力を,温度をとして、 ピストンBに働く力のつり合い:(イ)の結果を用いて、 この時点での気体Tの状態方程式: ・・・C
C÷@より、 ......[答]
(ト) 過程(3)において、ピストンCはストッパーに押さえられているので、気体Tは大気に対しては仕事をせず、ばねに対してのみ仕事をします。 ばねの縮みがと変化するので、気体Tがばねに対してした仕事、即ち、ばねが蓄えた弾性エネルギーは、(イ)の結果を用いて、 気体Tの温度はと変化するので、この間の気体Tの内部エネルギーの変化は、 ......[答] なお、過程(3)において、ばねの縮みをxとする()と、気体Tの圧力Pと体積の間には、
ピストンBに働く力のつりあい:
よりxを消去して、 ∴ ・・・D
という関係があります。 問1 各過程において、(体積,圧力)の変化を確認しておくと、
過程(1)では、 (定積変化)過程(2)では、 (定圧変化)過程(3)では、と変化します。Dより、グラフは直線の一部分になります。状態変化の様子をグラフに表すと右図。
(4)(チ) 過程(4)は断熱変化で気体の吸収した熱量は0です。 弁Dを開けると気体は領域Uへ漏れ出しますが、領域Uは真空で真空への膨張(自由膨張)では、気体は仕事をしません。ピストンCがストッパーに接触したままなので、気体Tは大気に対しても仕事をせず、ばねに対してのみ仕事をします。
ばねの縮みがと変化するので、気体Tがばねに対してした仕事、即ち、ばねが蓄えたエネルギーは、(3)と同様にして、 負になるということは、ばねが弾性エネルギーを放出して気体に対して仕事をした(気体は仕事をされた)ということです。
過程(4)において、気体Tの温度がになったとして、気体の内部エネルギーの変化は、
熱力学第一法則より、 @より、だから、 ∴ ∴ ......[答]
(リ) ばねが自然長にもどったとき、領域T,領域Uにある気体の体積は,このときの気体の温度は,圧力をとして、
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