京大物理'08年前期[3]
次の文を読んで、 には適した式または数値を、{ }には図3から適切なものを選びその番号を、それぞれの解答欄に記入せよ。また、問1,問2では指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。
電磁波の一種であるγ線の放射と測定について考察しよう。物質を構成する原子は電子と原子核からなり、原子核の内部のエネルギーが高い状態から低い状態に移るときに、原子核からγ線が放射される。以下では、電子の質量は原子核の質量と比較して非常に小さいため、無視できるものとする。
振動数fの電磁波は、ある一定のエネルギーをもった粒子の集まりと考えることができ、その粒子を光子という。光子1個のエネルギーは,運動量は電磁波の進む向きにの大きさであることがわかっている。ここで、hはプランク定数とよばれる定数であり、cは光速である。
以下において、原子核の内部のエネルギー状態には、励起状態とよばれるエネルギーの高い状態と基底状態とよばれるエネルギーの最も低い状態の2つがあるものとする。励起状態のエネルギーを,基底状態のエネルギーをとし、そのエネルギー差をとする。
まず、質量Mの原子核1個によるγ線放射を考える。原子核が励起状態から基底状態に移るときに、γ線の光子が1個放射される。静止していた原子核は、図1のようにγ線放射の反作用により速さvで動き出す。速さvの原子核の運動エネルギーと運動量の大きさは、原子核が基底状態にあるか励起状態にあるかに関わりなく、それぞれ,としてよい。また、原子核の全エネルギーは内部のエネルギー(または)と原子核の運動エネルギーの和で与えられる。よって原子核から振動数のγ線が放射される場合、エネルギー保存則はを用いて あ ,運動量保存則は い と書くことができる。ここで、はに比べ充分に小さいことがわかっている。絶対値が1より充分に小さい数δ に対して成り立つ近似式を用いると、は,M,c,hを用いて う となる。
次に、この原子核をもつ原子N個で構成されている静止した結晶からのγ線光子1個の放射を考える。この結晶の質量はで与えられる。以下では、結晶は充分低温であるものとし、原子核が結晶中に固定され、γ線を放射する原子核はその反作用を受けても結晶中に固定されたままであるとする。この場合、γ線放射の反作用は結晶全体で受け止められ、結晶が速さで動き出すものとする。このときの放射γ線の振動数は,M,N,c,hを用いて え となる。また、構成する原子数が無限大とみなせる大きい結晶の場合、放射されるγ線の振動数はとなる。
問1 原子N個で構成されている静止した結晶からのγ線光子1個の放射について、エネルギー保存則と運動量保存則を記述せよ。さらにNが無限大とみなせるとき、エネルギー保存則において結晶の運動エネルギーの項がその他の項に比べて無視でき、その結果、放射γ線の振動数がとなることを説明せよ。
同様の考察により、同じ種類の原子で構成されている静止した大きい結晶にγ線を当てると、この結晶は振動数のγ線のみをよく吸収することがわかっている。このような結晶をここでは吸収体とよぶ。
次に、図2のような実験装置を用いたγ線の測定を考えよう。
γ線源は同じ種類のN個の原子で構成された結晶多数からなり、振動数のγ線を一定の強度(単位時間当たりに放射されるγ線の光子数)で放射するものとする。吸収体を乗せた台車を水平な床の上におき、図2のように左端を床に固定したばねにつなぐ。γ線源は台車から充分に遠方に置かれ、γ線は吸収体付近で図2のx軸に平行に進むものとする。吸収体の表面はx軸に垂直である。吸収体は、振動数以外の振動数のγ線を通過させるが、振動数のγ線を完全に吸収するものとする。吸収体の後方の床上にγ線強度測定器を設置する。吸収体からのγ線放射は無視できるものとする。
ばねを自然の長さのときの位置OからAだけ伸ばして、時刻に静かに放すと、台車はx軸に平行に角振動数ωで単振動する。以下では、吸収体の運動により、吸収体中で観測されるγ線の振動数は音波のドップラー効果と同じ変化をするものとする。なお、吸収体の屈折率によるγ線の速度の変化は無視できるものとする。この場合、γ線の波長をλとすると、吸収体が速さVで運動しているときは、静止しているときに比べ、単位時間当たりに吸収体に到達する波の数がだけ変化する。よって、時刻tにおいての関係がある。(おはλ,Vを用いずに表せ。)
台車が動き始めてから時刻で突然、測定器で測定されるγ線強度が変化した。がに一致したからである。絶対値が1より充分小さい数δ に対して成り立つ近似式を用いると、の満たす条件は か である。(かは,,を用いずに表せ。)
ここで、,の原子核のγ線放射において、,のときにで測定されるγ線強度が変化したとする。なお、とする。このときのωを有効数字1けたで求めると き rad/sである。また、台車が一周期単振動するとき、想定されるγ線強度との関係は図3の{ く }のように予想される。
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解答 光子が出てくるので原子分野の問題のようにも見えますが、光子の定義、光子1個のエネルギー,運動量の大きさが与えられているので、原子分野を履修していなくても解答できます。むしろ、ドップラー効果と運動量保存則、エネルギー保存則の融合問題と言うべきでしょう。
(あ) 原子核がはじめに持っているエネルギーは,γ線放出後、原子核が持っているエネルギーはと運動エネルギーでγ線光子の持っているエネルギーがより、 (い) はじめ原子核は静止していたので運動量は0,右向き正として、γ線放出後の原子核の運動量が,γ線光子の運動量がより、 (う) (い)の結果より、 これを(あ)の結果に代入すると、
......[答] ......[答]
問1 (あ)(い)について、M→NM,v→,→として、 (2)より、
これを(1)に代入すると、 (う)と同様にすれば、これより、(え)で、,→として、 が得られたことが確認できます。ここで、とすると、より、 が得られます。
(お)吸収体の時刻tにおける位置は、 (単振動を参照) 吸収体の時刻tにおける速度は、
吸収体の速度がVのとき、吸収体中で観測されるγ線の振動数は、γ線のもとの振動数からだけずれます。なら (波源から遠ざかるときは振動数→小),なら (波源に近づくときは振動数→大)に注意して、 両辺をで割り、を用いると、 (ドップラー効果の公式を使えばすぐにこう書けます)
......[答] (か) (え)の結果で、とおくと、 (お)の結果で、,として、 (3) は微小量なので、 (3)に代入し、
∴ ......[答] (き) (か)の結果に数値代入すると、
これより、0.6 ......[答] このとき、吸収体でγ線が完全に吸収されてしまうので、γ線強度測定器で観測されるγ線強度は0です。これ以外の時には、γ線は吸収体を通過してγ線強度測定器に到達するので、一定量のγ線が観測されます。
B ......[答]
問2 γ線は、のとき吸収体に完全に吸収され、それ以外のときにはγ線強度測定器に到達するから ......[答]
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