京大物理'21年前期[3]
次の文章を読んで、 に適した式または数値を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、 はすでに で与えられたものと同じものを表す。また、問1,問2では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。ただし、円周率をπとする。
(1) 図1のように、X線の結晶による反射を考える。結晶の中で、原子は間隔dで平行に並んだ面T,U,V,・・・上に規則正しく並んでいる。また、X線の発生源は結晶から十分離れた場所に置かれており、X線は結晶に対して同じ方向から平行に入射するとしてよい。このとき、入射X線と結晶面のなす角度をθとする。原子により反射されたX線を結晶面から角度θの方向にある検出器で検出する。検出器も結晶から十分離れた場所にあり、検出器で観測する反射X線は全て平行であるとしてよい。ここで、θは0からの範囲で考えるものとする。またX線の波長をλとする。 図2に示すように、結晶面T上にある原子Pと、その一層下の結晶面U上にある原子QによるX線の反射を考える。原子Qは原子Pの直下にあるものとする。このとき、2つのX線の経路差はdおよびθを用いて あ と表される。従って、2つのX線が強め合うための条件式は、kを正の整数として波長λ,間隔d,および角度θを用いて い で表される。
(2) 原子とX線の間にはたらく力により、X線の軌道は結晶内に入るとわずかながら変化する。それを屈折率の形で表すと、結晶中の屈折率nは1よりごくわずかに小さい値を持つ。また、X線の空気中の屈折率は1であるとする。屈折率を考慮すると(1)で求めた条件式がどのように変更されるか考察しよう。図2と同様に、結晶面T上にある原子Pと、その一層下の結晶面U上にある原子QによるX線の反射を考える。ただし、X線は全反射が起こらない角度で入射するものとする。このとき、結晶内ではX線の波長が変化し、図3に描かれているように原子Qには角度θより小さい角度でX線が入射することになるが、との間には う という関係式が成り立つ。また、結晶中の波長をとすると、は空気中での波長λと結晶中の屈折率nを用いて え で表される。従って、2つのX線の位相の差は、d,λ,n,θを用いて お と表される。ただし、X線の発生源における2つのX線の初期位相は同じであるものとする。また、 お がの整数倍の場合にはX線が強め合うという条件から、2つのX線が強め合うための条件式は、d,λ,n,θ,正の整数kを用いて か で表される。
(3) 電子や中性子などの粒子は、波動の性質も示すことが知られている。これをド・ブロイ波(物質波)といい、その波長λは粒子の質量をm,速さをvとして で与えられる。ここで、hはプランク定数と呼ばれる定数である。ド・ブロイ波は周期T,波長λの正弦波で表せ、粒子が結晶に入射するとX線のときのように回折や干渉が起こる。
いま、図4に示すようなxy平面が水平面、z軸下向きが重力の向きとなるよう直交座標軸をとり、重力加速度の大きさをgとする。平面Σは、水平面と交わる直線がy軸と平行となる平面であり、その直線を軸にして回転できるものとする。平面Σが水平面となす角をαとする(図4の角度の向きを正とする)。平面Σ内に平行四辺形ABCD,そして点E,Nが存在し、辺ABは水平面上にある。点N,A,Bおよび点D,C,Eは、それぞれ同じ直線上にあり、辺ABと辺DCの間隔はsである(図5参照)。
平面Σ内の詳細を図5に示す。ここで、中性子が平行四辺形ABCD上の辺を運動するよう、適当な結晶を点A,B,C,Dに適切な角度で配置し、点Nにある中性子源から点Aに速さを持つ中性子のビームを入射させる。ただし、中性子は十分に速く、中性子の軌道は重力によって影響を受けないとする。また、結晶の厚さは無視できるほど十分薄いとし、さらに、結晶中の屈折率は近似的にとして取り扱うものとする。中性子の質量をmとし、入射するド・ブロイ波の波長をとする。この中性子ビームは一般に結晶を透過する成分と結晶により散乱される成分に分かれるが、散乱される成分に対しては(1)で求めた反射の条件が満たされるものとする。結晶で2つに分かれた中性子の波を再度2つの結晶上の点BおよびDで反射させることにより、点Cに集約させ、点Eでド・ブロイ波を観測する。
にとり、平行四辺形ABCDが水平面に対して垂直になる場合を考える。中性子が辺DCを動くときは、速さがと異なるため、,,,sを用いると、波長は き となる。 き との違いは非常に小さいが、2つの異なる経路によるド・ブロイ波の干渉を見ることにより、中性子に対する重力の影響を観測することができる。
問1 にとり、辺ABの長さをとしたとき、中性子が経路ABCEを通る場合と経路ADCEを通る場合で、正弦波の位相の差を求め、,m,,s,,h,の中から必要なものを用いて答えよ。導出過程も示せ。なお、ド・ブロイ波の周期Tは2つの経路で変化せず、位相の差は波長の違いのみで決まる。さらに、はに比べてはるかに小さいものとし、必要に応じてが1より十分に小さいときに成り立つ近似式 を用いてもよい。
問2 ,,入射するド・ブロイ波の波長とする。以下の問いに答えよ。 (i) 図4の角度αを変化させながら点Eで中性子ビーム強度を観測することにより、重力の影響をみることができる。角度αを0からまで増加させたとき、点Eで中性子ビームが干渉により強め合うことが何回起こるか答えよ。 (ii) 角度αを0から増加させたとき、点Eで中性子ビームがはじめて干渉により弱め合うときのの値を有効数字2けたで答えよ。
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解答 前半は基礎的問題ですが、後半は、なぜ平行四辺形なんだろう、などと考えてしまうと混乱するかも知れません。
(1) 2つのX線の経路差は、 ......[あ]
2つのX線が強め合うための条件式は、 ......[い] (波の干渉を参照)
(2) 入射角は,屈折角はです。屈折の法則より、
∴ ......[う] 屈折率nの物質中では、光の波長はになるので、 ......[え]
2つのX線の位相差は、d,λ,n,θを用いて答えるので、(う)、(え)の結果を用いて、 ......[お] 2つのX線が強め合うための条件式は(波の干渉を参照)、位相差がの自然数倍となることで、 ∴ ......[か]
(3) 中性子の速さがなので、中性子源NからAに入射する中性子のド・ブロイ波の波長は、 ・・・@,辺DC間を動くときの中性子の速さをとすると、力学的エネルギー保存より、 ∴ ・・・A 辺DC間を動く中性子のド・ブロイ波長は、
,,,sを用いて答えるので、@,Aより、 ......[き]
問1 2経路で、A→DとB→Cとで中性子の移動時間に違いはなく、A→BとD→Cでは速さの違いによって波長が異なり、2経路でのド・ブロイ波の位相差は、(き)の結果を用いて、さらに問題文の近似を行うと、 ......[答] (を使わない答え方もあります)
問2 角度αがの範囲で変化すると、辺DCのxy平面からの高さはsからへと変化します。このときの辺DC間を動く中性子の速さ、またド・ブロイ波長は、Aと[き]の結果でとして、 , 問1の結果より、2経路でのド・ブロイ波の位相差は、となりますが、@より、となるので、2経路でのド・ブロイ波が強めあう条件(波の干渉を参照)は、kを整数として、 与えられた数値を代入して(平行四辺形の面積はです)、 ・・・B より、,
これを満たす整数kは、の9個。よって、中性子ビームが干渉により強め合うことが9回 ......[答] 起こります。
角度αを0から増加させたとき、点Eで中性子ビームがはじめて干渉により弱め合うのは、Bのkが、のとき(弱めあうときなので、kは半整数です)で、 ......[答]
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