東工大物理'13年前期[2]
図1のように、水平なxy平面上に固定された2本の平行なレール甲、乙と、そのレール上に置かれた電気抵抗をもつ2本の棒1,2よりなる装置がある。2本のレールは導体でできており、x軸に平行になるように間隔で配置されている。レール間にはスイッチを介して静電容量Cのコンデンサーが接続されており、レール甲は接地されている。2本の棒はy軸に平行になるようにレール上に置かれ、向きを保ったままレール上をx軸の向きになめらかに動くことができる。棒1と棒2の質量をそれぞれ,とする。また、棒1と棒2をレール間に渡したときの電気抵抗はそれぞれ,である。の部分には鉛直上向きに磁束密度の大きさBの一様な磁場がかけられている。の部分の磁束密度の大きさは0である。
レールと棒の太さは無視できるとする。レールは充分に長く、実験中に棒が端に達することはない。また、棒1と棒2は十分離れており、実験中互いに接触しないものとする。レールと棒の摩擦や空気抵抗、棒以外の電気抵抗、回路を流れる電流により発生する磁場、レール間の静電容量は無視できる。
以下では、棒を流れる電流はy軸正方向を正とし、棒の速度、運動量、棒に働く力はx軸正方向を正とする。解答には、小問中で指定されたもの以外に
を用いてよい。
[A] まず、図2のようにスイッチを開いた状態で実験を行う。棒2をの部分に速度が0になるようにそっと置き、棒1をの部分から初速度 ()で滑らせる。 (a) 棒1がを通過した直後に棒1に流れる電流を初速度を用いて表せ。 (b) 以下の空欄に入る適切な数式を答えよ。解答欄には答えのみを書くこと。
棒1がを通過したあとのある時刻において、棒2を流れる電流をとする。棒2に働くローレンツ力f はを用いて ア と与えられる。微小時間あたりの棒2の速度の変化はである。このとき棒1には電流が流れるから棒1に働くローレンツ力はであり、棒1の速度変化はである。従って、棒1と棒2の運動量の和の変化はであり、運動量の和は時間とともに変化しない。
時間が十分経過したあと、それぞれの棒の速度が変化しなくなった。このとき、それぞれの棒に働くローレンツ力は0であるから、棒に電流は流れていないはずである。従って、十分時間が経過したあとの棒1の速度と棒2の速度の間に、運動量保存の式とは別に、関係 イ が成り立つ。このことから、時間が十分経過したあとの棒1の速度とレール乙の電位はを用いて ウ , エ と表すことができる。
(c) 棒1に初速度を与えてから最終的にそれぞれの棒の速度が変化しなくなるまでに、棒1で発生したジュール熱をを用いて表せ。
[B] 今度は、図3のようにスイッチを閉じた状態で同様の実験を行う。棒2をの部分に速度が0になるようにそっと置き、棒1をの部分から初速度 ()で滑らせる。はじめコンデンサーは充電されていないものとする。 (d) 以下の空欄に入る適切な数式を答えよ。解答欄には答えのみを書くこと。
棒1がを通過したあとのある時刻において、レール乙の電位をV,棒1と棒2を流れる電流をそれぞれ,とし、微小時間あたりの棒1と棒2の速度の変化をそれぞれ,とする。あたりの棒1と棒2の運動量の合計をとを用いて表すと オ となる。また、あたりのレール乙の電位の変化をとを用いて表すと カ となる。
これら2つの式より、 キ が成り立つので、 キ Vは時間とともに変化しない。
(e) 十分時間が経過したあと、それぞれの棒の速度が変化しなくなった。このときの棒1の速度とレール乙の電位をを用いて表せ。
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解答 [B](d)の空所補充部分では、問題文の舌足らずな誘導の文章で、何を書き入れて良いか悩みますが、運動量の原理に沿って考えます。
......[答] (b) 棒1がを通過すると、棒1に起電力が発生して棒1,棒2に電流が流れ始め、棒2にローレンツ力が働いて(フレミング左手の法則)棒2も動き始め、棒2にも起電力が発生します。 棒2には下から上向きに電流が流れ、棒2に働くローレンツ力は右向きで、 (ア) ......[答]問題文にあるように、微小時間あたりの棒1,棒2の速度変化,となるので、 よって運動量は時間変化せず、は一定・・・@ になります。フレミング左手の法則により、棒1には左向き、棒2には右向きの力が働くので、棒1の速さは次第に遅くなり、棒2の速さは次第に速くなります。時間が充分経過し、最終的に両者の速度が一致したところで、棒1と棒2の起電力が打ち消し合って、棒に電流が流れなくなります。このとき、棒1,棒2の速度は一致して、が成り立ちます。(イ) ......[答]このとき、@より、 ∴ (ウ) ......[答]棒1,棒2では、下側の電位が高く、上側の電位が低いので、レール乙の電位は負で、 (エ) ......[答] (c) 棒1と棒2に流れる電流は同じなので、棒1と棒2に発生するジュール熱は、:に分かれます(電力を参照)。棒1と棒2に発生するジュール熱は、運動エネルギーの減少分に等しく、棒1で発生したジュール熱は、
[B] この場合にも、[A]と同様に、棒1に起電力が発生して棒2にも電流が流れ、棒2にローレンツ力が働いて棒2も動き始め、棒2にも起電力が発生します。
(d) 運動量の原理より、棒1と棒2の運動量の変化は受けた力積に等しく、それぞれが微小時間の間に受けたローレンツ力が, (電流の正の向きが棒を下から上に向かって流れる向きであることに注意。,)であることから、 ・・・A (オ) ......[答]微小時間の間に棒1,棒2に電流,が流れると、コンデンサーに電荷が蓄えられ、コンデンサーの電圧がだけ増加します。よって、 ∴ ・・・B (カ) ......[答]A,Bからを消去することにより、 ∴ (キ) ......[答]これより、となり、は変化しません。 ・・・C(ク) ......[答] (e) それぞれの棒の速度が変化しなくなったとき、Aよりとなり、棒1,棒2に発生する起電力が等しくなります。このとき、より、 起電力の向きは棒の上から下に電流を流す向きで、レール乙よりもレール甲の方が電位が高くなります。より、レール乙の電位は、
棒1がに到達した瞬間で、を通過して以降、Cよりは変化しないので、 ∴ , ......[答] (f) 棒1と棒2で発生したジュール熱の合計Qは、棒1,棒2の運動エネルギーの減少分からコンデンサーが蓄えた静電エネルギーを引いたものに等しく、 ......[答]
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