東大物理 '21 年前期 [3] 2018 年のノーベル物理学賞は、「レーザー物理学分野における画期的な発明」に対して授与され、そのうちの 1 つは光ピンセット技術に関するものであった。光ピンセットとは、レーザー光で微小な粒子等を捕捉する技術である。本問では、光が微粒子に及ぼす力を考察することで、光で微粒子が捕捉できることを確認してみよう。 以下、図 3-1 に例を示すように、真空中に屈折率 n ( )の球形の微粒子があり、そこを光線が通過する状況を考える。光は光子という粒子の集まりの流れであり、光子は運動量をもつので、光の屈折に伴い光子の運動量が変化して、それが微粒子に力を及ぼすと考えられる。そこで以下では、光子の運動量の変化の大きさは、その光子が微粒子に及ぼす力積の大きさに等しいとする。また、光の吸収や反射の影響は無視する。さらに、微粒子に対して光線は十分に細く、光線の太さは考えない。 T 図 3-1 に示すように、真空中の微粒子を光線が通過している。微粒子の中心 O は光線と同一平面内にある。微粒子は固定されており、動かない。図 3-2 に示すように、光線が微粒子に入射する点を点 A ,微粒子から射出する点を点 B とする。入射前の光線を延長した直線と、射出後の光線を延長した直線の交点を点 C とする。線分 AB と線分 OC の交点を点 D とする。以下の設問に答えよ。
(1) 光が微粒子に入射する際の入射角を θ ,屈折角を ϕ とする。 を、 n , を用いて表せ。
(2) 光線中を同じ方向に流れる光子の集まりがもつ、エネルギーの総量 E と運動量の大きさの総量 p の間には、真空中では という関係が成り立つ。ここで、 c は真空中の光の速さである。図 3-1 の光は、単位時間あたり Q のエネルギーをもって、光源から射出されている。このとき、時間 の間に射出された光子の集まりが真空中でもつ運動量の大きさの総量 p を、 Q , , c , n のうち必要なものを用いて表せ。
(3) 図 3-1 に示すように、微粒子に入射する前の光子と、微粒子から射出した光子は、運動量の大きさは変わらないが、向きは変化している。時間 の間に射出された光子の集まりが、微粒子を通過することにより受ける運動量の変化の大きさの総量 を、 p , θ , ϕ を用いて表せ。また、その向きを、点 O , A , B , C のうち必要なものを用いて表せ。
(4) この微粒子が光から受ける力の大きさ f を、 Q , c , θ , ϕ のうち必要なものを用いて表せ。また、その向きを、点 O , A , B , C のうち必要なものを用いて表せ。
(5) 図 3-2 に示すように、 OD 間の距離を d ,微粒子の半径を r とする。角度 θ , ϕ が小さいとき、設問T (4) で求めた力の大きさ f を、 Q , c , n , r , d のうち必要なものを用いて表せ。小さな角度 δ に対して成り立つ近似式 , を使い、最終結果には三角関数を含めずに解答すること。 U 図 3-3 ,図 3-4 に示すように、強度 ( 単位時間あたりのエネルギー ) の等しい 2 本の光線が点 F で交わるよう光路を調整したうえで、設問Tと同じ微粒子を、それぞれ異なる位置に置いた。いずれの図においても、入射光が鉛直線 ( 上下方向 ) となす角度は 2 本の光線で等しく、 2 本の光線と微粒子の中心 O は同一平面内にある。微粒子は固定されており、動かない。以下の設問に答えよ。力の向きについては、設問の指示に従って、力が働く場合は図 3-3 の左側に図示した上下左右のいずれかを解答し、力が働かない場合は「力は働かない」と答えること。
(1) 図 3-3 に示すように、微粒子の中心 O が点 F と一致しているとき、微粒子が 2 本の光から受ける合力の向きとして最も適切なものを「上」「下」「左」「右」「力は働かない」から選択せよ。
(2) 図 3-4 に示すように、微粒子の中心 O が点 F の下にあるとき、微粒子が 2 本の光から受ける合力の向きとして最も適切なものを「上」「下」「左」「右」「力は働かない」から選択せよ。点 F は微粒子の内部にあり、 OF 間の距離は十分小さいものとする。
(3) 設問U (2) において、 OF 間の距離を とするとき、微粒子が 2 本の光から受ける合力の大きさ と の間の関係について、最も適切なものを以下のア〜エから選択せよ。なお、微粒子の半径 r と比べて は小さく、設問T (5) の近似が本設問でも有効である。図 3-4 は、 の大きさが誇張して描かれているので注意すること。 ア: は によらず一定である。 イ: は に比例する。 ウ: は に比例する。 エ: は に反比例する。 V 図 3-5 に示すように、水平に置かれた薄い透明な平板の上方、高さ r の位置にある点 F で、強度の等しい 2 本の光線 ( 光線 1 ,光線 2) が交わるよう光路を調整したうえで、設問T,設問Uと同じ、半径 r の微粒子を置いた。微粒子は常に平板と接触しており、微粒子と平板の間に摩擦はないものとする。微粒子には、外部から右向きに大きさ の力が働いており、この力と、 2 本の光線から受ける力が釣り合う位置で微粒子は静止している。すなわち、この微粒子は、光によって捕捉されている。 OF 間の距離は とし、点 F は、微粒子の内部、中心 O 付近にある。また、入射光が鉛直線となす角度 α は 2 本の光線で等しく、 2 本の光線と点 O は同一平面内にある。平板は十分に薄く、平板による光の屈折や反射、吸収は考えない。光が微粒子に入射する際の入射角 θ は 2 本の光線で等しく、それに対する屈折角を ϕ とする。微粒子や平板の変形は考えない。
(1) 図 3-5 に示すように、光線 1 が微粒子に入射する点を点 A とし、微粒子の中心 O から微粒子内の光線 1 の上に降ろした垂線の長さを d とする。また、図 3-6 に示すように、点 O から直線 AF に降ろした垂線の長さを h とする。 h および d を、 , n , α のうち必要なものを用いて表せ。
(2) ここで用いた 2 本の光線は、それぞれ、単位時間あたり Q のエネルギーをもって、光源から射出されていた。入射角 θ や屈折角 ϕ が小さく、設問T (5) と同じ近似が成り立つとして、 2 本の光線が微粒子に及ぼす合力の大きさ を、 Q , c , n , r , α , を用いて表せ。ただし、 θ と ϕ は十分に小さいため、 と近似でき、合力の向きは水平方向とみなすことができる。
(3) , , ( ) , としたところ、 ( ) であった。このとき、外部から微粒子に加えている力の大きさ を、有効数字 1 桁で求めよ。真空中の光の速さは である。図 3-5 ,図 3-6 は、 α や 等の大きさが正確ではないので注意すること。 【広告】ここから広告です。ご覧の皆さまのご支援ご理解を賜りたく、よろしくお願いいたします。
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解答 医療機器などを中心に微細加工技術の開発が進んでいますが、さらに先を行く光ピンセット技術をテーマとした問題です。今までも、光子ヨットなど、光子がもつ運動量をネタとした問題が時々出題されています。U (3) は正確に考察すると難しいので、試験会場では、 として直感的に解答する方がよいでしょう。 T (1) 屈折の法則 より、 ∴ ......[ 答 ] (2) 時間 の間に射出された光子のエネルギーは、 なので、このときの運動量の総量は、 ......[ 答 ] ( 光電効果 を参照 ) (3) A から微粒子に入射する光子の集まりの運動量を , B から射出される光子の集まりの運動量を とすると、右図において、△ ACB は二等辺三角形で、 , , (// ) , より、 ......[ 答 ] の向きは、 の向き ......[ 答 ]
(4) 光子の集まりが受ける力積 は、運動量の変化に等しく ( 運動量の原理 を参照 ) 、 光子の集まりが受ける力は、微粒子が光から受ける力の 反作用 で、その大きさ f は、 ......[ 答 ] 微粒子が受ける力の向きは、 と逆向きで、 の向き ......[ 答 ]
(5) 図 3-2 より、 ・・・@, (1) の結果で問題文の近似を使うと、 ・・・A,これより、 ......[ 答 ] U (1) 2 本の光線は屈折しないので運動量が変化しません。よって、微粒子は光線から力を受けず、「力は働かない」 ......[ 答 ]
(2) T (4) の結果で、 の向きは、微粒子の中心 O から微粒子内の屈折光に引く垂線の向きで、右図のように 2 光線について 2 つの向きは直線 OF に関して対称で、合力は、「上」向き ......[ 答 ] です。
(3) @,Aより、 ・・・B 図 3-4 において、光線が微粒子に入射する点を A とし、直線 FO と直線 OA がなす角を φ とする ( 点 A を定点とすれば φ は一定と考えられます ) と、 ,△ AFO において 正弦定理 より、 ,つまり、 よって、 2 次の微小量 を無視すると、 Bに代入して、
これより、 は一定なので d は に比例します。T (5) の結果より、微粒子が光線 1 の光子の集まりから受ける力の大きさ f は d に比例するので、 f は に比例します。光線 2 も同様で、 2 光線から受ける力の合力の大きさ も に比例します。よって、イ ......[ 答 ] V (1) O から直線 AF( 光線 1 の入射方向を微粒子内まで伸ばした直線 ) に下ろした垂線の足を H , O から光線 1 の微粒子内屈折光に下ろした垂線の足を D とすると、 , , より、 ......[ 答 ] また、T (1) の結果より、
・・・C Cに代入して、 ......[ 答 ] 別解.△ OAH において、 ,CとT (1) より、 より、
(2) T (5) の結果より、微粒子が光線 1 から受ける力の大きさ f は、 ,向きは、 の向き。 2 本の光線から受ける力の合力 は、 の方向で、 と のなす角は、問題文より、 なので、合力の大きさは、 ......[ 答 ] (3) ......[ 答 ] 【広告】ここから広告です。ご覧の皆さまのご支援ご理解を賜りたく、よろしくお願いいたします。
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