阪大物理'09年前期[3]

図のように、外部との熱の出入りがないように周囲を断熱材で囲んだシリンダーがあり、外部から支えることができるように棒がとりつけられたピストンで、シリンダーの内部が区切られている。ピストンは短い時間では熱を通さないとみなすことができる。またピストンを支える棒は熱を通さない。ピストンとそれを支える棒、およびシリンダーの熱容量は無視できる。さらにピストンとシリンダーの間の摩擦はないものとする。
ピストンによって分けられたシリンダー内部の右と左の部分に、それぞれの単原子分子理想気体が入っている。以下、左の部分を
A系、右の部分をB系と呼ぶ。単原子分子理想気体の定積モル比熱を,気体定数をRとする。また、温度はすべて絶対温度とする。
最初、
A系の体積がB系の体積が,また温度がそれぞれであり、ピストンは何の支えもなく静止していた。これを初期状態と呼ぶことにする。

1 の間に成り立つ関係式を求めよ。

初期状態から、A系とB系の温度と圧力が等しくなるような状態への変化の過程を、次のTとUの場合について考えてみよう。
[Tの場合]
初期状態からピストンを通してゆっくりと熱が移動し、A系とB系の温度と圧力が等しい状態に達した。このときB系の体積が,温度がとなった。

2 を用いて表せ。
3 を用いて表せ。

[Uの場合]
初期状態でピストンを固定した。この状態からピストンを通してゆっくりと熱が移動し、A系とB系の温度が等しい状態に達した。このとき温度がとなった。

4 を用いて表せ。
5 この変化の過程でA系からB系に移動した熱量をを用いて表せ。

この状態はA系とB系の温度は同じであるが、圧力は異なる。ここで手でピストンを支えながら固定を解き、A系とB系が同じ圧力になるまでピストンを支えながら単調に動かし、単原子分子理想気体を断熱変化させた。このときB系の体積が,圧力がとなった。また、単原子分子理想気体の断熱変化に対して、圧力pおよび体積Vの間には、 という関係が成立する。

6 Rを用いて表せ。
7 を用いて表せ。必要であればαβとして用いてもよい。

これで圧力がつり合ったので手の支えを離す。しかしこの状態は温度が異なる。この状態からピストンを通してゆっくりと熱が移動し、A系とB系の温度と圧力が等しい状態に達した。このとき温度がとなった。
8 Tの場合に問3で求めた温度と、Uの場合の温度は、どちらが高いか、または同じか。以下より適当なものを選び、解答欄にその記号を記入せよ。また、その理由を簡単に述べよ。
ア.  イ,  ウ.


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解答 問題文では、単原子理想気体を扱っていて、通常、定積モル比熱は、なのですが、わざわざ、「単原子分子理想気体の定積モル比熱をとする」と断っているので、絶対温度Tの気体の内部エネルギーUは、ではなく、とするべきです。
ただ、問題文の後半では、
断熱変化の過程において成立するポアッソンの関係式を、
(比熱比、は定圧モル比熱)
とせずに、
としています。が仮定されてしまっている、とも、言えるので、比熱比を知っている受験生には、問題文が整合性に欠けている、と思えてしまうことになります。

1 最初、ピストンに加わるはつり合っているので、A系とB系の圧力は等しくなります。この圧力とします。
A系の状態方程式 ・・・@
B系の状態方程式 ・・・A
@÷Aより、
......[]

2 変化後のA系,B系の気体の圧力A系の体積として、
A系の状態方程式 ・・・B
B系の状態方程式 ・・・C
B÷Cより、
シリンダーの
体積は変わらないので、
......[]

3 シリンダーが断熱材で覆われていて、A系,B系合わせた内部エネルギーが変化しないことから、
 ・・・D
......[]
なお、C÷Aより、
これより、です。

4 Dと同様に考え、D式のとして、
......[]

5 B系の内部エネルギーは、最初は,変化後はで、内部エネルギーの変化は、
B系の気体は、体積変化がないので、仕事をしません。よって、熱力学第一法則より、B系が吸収した熱量、即ち、A系からB系に移動した熱量は、
......[]
なお、変化後のA系,B系の圧力として、
A系の状態方程式 ・・・E
B系の状態方程式 ・・・F
F÷Aより、 ・・・G
E÷Fより、 ・・・H
です。

6 B系の気体について、問題文の関係式を用いて、
Fより、
よって、
......[]

7 断熱変化後のA系の体積とすると,A系の気体について、問題文の関係式とH,Aより、
4,問6の結果より、
 ・・・I
より、
......[]

8 問3、問4の結果より、で、[T][U]の変化後の温度は同じです。つまり、[U]の場合で、断熱変化前の温度と、断熱変化後にピストンを自由にしてA系とB系の温度が等しくなったときの温度を比較すればよいわけです。
[U]定積変化の過程では、A系は温度低下とともに圧力が減少し、B系は温度上昇とともに圧力が増加します。
[U]の変化後においては、B系の圧力A系の圧力を上回り、ここから断熱変化をすると、ピストンにはB系からA系に向かう方向のが働いて、ピストンは左に動きます。手で支えると、手には左向きのが働いて、シリンダー内の気体は、A系、B系合わせて、手に対して正の仕事をします(A系では断熱圧縮により温度が上昇し、B系では断熱膨張により温度が下降します)
手の支えを離した後では、
(ピストンが左に移動することにより、B系の気体がA系の気体に対して仕事をしますが)ピストンは外部に対して仕事をしません。
結局、断熱変化の過程で気体が外部に対してした
仕事の分だけ、シリンダー内の気体の内部エネルギーは減少し、温度は、,従って、よりも小さくなります。
ア.
......[]
理由:断熱変化の過程で気体が手に対してした仕事の分だけ内部エネルギーが減少するから。 ......[]
追記.断熱変化の過程で、手が仕事をされる、ということになかなか気づけないかも知れません。力尽くで計算してみます。
断熱変化後について、
A系の絶対温度として、
A系の状態方程式 ・・・J
B系の状態方程式 ・・・K
Iと、J÷Kより、

3と同様に考え、問3と考えると、
 ・・・L
Kに問6,問7の結果を代入すると、より、
これをLに代入して、
より、
となるので、ですが、などの値が与えられていないので、この問題では、断熱変化の過程で何が起こるか、という物理的考察ができないと解答できません。


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