阪大物理'23年前期[2]

1のように、真空中に半径がそれぞれおよびの一巻きの円形コイルAおよびBが同一面内に中心をそろえて置かれており、コイルAには平行板コンデンサーと起電力Vの直流電源が、コイルBには抵抗値rの抵抗が、それぞれ接続されている。コンデンサーは、辺の長さがabの長方形の極板Aおよび極板Bで構成され、極板間の距離はdであり、極板間は真空である。ここで、dabに比べて十分小さく、極板端部の電界の効果は無視できるとする。また、コイルAおよびBの電気抵抗も無視できるとする。ここでは、コンデンサー、直流電源、抵抗のサイズはコイルの半径に比べて十分小さく、コイルは円形コイルとみなして磁界を計算してよい。以下では、真空の誘電率および透磁率をそれぞれおよびとする。

T.いま、図1中のコンデンサーの極板内に、図2のように、辺の長さがabdの直方体の誘電体を挿入する。誘電体の挿入長を図2に示すようにsとする。誘電体をの地点から、初速度が0,加速度の大きさがp ()で等加速度運動させるとコイルBに電流が流れた。誘電体の挿入長がのときの時刻をとする。以下の問に答えよ。ここで、コイルAの自己誘導による逆起電力は小さく無視できるとし、また、コイルBに流れる電流が作る磁界も弱く無視できるとする。なお、誘電体の比誘電率はであり、誘電体端部の電界の効果は無視できるとする。

1 誘電体の挿入長がs ()のときにコンデンサーに蓄えられている電気量をabdsVのうち必要なものを用いて表せ。

2 いま、時刻t から微小時間の間に、誘電体の挿入長がsからに変化したと近似して、この間にコイルAに流れる電流の大きさabdVのうち必要なものを用いて表せ。ここで、 ()は挿入長がsのときの誘電体の速度である。また、その電流の向きを図1中の記号(i)または(ii)により示せ。

3 時刻t において電流がコイルの中心につくる磁界の強さをのうち必要なものを用いて表せ。またその向きは、図1において()紙面表から裏の向き、あるいは()紙面裏から表の向き、のうちどちらであるか。()または()の記号で示せ。

4 時刻t から微小時間の間に誘電体の速度がからになったとして、この間にコイルBに流れる電流の大きさをrabdpVのうち必要なものを用いて表せ。また、その電流の向きを図1中の記号(iii)または(iv)により示せ。ただし、コイルBの半径はコイルAの半径に比べて十分小さく、コイルBの内部の磁界は一様で中心の値に等しいとせよ。

5 誘電体を挿入し始めた直後にコイルBに流れる電流の大きさをとして、誘電体の挿入長が0からaまで変化する間に抵抗rで消費されるエネルギーをrapのうち必要なものを用いて表せ。

U.次に、コンデンサーに挿入した誘電体を取り除いたうえで、図1のコンデンサーに対して図3のように、極板Aの辺と極板Bの辺の位置を固定したまま辺と辺を上下に等しく広げる変形を与えたところ、コイルBに電流が流れた。辺と辺の距離がである瞬間について、次の問いに答えよ。ここで、dに比べて十分小さいとする。以下では、図3のように頂点と頂点の中点を原点とし、x軸を頂点と頂点の中点の方向にとる。また、は小さいため、極板間距離を広げた後も極板のx方向の長さはaで近似できるものとする。

6 このときの、このコンデンサーの電気容量を、図4のように極板をn個の微小区間に等分割してできた、電気容量がの微小平行板コンデンサーを合成した電気容量であると考えよう。ただしk1からnまでの整数である。次の文章の空欄に入れるべき数式を解答欄に記せ。

極板
AB間の距離は図5に示すx1次関数で表される。原点側から数えてk番目の微小平行板コンデンサーの極板間の距離がにおける極板AB間の距離であるとすれば、この極板間の距離はdnkを用いてと表される。したがって、微小平行板コンデンサーの合成容量はabdnkを用いてと表される。いま、分割数nが十分大きいときの微小平行板コンデンサーの合成容量は、次の近似を適用すればabdを用いてと表される。
nが十分大きく、かつδ1に比べて十分小さい場合:

7 図1のように直流電源とコンデンサーはつながっている。位置xにおける極板A上の単位面積あたりの電気量をxadVのうち必要なものを用いて表せ。

8 横軸をx,縦軸を極板A上の単位面積あたりの電気量σとして、変形前と変形後のσの分布をグラフに描くとどのようになるか。図6中の()から()の中から最も適切なものを選べ。ただし、図中のは極板を広げる前の極板A上の単位面積あたりの電気量である。

9 辺と辺を上下に等しく広げる際、それぞれの辺の初速度を0,加速度の大きさをで一定とする。極板を広げ始めた直後にコイルBに流れる電流の大きさをrabdqVのうち必要なものを用いて表せ。



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解答 円形コイルに接続されているコンデンサーの極板間を広げるとき、一端を固定して他端だけを加速度運動させるように広げると、もう一つの円形コイルに流れる電流はどうなるか、という問題ですが、ボリューム満点です。出題者は親切であえて書いているのだと思いますが、問題文中の「電流の大きさ」、「電流の大きさ」にも注意してください。

T.誘電体の挿入長は、加速度p,初速度0,時刻t のときなので、 ・・・@ で与えられます。
1 挿入長がsのとき、誘電体が挿入されている部分にできているコンデンサーの静電容量を,誘電体が挿入されていない部分にできているコンデンサーの静電容量をとすると、の極板面積はの極板面積はで、それぞれの静電容量は、
は並列で、合成容量Cは、
コンデンサー両端の電圧はVで、コンデンサーに蓄えられている電気量Qは、
......[]

2 挿入長がのときのコンデンサーの電気量は、問1の結果で、として、

なのでです。よって、コイルAに流れる電流の大きさは、
......[]
なので、コンデンサーの電気量が増える方向に電流が流れます。電流の向きは(i) ......[]

3 電流がコイルの中心に作る磁界の強さHは、円形電流の公式より、
......[] ()
磁界の向きは、右ねじの法則より、紙面裏から表の向きで() ......[]

4 コイルの中心を通過する磁束密度の大きさB,コイルBが囲む面積を (=一定)として、コイルB内部の磁界は一様と考えるので、コイルを通過する磁束は,微小時間の間にコイルBに生ずる起電力の大きさは、問3の結果を用いて、
微小時間の間に、誘電体の速度からまで変わるとしてより、起電力は、
コイルBに流れる電流の大きさは、
......[]
より,問3の結果を考慮すると、コイルBを貫く紙面裏から表に向かう向きの磁界が強くなるので、起電力は磁界を弱める向き(レンツの法則を参照)、つまり、紙面表から裏に向かう磁界を作る向きで、右ねじの法則より電流の向きは(iv) ......[]

5 時間t の間に挿入長が0からaまで変化するとして@より、
よって、
電流は、のまま変化せず、時間
t の間に抵抗で消費されるエネルギーは、
......[]

U.問6 微小平行板コンデンサーの極板間距離は ......(a)
微小平行板コンデンサーの合成容量ですが、の極板面積はで、 ......(b)
dに比べて充分に小さいので、と見て、問題文の近似式を用いると、
よって、
......(c)

7 微小平行板コンデンサーに蓄えられる電気量は、(b)より、
単位面積当たりの電気量は、の面積で割り、問題文の図5,つまり、を用いて
......[]

8 問7の結果より、 ・・・A となります。より、の範囲でのときです。そうなっているグラフは()()です。
1の結果でとするととなり、極板面積で割ると、極板を広げる前の極板A上の単位面積あたりの電気量は,Aでとするととなります。こうなっているグラフは() ......[]

9 問6(c)より、コンデンサーの静電容量は ・・・B です。辺と辺を上下に等しく広げる際、それぞれの辺の初速度を0,加速度の大きさをで一定とすると、辺から見た辺の加速度はqとなり、においてであることから、時刻t においてです。よってBより、
コンデンサーに蓄えられる電気量Qは、
コンデンサーに流れ込む電流は、
 (電流の向きは図1(ii)です)
コイルAの中心に発生する磁界は、
 (磁界の向きは紙面表から裏です)
コイルBを貫く磁束Φは、コイルBが囲む面積,磁束密度の大きさがであることから、
コイル
Bに発生する起電力の大きさは、
コイルBに流れる電流の大きさは、
......[]



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