東工大物理'23年前期[2]
ダイオードは、p型半導体とn型半導体を接合した素子で、整流作用を示す。図1のように、ダイオードの端子Cの電位を基準とする端子Aの電位を電位差とし、右向きに流れる電流をとする。本問題におけるすべてのダイオードは、図2のグラフの電流電圧特性を示す。図2の特性は、電流が流れ始める電圧および内部抵抗rで説明することができる。における電流電圧特性の傾きはであり、との関係は次の式で与えられるものとする。
すなわち、である場合にはダイオードを絶縁体とみなすことができ、である場合にはpn接合に一定の電圧降下が発生し、残りの電圧がダイオードの内部抵抗rに加わることで、の電流が流れると考えることができる。
[A] 図3のように、起電力の直流電源、ダイオード,,電気抵抗Rの抵抗、スイッチSを接続した。抵抗を矢印の向きに流れる電流について、以下の問いに答えよ。ただし、直流電源の内部抵抗は無視できるものとする。
(a) スイッチSが開いている場合、抵抗に矢印の向きに0ではない電流が流れた。このことから、はある値よりも大きかったことがわかる。とを,,r,Rのうち必要なものを用いて表せ。
[B] 図4のように、起電力の直流電源、ダイオードD,電気容量,のコンデンサー、電気抵抗Rの抵抗、電圧計、スイッチ,を接続した。電圧計は、マイナス端子(−)の電位に対するプラス端子(+)の電位の差を測定できるものとする。はじめに、スイッチはA側にあり、スイッチは開いており、どのコンデンサーも電荷を蓄えていなかったものとする。以下の問いに答えよ。ただし、直流電源の内部抵抗は無視でき、電圧計の内部抵抗は無限大であるとする。
(c) スイッチをB側に入れたところ、コンデンサーに電荷が蓄えられ、電圧計はある一定値を示した。その後、スイッチを閉じて十分に時間が経過すると、電圧計はとは異なる一定の値を示した。後者の電圧変化が起きたことから、はある値よりも大きかったことがわかる。,,を,,,,rのうち必要なものを用いて表せ。
[C] 図5のように、鉛直上向きに磁束密度B ()の一様で時間的に変化しない磁場がかかっており、水平面から角度θ ()だけ傾いた2本の導体のレールが間隔で平行に置かれている。質量がmで太さを無視できる導体棒が2本のレールの上に置かれて接している。導体棒は、レールと直交した状態を維持しながら摩擦や空気抵抗の影響を受けることなく移動できる。また、2本のレールの間にはダイオードDが接続されている。先に定義したように端子Cに対する端子Aの電位差をとする。重力加速度の大きさをとする。図6は、導体棒が点に見える方向から見た図を示しており、レールに沿って下る向きにx軸をとる。の位置に導体棒を置き、時刻で静かに導体棒を放したところ、導体棒はレールの上を動き始めた。その後、ある時刻に達するまでは、ダイオードDには電流は流れず、時刻を超えるとダイオードDに電流が流れるようになった。十分に時間が経過すると導体棒の速度は一定になった。さらに時間が経過すると、導体棒はに達した。以下の問いに答えよ。ただし、回路に流れる電流により発生する磁場、レールと導体棒の電気抵抗、回路の電気容量は無視できるものとする。また、レールは十分に長く、導体棒がレールの端に達することはないものとする。
(e) ダイオードDに電流が流れていない時刻t ()における電位差を、t の関数としてt,m,,r,B,,θ,のうち必要なものを用いて表せ。ただし、このとき導体棒およびレールには電流は流れていないとみなしてよい。
(f) 時刻を求めよ。ただし、m,,r,B,,θ,のうち必要なものを用いて表せ。
(g) 導体棒がに達したときのの値を求めよ。ただし、m,,r,B,,θ,のうち必要なものを用いて表せ。
(h) 導体棒がからまで移動した間に、ダイオードDで消費された電力量Wを求めよ。ただし、問(g)におけると、m,,B,,θ,Lのうち必要なものを用いて表せ。
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解答 前半はダイオードの基礎問題なのですが、コンデンサーが絡むので安易に解答すると落とし穴が待っています。特に[B](d)では細心の注意が必要です。後半は、ダイオードが入っているとはいえ、コの字型回路の典型問題です。
問題文に書かれているとの関係式より、ダイオード両端の電圧は、ダイオード順方向に電流が流れているとき()、
・・・@ で与えられます。
[A](a) ダイオードに順方向に電流 ()が流れるので、@よりダイオード両端の電位差はで与えられます。このとき、キルヒホッフ第2法則より、 ∴ ......[答] ダイオードの電圧がよりも大きければ、ダイオードに電流が流れるので、 よって, ......[答]要するに、ダイオードの電圧がより大きければ電流が流れると言っても、ダイオードの電圧降下からを引いて、ダイオードの内部抵抗による電圧降下が正、つまり、順方向に電流が流れるとして電流が正、と考えればよい、ということです。
(b) 抵抗Rに電流が流れているとして、抵抗R,すなわち、ダイオードの電圧はです。ダイオードに流れる電流をとすると、ダイオード両端の電圧は@よりです。キルヒホッフ第2法則より、 ∴ ・・・A ダイオードに流れる電流はでダイオード両端の電圧はとなり、図3の左側の閉回路について、キルヒホッフ第2法則より、Aを用いて、 ∴ ......[答] ・・・B ダイオードに流れる電流は、このをAに代入して、 よって、 ・・・C
ダイオードに流れる電流は、AとBを用いて、 よって、 ・・・D
CかつDであって、より、 ......[答]
[B](c) スイッチをB側に入れると、コンデンサー,が直流電源に直列に入ります。,の電圧を,として、はじめコンデンサーに電荷が蓄えられていなかったので右図F点の電荷の総和は0で、 ∴ ・・・E キルヒホッフ第2法則より、
スイッチを入れても、ダイオードD両端の電圧について、の場合にはダイオードDには電流は流れず、電圧変化は起きません。電圧変化が起きたということは、だったということであり、求められたの値を用いて、Eより、
(d) スイッチを閉じたまま、スイッチをA側に入れると、コンデンサーも放電して電圧がになるような気がしますが、そうはなりません。既に、コンデンサーが放電完了していて、ダイオードDが絶縁状態にあるため、右図F点は孤立していて、ここに残されている電荷が移動できないからです。 コンデンサーが放電完了と言っても、両端の電圧は0ではなくで、の下側の極板には電荷が残っています。スイッチ切り替え前、両端の電圧はだったので、の上側(右下側の図では下側)の極板には電荷が残っています。合わせて、F点にはという電荷が、スイッチ切り替え後も移動できずに残されます。
スイッチ切り替え後充分に時間が経過すると抵抗に電流が流れなくなり抵抗両端は等電位で、コンデンサー,は右図のように並列接続状態になります。電気容量の和はで、電圧計が示す電圧はコンデンサーの電圧であって、 ......[答] 注.このとき、の電圧、つまり、ダイオードDの順方向電圧は、 となっていて、電流が流れないときのダイオードの電圧が必ずしもになるわけではないことに注意してください。
[C](e) ダイオードDに電流が流れていないということは、導体棒にも電流が流れず、導体棒は磁場から力を受けず、重力の斜面に沿う方向の成分のみを受けて、導体棒は、加速度で等加速度運動をします。時刻t ()における導体棒の速度は、です。磁場と速度のなす角はなので、導体棒に発生する起電力は、フレミング右手の法則より、ダイオードDに順方向に電流を流そうとする向きに、 ダイオードの端子Cに対する端子Aの電位差も、 ......[答]
(f) 導体棒の速さが次第に増して、時刻にとなり、以後、電流が流れるようになります。 ∴ ......[答]
(g) 時刻において、導体棒の速度がvになったとき、ダイオードDに流れる電流I は、問題文に書かれているとの関係式においてとすることにより、 ・・・F 導体棒が磁場から受ける力は、フレミング左手の法則より水平方向右向きに,斜面に沿う方向の成分は、,導体棒の速度が一定になるとき、導体棒に働く力のつりあいより、Fを用いて、 ダイオードDの電圧は、導体棒の速度が一定になった後は変化せず、に達したときの電圧は、 ......[答]
(h) に達したときの導体棒の速度vは(g)のを用いて表すと、 ......[答]
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