東大物理'24年前期[1]

1-1のように、十分に長いベルトをもつベルトコンベアをベルトと床とのなす角がθ ()となるように水平な床に固定する。ベルトのなす斜面に沿ったx軸を斜面上向きが正になるようにとる。x軸は常に床に対して静止している。このベルト上の物体の運動を考える。物体Aの質量はmである。また、ベルトと物体Aとの間の静止摩擦係数はμ,動摩擦係数はである。物体はx軸方向にのみ運動し、回転しないものとする。特に断りの無い限り、物体の座標や速度はこのx軸に対して定義する。重力加速度をとし、物体の大きさや空気抵抗は無視してよい。

T はじめに図1-2のように、とし、ベルトが静止しているときの物体Aの運動を考える。において物体Aに初速度 ()を与えたところ、物体Aは斜面に沿って上昇した後、再びに戻った。
(1) 物体Aが最高点に到達したときのx座標を求めよ。
(2) 物体Aに戻ったときの速度をmのうち必要なものを用いて表せ。

U 次に、図1-3のようにとし、一定の速度V ()でベルトが動いているときの物体Aの運動を考える。

(1) 時刻に物体Aを初速度0でベルトにおいたところ、物体Aは斜面上向きに移動し始めた。物体Aの速度を時刻t ()の関数として表せ。

(2) において物体Aに初速度 ()を与えたところ、物体Aは斜面に沿って下降した後、再びに戻った。物体Aに戻ったときの速度を求めよ。

V 1-4のようにとし、ばね定数kのばねでつながれた物体Aと物体Bをベルト上におく。物体Aは物体Bより常に高い位置にある。ベルトは一定の速度V ()で動いている。物体Bの質量はmで、物体Bとベルトとの間に摩擦はない。ばねは均質であり、ばねの質量は無視できる。
ばねを自然長から長さだけ伸ばした状態で、物体Aおよび物体Bを速度0でベルトにおいたところ、二つの物体はx軸に対して静止し続けた。

(1) Vmkのうち必要なものを用いて表せ。

(2) Vmkのうち必要なものを用いて表せ。

次に物体Bの速度を0からVに瞬間的に変えた。この時刻をとする。物体Aは時刻 ()にはじめてベルトと同じ速度になった。物体Aおよび物体Bの速度をそれぞれおよびとする。

(3) 時刻t ()における物体Aと物体Bの重心Gの速度tVmkのうち必要なものを用いて表せ。

(4) 時刻t ()における物体Aおよび物体Bの運動は、重心Gから見るとそれぞれ単振動とみなせる。このことを用いてにおけるおよびを、それぞれtVmkのうち必要なものを用いて表せ。ここで、重心Gから物体Aおよび物体Bまでの距離がともにdだけ減少すると、物体Aがばねから受ける力は変化することを用いてもよい。

時刻以降、物体Aはベルトに対して静止し続けた。

(5) 時刻t ()におけるtVmkのうち必要なものを用いて表せ。

(6) 物体Aがベルトに対して静止し続けるためにμが満たすべき条件を、Vmkのうち必要なものを用いて表せ。


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解答 '94年以来のベルトコンベアの問題ですが、遥かに複雑で細かい神経を使う問題になっています。なぜ、斜面の傾角を設問ごとに変えているのか、と思ってしまいますが、物体をベルトに置くとき静止摩擦か動摩擦か、と考えてしまうと、問題文の状況があり得ないことになってしまうので、物体をベルトに置く時点で何らかの撃力を与えて最初から動摩擦だった、と考えればよいようです。
Vでは、重心から見たり、
Aから見たり、混乱し易いので注意してください。

T 物体Aが斜面から受ける垂直抗力Nは、重力の斜面に垂直な方向成分つり合うので、です。よって、物体Aに、斜面に沿う方向に働く動摩擦力の大きさは,最大静止摩擦力の大きさはです(摩擦力を参照)。それぞれの摩擦力の向きは、運動を妨げる向きです。

物体Aに初速度を与えたとき斜面に沿って上昇したので、物体Aに働く摩擦力は、斜面に沿って下向きの動摩擦力で、,物体には、斜面に沿って下向きに重力も働くので、物体Aの斜面に沿う方向の運動方程式は、加速度をaとして、
 ∴
よって、物体Aの運動は等加速度運動です。

(1) 最高点のx座標をとして、等加速度運動の公式より、
......[]

(2) 最高点で物体Aは一旦停止し、摩擦力が静止摩擦力f に変わります。最高点での力のつり合いより、
最高点で滑り出すのでf は最大静止摩擦力を越えます。
 ∴
最高点からに戻るまでの変位はです。この間、物体Aは下向きに動きますが、この間の摩擦力は、上向きの動摩擦力です。
物体
Aの斜面に沿う方向の運動方程式は、加速度をaとして、
 ∴
なのでです。物体Aに戻ったときの速度を ()として、等加速度運動の公式より、
(1)の結果を代入して、より、
......[]

U(1) 物体Aの初速度が0で、ベルトとともに速度Vで上昇しないので、物体Aはベルトに対して最初から滑っていて、摩擦力は最初から動摩擦力だったと考えます。物体Aには下向きの重力が働き、動摩擦力は上向きでです。物体Aの運動方程式は、加速度をaとして、
 ∴
物体Aは上向きに上昇し始めるので,つまり、です。
物体
Aが等加速度運動する間、物体Aの速度は、
は時間とともに増大するので、やがて速度Vになり得ます。
とすると、 (とします。)となりますが、になった時点でとなり、物体Aはベルトに対して静止し、摩擦力が静止摩擦力に変わります。静止摩擦力f は重力とつり合うので、です。となるので、
であり、静止摩擦力f は、最大静止摩擦力を越えません。つまりにおいては、物体Aは、ベルトともに速度Vで移動します。よって、
......[]

(2) 物体Aに下向きの初速度 ()を与えて、再びに戻ったということは、物体Aの加速度です。物体Aの運動は等加速度運動なので、鉛直投げ上げの運動と同様に、で物体Aの速度が、であれば、に戻った時の物体Aの速度は大きさは等しく向きが逆で、 ......[]

V 物体Aに働く力は、上向きの動摩擦力,下向きの重力,下向きのばねの弾性力で、これらの力のつり合いより、
 ・・・@

(1) 物体Bに働く力は、下向きの重力,上向きのばねの弾性力で、これらの力のつり合いより、
 ・・・A
......[]

(2) (1)の結果を@に代入して、
 (三角関数を参照)
......[]

ベルト上で、物体A,物体Bの座標をとします。ばねの自然長の長さをLとすると、ばねの伸びはです。@の弾性力はとなり、Aの弾性力はとなります。物体A,物体Bの加速度をとして、物体Aの運動方程式は、
このうち、(2)の結果を用いて、
より、物体Aの運動方程式は、
 ・・・B
物体Bの運動方程式は、
 ・・・C

(3) B+Cより、
即ち、重心の加速度より、重心は等速度運動をします。において、なので重心の速度はです。よって、時刻t における重心の速度は、 ......[]

(4) ,Cより、
 ( (1)の結果より)
これより、 (重心から見た物体B)は、角振動数,振動中心単振動をします。
以前に物体
Bは、物体Aの位置()からだけ下がった位置で静止していました。において、なので、このとき、
 ・・・D
つまり物体Bは振動中心にいます。このとき重心から見た物体Bの相対速度は(3)の結果より、,よって、単振動の振幅をとして、角振動数はなので、単振動の公式:より、,これより、です。ばねは最初に伸びた状態だったので、物体Bは重心方向に移動し始め、Dを考慮して、
 ・・・E
微分すると、
 ( )
......[] ( ,また、(3)の結果より)
に物体Aがベルトと同じ速度Vになると、より、です。
 ・・・F
として、より、はじめてこうなるのは、のときで、より、
......[] (これは単振動の半周期です)

において、Eより、
 ・・・G
,Bより、
 ( (1)の結果より)
これより、 (重心から見た物体A)は、角振動数,振動中心の単振動をします。において、Dより、となるので、物体Aは振動中心にいます。半周期後に、重心から見て物体Aは振動中心に戻り、のときのGより、において、
 ・・・H

注.において、なのでです。半周期後には、速度の向きが変わり,従って、となり、では摩擦力が静止摩擦力に変わり、物体Aは静止し続けます。

において、物体Aはベルトに対し静止するので、ベルトとともに速度Vで等速度運動し、です。これと(1)の結果、またCより、
これより、 (物体Aから見た物体B)は、角振動数,振動中心の単振動をします。Hより、に物体Bは振動中心にいます。
において,また、Fよりなので、です。の単振動の振幅をとして、角振動数はなので、単振動の公式:より、となり、
よって、において、振動中心
()から、ばねは伸びようとする状態にあるので、物体Bは、物体Aに対して下向きに運動を始め、において、
 ・・・I
微分すると、
 ・・・J
において、Iより、のときに最大になり最大値はです。ばねの伸びの最大値は、より、
 ・・・K

(5) J,より、に注意し、を用いると、
......[]

(6) ばねの伸びが最大になるとき、物体Aに働く静止摩擦力をf として、物体Aに働く力は、上向きの静止摩擦力f,下向きの重力,下向きのばねの弾性力 (ばねの伸びの最大値はK)です。物体Aに働く力のつり合いより、Kと(1)の結果を用いて、
物体Aがベルトに対して静止し続けるためには、f が最大静止摩擦力を越えないことが条件で、
......[]



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