阪大物理'21年前期[1]

地球を周回する物体の運動について考えよう。

赤道上空の円軌道を地球の自転と同じ向きに同じ周期で周回している人工衛星は静止衛星と呼ばれ、地上からは静止して見える。静止衛星は気象観測や放送・通信など様々な目的に利用されているが、地上から宇宙空間へ到達するワイヤーを静止衛星として周回させることができれば、このワイヤーを使って宇宙空間へ人や物資を運ぶことのできる「軌道エレベーター」を実現できる可能性がある。
ここでは、静止衛星が地球を周回する角速度をとおき、地球の質量を
M,地球の半径を,万有引力定数をGとする。さらに、地球の中心からの距離に比べると大きさを無視することのできる小さな静止衛星が、地球を周回する円軌道の半径をと表すことにする。
ただし、万有引力については、地球と地球を周回する物体の間にはたらく引力のみを考え、物体同士にはたらく引力は無視する。地球は球形であるとし、太陽や月など地球以外の天体による影響は考えない。また、地球の大気による影響も無視する。

T.以下の問に答えよ。


1 の値をラジアン毎秒[rad/s]の単位で求めよ。ただし、有効数字は1桁とせよ。
2 図1のように、質量mの小さな人工衛星が、静止衛星として地球を周回している。mMGのうち、必要なものを用いてを表せ。

U.質量mの小さな人工衛星をとは異なる半径の円軌道上で運動させると、この人工衛星の運動は、地上から静止して見える静止衛星としての条件を満たさない。しかし、図2に示すように、鉛直で下端が赤道上の地表面に固定されたワイヤーを、この人工衛星に接続して適切な初速度を与えれば、よりも大きな半径の円軌道上であっても、人工衛星を静止衛星として運動させることができる。
以下の問に答えよ。ただし、ワイヤーは伸び縮みせず、その質量を無視してよいものとする。

3 図2において、ワイヤーにはたらいている張力の大きさをmMGのうち、必要なものを用いて表せ。
4 図3に示すように、ワイヤー上の半径 ()の位置に質量をもつ小物体をとりつけた。このとき、ワイヤーと人工衛星は地上から見て静止したままであった。このあと、静かに小物体をワイヤーから切り離すと、小物体はワイヤーとは独立に運動し地球から無限遠へと遠ざかった。小物体を、地球を周回する軌道から離脱させ、再び地球へ接近させないために必要な最小のmMGのうち、必要なものを用いて表せ。
V.次に、ワイヤーが質量をもつ場合を考えよう。図4上に示すように、赤道上の地表面から単位長さあたりλの質量をもつワイヤーが、上空へ向かって伸びている。Uでの状況と異なり、ワイヤーは地表面に固定されおらず、ワイヤーの上端に人工衛星は取り付けられていない。このワイヤーは、鉛直を保ったまま伸び縮みすることなく地球の周りを周回しており、ワイヤーの上端は半径の円軌道上を運動しているが、地上から見ると静止している。

4(i)に示すように、ワイヤーを等しい長さをもつN個の要素に分割して考えよう。Nを十分に大きくしてを小さくすれば、それぞれの要素を、その重心に質量が集中した質点とみなすことができる。このとき、ワイヤー全体は、図4(ii)に示すように、長さの質量の無視できる短いひもでつながれた、N個の質点の集合となる。地表面から数えてi番目の質点は半径の円軌道上を運動する。

5 次の文章を読んで、 (a)  (d) に適した式または数字をそれぞれの解答欄に記入せよ。
地表面から数えてi番目の質点が、ひもから鉛直上向きに受ける張力の大きさを,鉛直下向きに受ける張力の大きさをとする。
のようにの差をとおき、質点の質量をとする。質点の運動方程式を考えると、GMを用いて
 (a) 
と表せる。また、λを用いて表せば
 (b) 
となる。Nが十分に大きいときにに対して成り立つ近似式
を用いれば、すべての質点に対するの和Fは、λGMを用いて
 (c) 
と表すことができる。一方、0番目と番目の質点が存在しないことを考えると、であるので、F
 (d) 
のように数字のみで表すこともできる。
6 と問2で考えたを用いて表せ。ただし、であることに留意せよ。
また、の値に最も近いものを以下の選択肢から選び、()()の記号で答えよ。ここでは、と近似してよい。
() 2.5  () 5  () 10  () 25  () 125
(
) 3.5  () 7  () 14  () 49  () 343



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解答 実現可能性はともかくとして、人工衛星と地上をワイヤーで結んで物資のやりとりができれば素晴らしいですね。個人的に一番期待するのは、上空で太陽光発電して地上に電力を送るようなことができないかなあ、ということです。

T問1 静止衛星は地球の自転に合わせて運動しているので、その周期1日=24×60×60秒=86400秒です。よって、
 ∴ ......[]

2 人工衛星に働く力は万有引力です。人工衛星の加速度は (等速円運動を参照)で、人工衛星の運動方程式は、
 ∴ ......[]

U問3 人工衛星に働く力は、万有引力とワイヤーから受ける張力Tです。人工衛星の加速度はで、人工衛星の運動方程式は、
 ∴ ......[]

4 切り離されたとき、小物体の速さは、円運動しているときの速さに等しくです(等速円運動を参照)運動エネルギーは、位置エネルギーは、,無限遠に到達したとき、位置エネルギーはゼロになりますが、運動エネルギーが残っているために、力学的エネルギー保存より、
 ∴
最小のは、 ......[]

V問5(a) 地表面から数えてi番目の質点が受ける力は、鉛直上向きの張力,鉛直下向きの張力,鉛直下向きの万有引力,この質点の運動方程式は、
よって、 ......[]
(b) 単位長さあたりの質量がλで長さがなので、 ......[]
(c) (a)(b)の結果より、問題文中の近似式を用いて、


......[]
注.問題文中の得体の知れない近似式ですが、以下のよう区分求積法によって、理解することができます。なので、であって、

ここで、とすると、iのとき、ですが、なので、xとして、より、


これより、Nが充分に大きければ、となります。
(d) 一方で、

より、 .......[]

6 問5(c)(d)の結果より、

,また、問2より、
両辺にをかけて、

 (2次方程式を参照)
より、
......[]
問題文の指示よりとして、
これに最も近い選択肢は、() ......[]



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