京大物理'06年前期[1]
次の文を読んで、 に適した式または数値をそれぞれの解答欄に記入せよ。
図1のように、質量mの粒子が、速さvで、半径rの球殻内面と弾性衝突を繰り返している。球殻との衝突角度をθ (ラジアン)とする。
1つの粒子が1回の衝突で球殻に与える力積は ア である。これを球殻に衝突してから次の衝突するまでの時間(飛行時間)で割ることにより、単位時間当たりの力積の総和 イ が与えられる。速さvのN個の粒子が互いに衝突することなく、球殻内面の様々な場所で衝突を繰り返しているとする。球殻が平均的に受ける圧力Pは、単位時間当たりの力積を球殻の表面積で割った量で与えられる。すなわち、
× ウ (1) となる。
さて、この球殻の半径をゆっくりと縮めていく過程を考えよう(図2)。半径が縮む速さwは粒子の速さvに比べて十分小さいものとする。
粒子が速さ,角度θ で、速さwで近づいてくる壁(球殻)に衝突した。この衝突によって、粒子の速さはvへと増加し、反射角度はへと減少した。壁に垂直な方向の運動については、速さwで移動する壁を中心に完全反射するので
− エ (2) が成り立つ。壁に平行な方向の運動については、運動量が保存されるので
(3) が成り立つ。小さいδ に対して,およびの関係が成り立つとして関係式(2)と(3)を解くと、1回の衝突による速度の増加分uは(w,θ を用いて) オ ,角度の減少分δ は(w,v,θ を用いて) カ で与えられる。
さて、時刻0 (ゼロ)で角度で反射した粒子が次に球殻に衝突する時刻tには、球殻の半径はに縮小している。この半径の縮小に伴い、衝突角度はからε だけ増加したとする。図2からわかるように
(4) の関係が成り立つ。この間の飛行時間をと近似すれば、この飛行時間によって生じる衝突角度の増加分ε は(w,v,θ,δ を用いて) キ と表される。このε は、半径が縮む速さwが十分小さい極限ではδ と等しい。つまり、球殻半径をゆっくりと縮小させる過程では、1回の衝突によって生じた角度の減少分δ は飛行時間によって生じた角度の増加分ε によって相殺され、衝突角度は常に一定に保たれる。
一方、粒子の速さは衝突のたびに増加する。衝突1回当たりに速さが増える率と半径が縮小する率の積は(w,v,θ,δ を用いて)
= ク (5) で与えられる。この量は衝突角度θ に比べてその変動δ が小さい極限で1となる。したがって、粒子の速さvは、球殻の半径rに反比例して変化する。
球殻の受ける圧力は、単位時間当たりの力積を球殻の表面積で割った量で与えられるが、それは式(1)で見たように、粒子の速さvの2乗に比例し、半径rの3乗に反比例する。上で調べたように、球殻半径をゆっくり変化させる場合には、粒子の速さが半径に反比例するので、圧力Pは体積の ケ 乗に比例して変化する。
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解答 球殻に閉じ込められた気体を題材として、断熱変化における「ポアッソンの関係式:」(この問題では、気体分子を粒子と考えているので、単原子分子理想気体であって、)を求めてみよう、という問題です。なお、理想気体、気体分子運動論を参照してください。
とっつきにくそうな問題ですが、丁寧な誘導がついているので、誘導に従って計算を進めてゆけばゴールにたどりつけます。
(ア) 1個の粒子の衝突前の速度の、衝突面に垂直な成分は、 球殻内面と弾性衝突するので、衝突後の速度の衝突面に垂直な成分の大きさは、衝突前と同じで、
向きは、衝突前と逆向きになるので、衝突後の速度の、衝突面に垂直な成分は、
衝突面に対して垂直な方向で、1個の粒子が受ける力積は、運動量の変化に等しく(運動量の原理を参照)、 1個の粒子が1回の衝突で球殻に与える力積は、粒子が受ける力積と等大逆向き(作用・反作用の法則を参照)で、 ......[答]
(イ) 1個の粒子が球殻内面に衝突してから次に衝突するまでに、進みます。粒子は、速さvで進むので、球殻内面に衝突してから次に衝突するまでの時間は、 1個の粒子が単位時間に球殻内面に衝突する回数は、1秒をで割って、1個の粒子が単位時間に受ける力積の総和は、1回の衝突における力積に回数をかけて、 ......[答]
(ウ) 球殻内には、N個の粒子がいるので、単位時間に球殻内の全粒子が球殻に与える力積の総和は、 球殻内面の表面積は、半径rの球面の面積として、
球殻が平均的に受ける圧力Pは、 (1)
......[答]
(エ) 壁に垂直な方向について、壁の速度はw,粒子の衝突前の速度は,衝突後の速度はより、粒子は弾性衝突するので、 w ......[答]
(オ) 壁に平行な方向について、
(3) (2)で、と近似すると、 ∴ (6)
(3)で、と近似すると、 ∴ ......[答]
(カ) (オ)の結果を(7)に代入すると、
∴ ......[答]
(キ) (4) wはvに比べて十分に小さいので、ε もに比べて十分に小さいと考えることができて、と近似すると、 ∴ ......[答]
(ク) ......[答]
(ケ) (ク)はの極限で1に近づくので、と近似すると、 速さがからvに変化するときに、半径はrからへと変わるので、これは、粒子の速さvが、球殻の半径rに反比例して変化することを意味します。そこで、kを定数として、とおくと、(1)より、
球殻内の体積Vは、より、,これを代入すると、 よって、圧力は体積の乗に比例します。 ......[答]
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