東工大物理'09年前期[3]

1のように、気球部と機械部で構成される気球がある。気球部は熱を通さない断熱膜でできており、その内部にはnモルの空気が密閉されていて気体の出入りはない。気球部の体積は変化でき、内部の空気と外部の大気の圧力は常に等しい。一方、気球内部の空気(以後、気球内ガスと呼ぶ)に対しては、機械部にある装置によって熱を加えたり奪ったりすることができる。気球は質量の無視できるロープで地上の巻き上げ機につながっており、断熱膜と機械部の体積は無視できるとする。
大気の圧力は地上においてはであり、高さとともに減少する。一方、大気の温度は高さによらず一定の値であるとする。空気は理想気体と見なしてよい。また、気体定数を
R,温度をTとすると、1モルの空気の内部エネルギーuとしてよい。
気球が押しのけた領域にあった大気の平均密度は、気球の中心の高さにおける大気の密度で近似できるものとする。空気
1モルあたりの質量をmとし、重力加速度の大きさをgとする。以下の問いに答えよ。
(a) 圧力がpで温度がの大気の密度(単位体積あたりの質量)ρを、pRmを用いて表せ。
(b) 1のように、気球を地上の台上に固定したまま気球内ガスを加熱したところ、気球内ガスの温度がになったとき気球に働く浮力と重力がつり合った。このとき、気球内ガスを除いた気球の質量(断熱膜と機械部の質量の和)Mを、nmを用いて表せ。
(c) 気球を地上の台上に固定したまま気球内ガスをさらに加熱し、温度をにした。温度の状態から温度になるまでに加えられた熱量Qを、Rnを用いて表せ。
(d) (c)で温度がのときのロープの張力はどれだけか。問(b)の結果も用い、張力をgmnを用いて表せ。
(e) (c)で温度をにしたあと、図2のように巻き上げ機をゆるめて気球をゆっくりと上昇させる。すると気球はある高さまで上昇し、つり合って止まった。このときの気球内ガスの温度を求めよ。
(f) (e)の上昇過程で、気球内ガスが外の大気に対してした仕事を求めよ。
(g) (e)の過程ののち、ロープを切り離す。その後、気球内ガスから熱をゆっくりと奪い、気球をゆっくりと下降させて地上の台上にもどした。このときの気球内ガスの状態変化はどのようなものか。次の5つの選択肢の中から1つを選んでその番号を記せ。
@ 定積変化, A 定圧変化, B 等温変化, C 断熱変化, D @〜Cのどれでもない


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解答 (e)の過程において、気球内ガスが断熱膨張し気球内ガスの温度が下がっている、ということに気がつかないと、(f)(g)で戸惑うかも知れません。ですが、誘導がていねいなので何とか解答したい問題です。

(a) 温度の気球内ガス1モルについて、圧力p体積Vとして、
状態方程式 ・・・@
空気
1モルの質量mなので、空気1モルが占有する体積Vであれば、空気の密度ρは、
よって、
これを@に代入して、
......[]

(b) 地上の大気の密度とすると、圧力温度なので、(a)の結果より、
 ・・・A
加熱後の気球内ガスの圧力は、断熱膜を通して大気圧とつり合っているので、大気圧です。温度になったので、(a)の結果より気球内ガスの密度は、
 ・・・B
このとき、気球の体積とすると、気球に働いているは、浮力,気球内ガスに働く重力,断熱膜と機械部に働く重力で、これら3力の力のつり合いより、
A,Bを用いて、
 ・・・C
このときの気球内ガスの状態方程式
これをCに代入すると、
......[]

(c) 温度から温度への変化は、その間断熱膜を介して気球内ガスの圧力大気圧とのつり合いが成立しているので、定圧変化です。
1モルの空気の内部エネルギーだということは、空気の定積モル比熱、定圧モル比熱をとして、 (マイヤーの関係式を参照)
定圧モル比熱の式より、気球内ガスに加えられた熱量Qは、
......[]

(d) 温度になったときの気球の体積,気球内ガスの密度とします。は、(a)より、
 ・・・D
気球に働いているは、浮力,気球内ガスに働く重力,断熱膜と機械部に働く重力,ロープの張力Fです。力のつり合いより

A,D,
(b)の結果を用いて、
 ・・・E
このときの気球内ガスの状態方程式
これをEに代入すると、張力
Fは、
......[]

(e) 気球が上昇して力のつり合いが成立したとき(気球内ガスの温度)の気球の体積,気球内ガスの密度,また気球の高さでの大気圧,大気の密度とします。は、(a)より、
 ・・・F
気球に働いているは、浮力,気球内ガスに働く重力,断熱膜と機械部に働く重力です。力のつり合いより、
Fと(b)の結果を用いて、
 ・・・G
このときの気球内ガスの状態方程式
これをGに代入すると、
......[]
別解.(d)の結果において、と書き換えとしても、が得られます。

(f) 気球内ガスは断熱膜で囲まれているので、(e)における過程は断熱変化です(温度,断熱膨張なのでに注意)熱力学第一法則により、気球内ガスが外気に対してした仕事は、内部エネルギーの変化をとして、
(e)よりなので、
......[]

(g) まず、ロープを切り離した後の過程は、問題文中に「熱をゆっくりと奪い」と書かれているので断熱変化ではありません。
気球の下降は問題文中に「ゆっくりと」と書かれているのですが、極めて小さな速さ等速度運動している、と、考えます。従って、気球が下降している間に、気球内ガスの圧力大気圧とのつり合いがつねに成立しており、高さの減少による大気圧の減少に伴って、気球内ガスの圧力と変化します。よって、定圧変化でもありません。
この過程において、気球内ガスの
圧力p体積V温度Tとして、状態方程式
を考えると、pと増大し、温度は、ロープを切り離した時の温度(e)により,地上において浮力重力のつり合いが成立していた時の温度(b)によりなので、気球の下降の前後での温度の変化はなく、Vは減少するので、定積変化でもありません。
気球に働く力のつり合い
(e)と同様にして考えると、下降の最初と最後で温度が一致するだけではなく、下降の過程において温度はつねにになっています。よって、この過程は等温変化で、B ......[]


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