阪大物理'09年後期[3]

音波について考えよう。
T.気体や液体の一部分の圧力や密度を微小変化させると、その圧力や密度の変化は疎密波となって伝わっていく。これが気体や液体の中を伝わる音波である。音波の伝わる速さvは気体や液体の性質で決まる。この速さvを求めてみよう。
1のように、十分大きい筒の中にある液体の左端の部分を右向きに短い時間少し押すと、その部分の液体が圧縮され、その変位は右向きに形を変えないで速さvで伝わっていく。これをパルスという。液体に力を加える前の圧力をP,単位体積あたりの質量をρとする。パルスの部分は圧力がだけ大きくなっている。
圧縮されたパルスと一緒に右向きに一定の速さ
vで動く観測者から見てみよう。観測者から見ると、パルスは静止しているが、液体は左向きに速さvで動いている。図2のように、このパルス部分に短い時間の間に右から入ってくる長さの小さな液体の部分Lの運動を考える。Lの質量は一定であるが、の間に、パルスの中に入り、圧力はPからに、体積はからに、速さは左向きにvからに変化する。
1 以下の文中の  にふさわしい数式を解答欄に記入せよ。
筒の断面積をSとすると体積 (1) である。Lの左側の圧力は,右側の圧力はPだから、Lにはたらく力は右向きに (2) である。この力によりLは、後、パルスの中に入ったとき、速さは左向きに ()となって減速される。Lの加速度は、右向きを正として、,質量は (3) だから、運動の第2法則を使って、ρvの間に (4) の関係式を得る。
であった
Lの体積は後にはとなる。Lの左端と右端がの間に各々進んだ距離を考えると、Lの長さはとなるので、vの間には (5) の関係があることがわかる。
さらに、体積の変化と圧力の変化に対しを定義する。
Bvρを使って上で求めた関係式(4)を表すと (6) となり、音波の伝わる速さvBρで表されることがわかる。
気体の場合も、同様の議論が成り立つ。大気中を伝わる音波の場合、
BPに比例することが示せ、である。その結果、を代入するととなる。

U.媒質中を音波が伝わる速さをvとする。音源から振動数fの音波を発する。図3に描かれているように、音源は観測者に向かってVの速さで、観測者は音源に向かっての速さで運動している。このとき、観測者が観測する音波の振動数を求めてみよう。およびとする。
2 以下の文中の  にふさわしい数式を解答欄に記入せよ。
時間tの間に、音源は個の波(1波長分を1個と考える)を出し、波面はだけ進む。その間、音源は観測者に向かってだけ移動している。このことを考慮すると、観測者に向かって進む音波の波長は (7) となる。一方、観測者は媒質に対して速さで音源に向かって動いている。媒質の中を音波は速さvで伝播するから、観測者から見る音波の速さは (8) となる。したがって、観測される音波の振動数は、(7)(8)を使ってfvVで表すと (9) となる。

V.次に、静止している音源から、音源に向かって速さVで近づいている物体に向かって振動数fの音波を出す。物体によって、音波は反射され、音源の場所に戻ってくる。
3 問2の結果を応用して、音源の場所に静止している検出器で観測される音波の振動数を求めよ。
4 図4のように人体の中にある動脈を流れる血液を考える。皮膚の上から、血流に45度の角度で、発信器からの超音波を発し、流れている赤血球に反射されてかえってきた超音波の振動数を検出器で観測したところ、だけ大きくなっていた。赤血球の流れの速さを、有効数字二桁の精度で求めよ。計算の過程も記述せよ。ただし、人体内での超音波の速さはとする。である。


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解答 前半は、音速をどうやって求めるか、とうことをテーマにした問題です。後半は、ドップラー効果を利用して血流の速さを求めてみよう、という趣旨になっています。

T.問1(1) 筒の断面積はSLの長さはだから、Lの体積は、
......[] ・・・@
(2) Lが左側から受ける力の大きさは,右側から受ける力の大きさは
Lに働く力は右向きに、
......[]
(3) 単位体積当たりの液体の質量(密度)ρだから体積をかけて、Lの質量は、
......[]
(4) 運動の第2法則(運動方程式)より、
......[]
(5) 後のLの体積は、 ・・・A
A−@より、 ・・・B
題意の指定に沿って
Sを消去するために、B÷@として、
......[]
(6) (4)の結果をで割ると、
両辺にをかけて(5)の結果を使うと、

より、
......[]
注.気体の場合、問題文では、天下り的にと書いてありますが、以下のようにして導くことができます。
短い時間の間に、気体の絶対温度が
Tからに変わるとして、
状態方程式: ・・・C
後の
状態方程式 ・・・D
2次の微小量として無視すると、D−@より、
 ・・・E
短い時間の間では、気体は熱のやりとりをする余裕がないので、
断熱変化をすると考えます。時間の間に気体のした仕事,気体の定積モル比熱として内部エネルギーの変化は熱力学第一法則より、

これをEに代入すると、
 ・・・F
マイヤーの関係式より気体の定圧モル比熱は、
比熱比を用いるとFは、
 
(ここから、として積分するとポアッソンの関係式: が導けます)
これより、
気体が空気の場合、酸素、窒素は2原子で分子を作るので、2原子分子理想気体として、
よって、となります。なお、と、のときの体積がであること、摂氏温度 (絶対温度Tは、)を用いて、
を書き直すと、Cより、
ここで、を微小量として近似を行うと、
という、音速の摂氏温度依存性を表す、よく知られた関係式が得られます。

U.問2(7) 波面の先頭が進み、音源が進むので、波面の先頭と音源との距離はです。この距離の中に個の波があるので、波長λ(1個分の長さ)は、
......[]
(8) 観測者から見た音波の速度は、
観測者から見た音波の速さは、 ......[]
(9) 観測される振動数は、波の公式より、
......[]

V.問3 まず、物体に観測者がいると考えると、速さVで音源に近づく物体が振動数fの音源の発する音を聞くので、物体が聞く振動数は、
物体がこの振動数の音を反射し、この物体が音源になると考えると、速さVで近づく振動数の音源の発する音を静止している検出器が聞く振動数は、
......[]
4 赤血球の流れの速さをVとして、超音波の伝播方向の赤血球の速度成分は、です。問3の結果より、音源の発する振動数と検出器で観測する振動数の差は、

......[]


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