東工大物理'20年前期[2]

電磁場中における質量m,電荷qの荷電粒子の運動を考察する。断りのない限り、qは正負いずれの値も取りうるものとする。磁束密度は、時間的に変化することはないとする。また、磁束密度の向きは、図1のように紙面の裏から表の向きであり、この向きをz軸の正の向きとし、荷電粒子はxy平面内を運動するものとする。なお、荷電粒子は真空中を運動するものとし、また、重力の影響は無視できるものとする。

[A] 磁束密度の大きさの一様な磁場中で、荷電粒子が速さxy平面上の等速円運動を行っているとする。なお、設問[A]では、電場はかかっていないものとする。以下の問に答えよ。

(a) 円運動の半径を、mのうち必要なものを用いて表せ。

(b) 荷電粒子の速度のxy成分をそれぞれとし、荷電粒子が受ける力のxy成分をそれぞれとする。およびを、qのうち必要なものを用いてそれぞれ表せ。

[B] 次に、磁束密度の向きはz軸の正の向きのまま、では磁束密度の大きさがでは磁束密度の大きさがであるとする。なお、設問[B]でも、電場はかかっていないものとする。
時刻において、荷電粒子が原点Oy軸の正の向きに速さで通過した。nを正の整数として、荷電粒子がn回目にx軸を横切る時刻(すなわちy座標がゼロとなる時刻),そのときのx座標をと書くことにする。以下の問に答えよ。

(c) mqのうち必要なものを用いて、およびを表せ。

(d) 荷電粒子のy座標のとりうる最大値および最小値を、mqのうち必要なものを用いて表せ。さらに、解答欄のグラフに、の場合のの間の荷電粒子の軌跡(半円)が記されている。これにひきつづき、の間の荷電粒子の軌跡の概形を解答欄のグラフに描き加えよ。

[C] 次に、z軸の正の向きの磁場に加えて、電場もある場合を考える。設問[C]では、磁束密度は一様で大きさとする。他方、電場はy軸の正の向きを向いており、一様で大きさとする。時刻において、荷電粒子は原点Oに静止しているとする。ここで、時刻tにおける荷電粒子の速度のxy成分を、それぞれと表すこととする。以下の問に答えよ。

(e) 時刻tにおいて、荷電粒子が受ける力のxy成分をそれぞれとする。およびを、qのうち必要なものを用いてそれぞれ表せ。

(f) ある速さx軸の正の向きに等速度運動する観測者から見た場合には、荷電粒子の運動が等速円運動に見える。 mqおよびのうち必要なものを用いてを表せ。

(g) の場合との場合のそれぞれにつき、時刻からしばらくの間の、静止した観測者から見た荷電粒子の軌跡の概形として、もっともふさわしいものを、図2の選択肢@〜Iからそれぞれ1つずつ選べ。

(h) の場合を考える。荷電粒子のy座標のとりうる最大値は、(f)で求めたを用いて下記のようになる。空欄に当てはまる数式をmqのうち必要なものを用いて表せ。


また、静止した観測者から見た場合に、において最初にとなるときのx座標の絶対値は、下記のようにの定数倍となっている。空欄を埋めよ。

(i) 引き続きの場合を考える。静止した観測者から見た場合に、時刻からしばらくの間の荷電粒子の運動エネルギーの変化の様子としてもっともふさわしいものを、図3の選択肢@〜Cから選べ。ただし、図3の横軸にあるは、荷電粒子のy座標がで最初にゼロとなる時刻を表す。

さらに、図3に示した縦軸の運動エネルギーの値をmqのうち必要なものを用いて表せ。なお、選択肢Cでは、運動エネルギーは充分長い時間の経過ののち、に達するものとする。


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解答 相対性理論を構築したアインシュタインは、高校で電磁気学を学んだとき、「磁場中をある速度で移動する電荷は磁場から力を受ける」、と習って、この電荷と同じ速度で移動する観測者から見たら、電荷は止まって見える(速度ゼロ)のに、この力はどうなってしまうのだろうか、と、疑問に思った、という逸話が、本当かどうかわかりませんが伝えられています。
異なる座標系で見たら、物理学はどのようになるのか、という疑問が相対性理論の出発点になっているのですが、本問でも、等速度運動する観測者から磁場中で等速円運動に見える運動は、静止した観測者から見るとどのような運動か、ということがテーマになっています。


[A](a) 荷電粒子が受ける力は磁場による力で、いずれの場合も、運動方向に垂直で円運動の中心方向に、大きさです(ローレンツ力を参照)。これが等速円運動の向心力となります。荷電粒子の運動方程式は、
 ∴ ......[] ・・・(1)

(b) 等速円運動している荷電粒子の速度と力の関係は右図のようになっています(フレミング左手の法則を参照)です。三角形の相似より、,よって、より、

また、右図の状況で、の符号を考えると、の場合は、は同符号で、は異符号、の場合は、は異符号(従って、は同符号)で、は同符号(従って、は異符号)、よって、いずれの場合も、
......[]
注.教科書的には、速度と力を成分に分けて考えれば解答できます。
[B](c) [B]の間の等速円運動の速さは[A](a)と同様に円運動の半径は ・・・(1) です。の部分の等速円運動の周期Tは、

 ・・・(2)
この間の円運動は半周期分(軌跡は半円)で、
......[]
x軸を横切る際の荷電粒子の速さはで、では磁束密度の大きさがなので、における等速円運動は(2)(1)として周期は(2),半径は(1)の等速円運動の半周期分を加えて、
......[]
に原点Oを通過するとき、の場合は、等価的に電流がy軸正方向に流れ、フレミング左手の法則よりx軸正方向に力を受けての側に等速円運動を始め、の場合は、等価的に電流がy軸負方向に流れ、x軸負方向に力を受けての側に等速円運動を始めます。従って、荷電粒子の運動範囲は、ではではです。
は半径の円運動の直径に等しく、の場合に注意して、
(1)より、
......[] ・・・(3)
における等速円運動の半径は(1)で直径はから原点方向にだけ戻ったところ(の場合に注意)で、(3)より、
......[]

(d) y座標の最大値の部分の等速円運動の半径に等しく、(1)より、 ......[]
y座標の最小値の部分の等速円運動の半径にマイナスをつけたもので、 ......[]
の軌跡に続いての荷電粒子の軌跡を描くと、その概形は右図。

[C](e) (b)で求めた力に、電場によるy軸方向の力を加えて、 ......[]

(f) 速さx軸の正の向きに等速度運動する観測者から見た荷電粒子の相対速度のx成分はです。(e)の結果で、
 ・・・(4)
と見ると、は、(b)の等速円運動する荷電粒子が受ける力の結果でとしたものになります。よって、等速度運動する観測者から見た荷電粒子の運動が等速円運動となり(4)が成立するためには、 ......[]
この結果は、速さで等速度運動する観測者から見ると、電場が感じられなくなり(逆向きで同じ大きさの誘導電場が発生し、電場を打ち消します)[A]と同じ状況になる、ということを意味しています。
速さ
x軸正方向に運動する観測者から見て、電場が消えているので、荷電粒子はに原点Oで静止していたところからx軸負方向に速さで動き出す(従って、等速円運動する荷電粒子の速さはです)ように見えます。等価的に電流が、の場合はx軸負方向に、の場合はx軸正方向に流れて、の場合は、動き出した直後フレミング左手の法則より、y軸正方向に磁場から力を受けて等速円運動を開始し、の範囲で等速円運動するように見えます。の場合は、動き出した直後、y軸負方向に磁場から力を受けて等速円運動を開始し、の範囲で等速円運動するように見えます。

(g) 静止した観測者から見ると、y軸方向の電場があるので、荷電粒子は力を受けて、から、ならy軸正方向にならy軸負方向に動き始めます。動き出すと、等価的に電流が流れるので磁場から力を受けます。動き出した直後、の場合は、電流はy軸正方向で、フレミング左手の法則より、x軸正方向に力を受けます。の場合は、やはり電流はy軸正方向(荷電粒子が動き始める向きはqの正負で逆向きになりますが、電荷の正負が異なるので、電流の向きはどちらもy軸正方向)で、x軸正方向に力を受けます。どちらの場合も荷電粒子は、の範囲で運動することになります。(f)で検討したように、荷電粒子はの場合はの範囲、の場合はの範囲で運動する(y方向は、観測者のx軸方向の運動の影響を受けません)ので、の場合の軌跡は@ ......[] の場合の軌跡はB ......[]

(h) (f)での検討に基づいて考えます。
() 速さで等速度運動する観測者から見て、の場合、速さがの等速円運動の半径は[A](a)と同様にはこの円運動の直径に等しく(等速円運動の範囲は)
  ......[]

() 原点Oを出発した荷電粒子がx軸上に戻ってくるまでに等速円運動1周期分の時間がかかります。速さで移動している観測者には等速円運動しているように見えるので、この観測者にはこの間に原点Oから出て原点Oに戻ってくるように見えますが、静止した観測者には、x方向に速さで移動する観測者の移動距離だけ動くように見えます。 π ......[]

(i) 静止している観測者から見たときの荷電粒子の速度を運動エネルギーとすると、での運動エネルギーは0,磁場による力は運動方向に垂直で仕事をせず、エネルギーの原理より、荷電粒子が座標yまで来たときの運動エネルギーは、電場がした仕事に等しく、
 ・・・(5)
運動する観測者から見ても、静止している観測者から見ても、等速度運動する荷電粒子のy方向の運動はの範囲で動く単振動で、(5)を満たすようにyに依存して変化をしているのは、A ......[]
運動エネルギーが最大になるのは、図2@のy座標が最大となる点においてです。(5)において、として、この点での運動エネルギーは、
......[]



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