東工大物理'23年前期[3]

[A] X線を用いて、結晶の格子による回折実験を行う。結晶中の原子は点とみなすことができ、X線が点状の一つの原子によって散乱される場合、エネルギーを失うことなくあらゆる方向に散乱されるものとする。一つの原子によってX線が散乱される確率は非常に小さいため、結晶の表面から深いところまで散乱されずに侵入するX線の割合は十分大きく、すべの原子から散乱されたX線が同位相で強め合う(経路差がX線の波長の整数倍となる)場合に、X線回折が起こる。X線は結晶に入射する際に結晶表面で屈折することはなく、また、一回散乱されたX線が再び別の原子により散乱される効果は無視できるものとする。図1および図2で黒丸は原子の位置を表しており、結晶の原子配列は縦、横、奥行き方向に等間隔aで並んだものとする。X線の波長をλとし、紙面内において、表面の原子配列に対してθの角度から入射した平面波のX線が、の角度で回折する条件について考える。ただし、の範囲に限る。以下の問いに答えよ。

(a) 角度θで入射したX線が、角度で散乱される場合を考える。図1の原子Aは表面にあり、原子B1つ下の格子面上で原子Aの真下にある。原子Aで散乱されたX線に対する、原子Bで散乱されたX線の経路差が、 (N1以上の整数)となる場合のを求めよ。ただし、解が存在するためのNの条件は答えなくてよい。

(b) (a)と同様に、角度θで入射したX線が、角度で散乱される場合を考える。図2の原子Cは、問(a)で定義された原子Aの右隣にある。原子Aで散乱されたX線に対する、原子Cで散乱されたX線の経路差が、 (Mは整数)となる場合のを求めよ。ただし、のときであり、解が存在するためのMの条件は答えなくてよい。

(c) 以下はX線回折が起こる条件の説明文である。空欄()()()にあてはまる数式を、問(a)N,問(b)Maλを用いて答えよ。ただし、解が存在するためのNMの条件は答えなくてよい。必要であれば、任意のに対して

の関係が成り立つことを用いてよい。

1および図2の紙面内にあるすべての原子は、原子ABCの位置を結んだベクトルを整数倍したものの和で表せる位置関係にある。このことから、問(a)と問(b)の解がともに満たされる場合には、すべての原子からの散乱X線が同位相で強め合うためX線回折が起こる。この回折条件を求める。
の回折条件はであり、表面にあるすべての原子からの散乱が同じ経路差を与えることから、表面に平行な格子面による鏡面反射
()とみなすことができる。
一方、の場合は、各原子からの散乱
X線の中で等しい経路差を与える原子が複数個存在し、図3のようにこれらの原子を結んだ格子面Sに対する角度ϕ ()の鏡面反射とみなすことができる。つまり、この格子面Sが表面から反時計まわりに角度α ()だけ傾斜しているとすると、表面に対する入射角θと回折角の回折は、格子面Sに対する入射角ϕと回折角ϕの回折として理解できる。格子面Sの傾斜角はを満たし、回折条件はと求められる。

[B] 電子は粒子であるとともに物質波(電子波)としても振る舞う。よって電子波の波長が原子間隔程度に短ければ、X線の場合と同様に結晶の格子による回折が起こる。図4のように、結晶は真空中に置かれ、真空中の電位は0で一様であり、結晶内部の電位は ()で一様であるとする。ただし、電位の変化は結晶表面近傍の厚さが無視できる範囲内でのみ起こっているとする。電子は電荷を帯びており、電子が真空中から結晶中に入るときに、この電位差によって速度が変化し、電子波は結晶表面で屈折する。
静止した電子を、遠方で電位差V (加速電圧、)で加速させることで平面波の電子線(同じ向きに進む電子の流れ)をつくり、電子の運動エネルギーを失うことなく、結晶表面に電子線を到達させた。紙面内で、結晶表面の法線に対して入射角i ()で電子線を入射し、屈折角rで屈折する場合を考える。表面に平行な格子面で鏡面反射した結晶中の電子波は、法線に対して角度iで結晶表面から出射する。この際に、表面に平行なすべての格子面で鏡面反射した電子線が同位相で強め合う場合に、電子線回折が起こる(この実験では表面での反射における位相の反転は起こらない)。結晶の表面に平行な格子面の間隔をd,プランク定数をh,電子の質量をm,電子の電荷を ()として以下の問いに答えよ。

(d) 電子の粒子としての速さについて、真空中における値と、結晶中における値を、hmeVの中から必要なものを用いて表せ。

(e) 電子波の真空中での波長と、結晶中での波長を、hmeVの中から必要なものを用いて表せ。

(f) 5のように入射電子波がYに到達したときの波面XYが、屈折電子波の波面へと進む際に、真空中での経路における位相変化と結晶中の経路における位相変化は等しい。このことを利用して、電子線が真空から結晶に入射するときの屈折率を、hmeVの中から必要なものを用いて表せ。ただし、電子の粒子として進む速さと電子波の波面が進む速さは異なり、とはならない。

(g) 真空中と結晶中で、電子の粒子としての運動量がどう変化したかを考える。結晶中で、電子の粒子としての運動を観測したところ、問(f)の屈折電子波と同じ方向に運動していることが分かった。結晶中の運動量の、表面に平行な成分の大きさと、表面に垂直な成分の大きさを、i を必ず含め、hmeの中から必要なものを用いて表せ。

(h) いろいろな加速電圧Vでつくった電子線を用いて、ある入射角i と反射角i で電子線回折を起こすかどうかを調べたところ、複数のVにおいて回折条件を満たすことが分かった。回折条件を満たすVを、hmedi,整数nの中から必要なものを用いて表せ。ただし、解が存在するためのnの条件は答えなくてよい。



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解答 [A]X回折と同様に考えます。目新しい問題で途中から我を見失いそうになりますが、加法定理の公式が書かれているので、これをヒントに考えましょう。[B]は、(h)薄膜の干渉と同様に考えますが、(f)の「とはならない」に注意が必要です。終盤は、使える文字の制限のために、計算が複雑になります。

[A](a) 右図より、Aで散乱されたX線とBで散乱されたX線の経路差(赤線部分),よって、経路差がとなる場合、
(N1以上の整数)
......[] ・・・@

(b) 右図より、Aで散乱されたX線とCで散乱されたX線の経路差は,よって、経路差がとなる場合、,即ちのときより、
(Mは整数)
......[] ・・・A

(c) のとき、Aより、より、
よって@より回折条件は、
......[]
のとき、図3より、,問題文中の加法定理の公式より、
@,Aを代入すると、

 ・・・B
また、同様に@,Aを用いて、

......[]
より、


 (αMの符号が一致することに注意)
Bに代入すると、回折条件は、
......[]

[B](d) 加速電圧Vが電子1個に与えるエネルギーは,これが電子の運動エネルギーになるので(電子を参照)
 ・・・C
......[]
電子は結晶中の正の電位によって加速されます。
 ・・・D
......[]

(e) ドブロイの式を用いて、
......[] ......[]

(f) 位相変化が等しいと言っても、電子波の振動数をf として、を通過する時間を考えて、とするのでは、となってしまい失敗します。そこで電子波の波長の方を考えます。
の中に入る波の数を考え、位相変化が等しいとして(位相を参照)
 ・・・E
(e)の結果を用いて、
 ∴ ......[]
注.Eに(e)ドブロイの式を入れると、
これより、
 ・・・F
となっていることが分かります。

(g) 電子の粒子としての運動方向は、問(f)の屈折電子波と同じ方向なので、結晶中の運動量の、表面に平行な成分は,表面に垂直な成分はです。iは解答に使えますが、rVは使えません。Fを用いると、 ・・・G
......[]
Dより、
 ∴  ・・・H
Gを用いて、


Hを用いて、
......[]

(h) 右図より経路差(赤線部分)になります。ここでは、Vを求めたいので、(f)の結果をそのまま使います。

回折条件は、 (n:整数)より、(e)の結果を用いて、
両辺にをかけて2乗すると、


......[]



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