東大物理'22年前期[2]

2-1のように、水平なxy平面上に原点Oを中心とした長円形のレールがあり、斜線で示されたの領域には鉛直上向き方向に磁束密度の大きさがBの一様な磁場が加えられている。レール上に木製の台車があり、コイルを含む回路が台車に固定されている。コイルはxy平面に平行な正方形で、一辺の長さはL,ただし、とする。コイルの四つの辺は台車の進行方向に対して平行または垂直である。上から見たとき台車とコイルの中心は一致しており、回路を含む台車の質量はmである。レールの直線部は台車の大きさに比べて十分長いものとし、区間上のの点をとする。
台車が点を速さ
x軸の正の方向(図の右方向)に出発し、その後、台車の中心が最初にを通過した瞬間の速さをそれぞれとする。に比べて速さの変化は十分に小さい。また、とする。コイルの右辺が磁場に進入する瞬間と磁場から出る瞬間の台車の中心位置をそれぞれとする。同様に、左辺が磁場に進入する瞬間と出る瞬間の台車の中心位置をそれぞれとする。台車に働く摩擦力や空気抵抗、コイル自身の電気抵抗は無視できる。

T 図2-2のように、回路が正方形の一巻きコイルと抵抗値Rの抵抗からなる場合に、台車が最初に区間を走る時の運動を考える。

(1) 台車の中心がからへ移動する運動について、以下のに入る式をLdBmRのうち必要なものを用いて表せ。磁束の符号は鉛直上向きを正とする。

速さに比べて速さの変化が十分に小さいため、台車が間を移動するのにかかる時間はと近似できる。移動の前後でのコイルを通る磁束の変化量であり、この間の誘導起電力の平均値はと書くことができる。移動中に誘導起電力がで一定であると近似すると、この間に抵抗で発生するジュール熱の総和はと書ける。

(2) LdBmRのうち必要なものを用いて表せ。

U 正方形の一巻きコイルに、抵抗値Rの抵抗、起電力Vで内部抵抗の無視できる電池、理想的なダイオードが接続された回路を台車に載せて走らせる。理想的なダイオードとは、順方向には抵抗なしに電流を通し、逆方向には電流を流さない素子である。図2-3は、区間を走る台車を上から見たものである。を出発した台車は磁場を通過することにより減速した。

台車が最初に区間を走る時の運動について、LdBmRVのうち必要なものを用いて設問(1)(3)に答えよ。ただし、設問Tと同様の近似を用いることができるものとする。

(1) 台車の中心がからへ移動する間にコイルに流れる電流の大きさを求めよ。

(2) この電流によりコイルが磁場から受けるローレンツ力を求めよ。力の符号は、x軸正の向きを正とする。

(3) 同様に、台車の中心がからへ移動する間のローレンツ力を求めよ。

台車はレール上を繰り返し回りながら徐々に速度を下げ、やがて一定の速さで運動するようになった。設問(4)(5)に答えよ。
(4) n回目にを通り抜けた時の台車の運動エネルギーnの関数としてグラフに描いた場合、図2-4の@〜Cのどの形が最も適切か答えよ。


(5) 速さLdBmRVのうち必要なものを用いて表せ。

V 2本の正方形一巻きコイルと接続パネルからなる回路を台車に載せて走らせる。図2-5は区間を走る台車を上から見たものである。2本のコイルの両端は接続パネルの端子ABCDに接続されている。接続パネルは図2-6に示すような抵抗と理想的なダイオードからなる回路である。設問Tと同様の近似を用いることができるものとし、台車が最初に区間を走る時の運動について、以下の設問に答えよ。2本のコイルは上から見たときに完全に重なっているとみなすことができ、接続パネル以外の部分では互いに絶縁されている。また、接続パネルの大きさは無視できるものとする。

(1) 端子Dの電位をゼロとする。台車の中心が間を移動する間の端子ABの電位をそれぞれ求め、LdBmのうち必要なものを用いて表せ。

(2) 抵抗の抵抗値を満たしながらの範囲で値を調節することができる。区間を通り過ぎた後の台車の速さの変化LdBmのうち必要なものを用いて表せ。また、が最小となるようなを求め、Rを用いて表せ。



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解答 Uは終端速度(抵抗力を参照)を求める定型問題です。Vは、図2-5,図2-6の回路が等価的にどういう回路になっているかを見破ることがポイントですが、使って良い文字に充分注意し、ミスなく完答を目指したい問題です。

T(1)() コイルを貫く磁束(フレミング左手の法則を参照)の変化量は、面積の増加分がで、 ......[]
() ()より、 ∴  ・・・@
抵抗で発生するジュール熱(電力を参照)の総和は、
......[]

(2) (1)()のジュール熱の分だけ台車の運動エネルギーが減少します(エネルギーの原理を参照)。よって、


......[]

U(1) 台車の中心がからへ移動する間、フレミング右手の法則より、起電力の方向は、図2-3のコイルを上から見て右回りの方向です。起電力の大きさはT(1)です。問題文に「を出発した台車は磁場を通過することにより減速した」と書いてあるので、台車の加速度は負で、台車は磁場から左向きに力を受けた(運動方程式を参照)はずです。ダイオードの向きからして、回路に上から見て左回りに電流が流れることはありません。右回りの電流が台車を減速させる向き、つまり左向きに力を及ぼすためには、コイルの右辺に上から下向きに電流が流れ、ローレンツ力が左向きに働かなくてはなりません。そのためには、であって、コイルに流れる電流の大きさIは、オームの法則より、@を用いて、
......[]
注意.ローレンツ力は、運動する荷電粒子が電磁場中から受ける力(クーロン力を含めて)を意味しますが、ここでは、コイルの辺の中にいる荷電粒子が受ける力の総和と解釈します。

(2) (1)でも書いたように、台車に左向きのローレンツ力が働く(フレミング左手の法則を参照)ので、力の符号は負です。力の大きさはなので、(1)より、 ......[]

(3) 台車の中心がからに移動する間、フレミング右手の法則より、左辺に生じる起電力は上からコイルを見て左回りに電流を流そうとする向きで、ダイオードが逆方向に電流を流さないので、電池も合わせて電流は流れず、ローレンツ力は0 (フレミング左手の法則を参照) ......[]

(4) (1)(2)(3)より台車は1周回る度に減速し、減速させるローレンツ力の大きさは、が小さくなるので次第に小さくなります。従って、減少の割合は次第に小さくなります。こうなっているグラフは、B ......[]
注意.厳密には、運動方程式:を考えることになります(抵抗力を参照)が、こうした問題では、問題文が特段の要求をしているのでもない限り、この方程式を解く必要はありません。

(5) 台車を減速させる(4)の力はとなり、最終的に等速度運動になります。そうなったときのなので、
 ∴ ......[]

V(1) 台車の中心が間を移動する間、図2-5を上から見て右回りに電流を流そうとする向き、つまり、AB間にAが高電位になるような起電力が発生し、Aの間のダイオードは順方向になります。CD間には、Cが高電位になるような起電力が発生し、Dの間のダイオードも順方向になります。起電力を電池で表し、順方向のダイオードを省略すると、図2-5,図2-6の等価回路は右図のようになります。AB間の起電力、CD間の起電力ともに、@よりです。よって、Bの電位は ......[]Aの電位は ......[]

(2) T(1)()の結果よりに発生するジュール熱はに発生するジュール熱は,ジュール熱の和が、台車の運動エネルギーの減少分になるので、区間を通過する前後での運動エネルギーの変化は、エネルギーの原理より、

 ・・・A
ダイオードにより、コイルの左辺が磁場中に進入して出るまでにはコイルに電流が流れず、減速されず、速度は変化しないので、です。よって、,即ち、であって、Aは、
 ∴ ......[]
より、相加平均相乗平均の関係を用いて、
最小、つまり等号成立は、のときで、このとき、 ......[]



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