早大理工物理'11[3]

可動壁によって体積を変えることができる直方体の容器に1モルの単原子分子理想気体が封入されている。容器内部の理想気体を「系」、容器の外部を「環境」と呼ぶことにする。容器の壁を通して系は環境と熱のやりとりができる。はじめに、可動壁を固定し、環境の温度をTにしてしばらく待ったところ、系は熱平衡に達し、系の圧力がPになった。重力の影響は無視できるとし、以下の問に答えよ。なお、気体定数はRとする。

1 まず、可動壁を固定したまま、環境の温度をだけゆっくり上げた。この過程で系が環境から吸収した熱量はいくらか。
2 つぎに、環境の温度をに保ったまま、可動壁の固定を解除し、外力によってつりあいを保ちながら可動壁をゆっくり動かしたところ、系の圧力がPにもどった。この過程で系の体積はどれだけ変化したか。
3 最後に、系の圧力をPに保ったまま、環境の温度をゆっくり下げてTにもどした。この過程で系が環境から吸収した熱量はいくらか。
4 以上の一連の過程を1サイクルとする熱機関の効率はいくらか。ただし、問2の過程で系がした仕事をWとせよ。

つぎに、理想気体を用いた熱機関の代わりに、石けん膜を用いた熱機関を考えてみよう。

図に示すように、可動棒によって面積を変えることができる長方形の枠に石けん膜が張られている。石けん膜の張力により、可動棒の石けん膜と接する部分には単位長さあたり
f の力が図の左向きに働く。石けん膜を「系」、石けん膜の外部を「環境」と呼ぶことにする。系の面積は枠で囲まれた長方形の面積に等しいとし、系の内部エネルギーは単位面積あたりuであるとする。可動棒をゆっくりと動かして系の面積を変化させてもfuは系の面積によらず一定であるとする。ただし、fuは環境の温度Tによって変化するものとする。
はじめに、可動棒を固定して系の面積を
Aにし、環境の温度をTにして系が熱平衡に達するまでしばらく待つ。系を構成する物質の出入りはなく、重力の影響は無視できるとして、以下の問に答えよ。

5 まず、可動棒の固定を解除し、外力によってつりあいを保ちながら可動棒をゆっくりと右に動かし、系の面積をだけ増加させる()。この過程で系がする仕事はいくらか。
6 問5の過程で系が環境から吸収する熱量はいくらか。
7 つぎに、可動棒を再び固定し、系の面積をに保ったまま、環境の温度をだけゆっくり下げる()。この過程で系が環境から吸収する熱量はいくらか。ただし、本問以降の問では、fuはそれぞれ (abは正の定数、)と表せるとせよ。また、本問以降の問では、答はabATxyの中から必要なものを用いて表し、さらに、であるためyに比べては無視できるとせよ。
8 つづいて、可動棒の固定を解除し、環境の温度をに保ったまま、外力によってつりあいを保ちながら可動棒をゆっくり左に動かし、系の面積をAにもどす。この過程で系が環境から吸収する熱量はいくらか。
9 最後に、可動棒をもう一度固定し、系の面積をAに保ったまま、環境の温度をゆっくり上げてTにもどす。以上の一連の過程を1サイクルとして熱機関が構成される。この熱機関が1サイクル中にする仕事はいくらか。また、この熱機関の効率はいくらか。


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解答 後半の石けん膜の問題が何をやりたいのか意味不明なのですが、題意をしっかり把握し、熱力学第1法則を用いて丁寧に解答しましょう。

1 最初の状態体積Vとすると、状態方程式
 ・・・@
 ・・・A
可動壁固定のまま環境の
温度だけ上げるので、気体は定積変化をします。変化後の状態をとします。定積モル比熱の式より、系が環境から吸収した熱量は、
......[]

2 環境の温度を保ったまま可動壁を動かすので、気体は等温変化をします。変化後の状態をとします。状態において気体の圧力Pです。状態における気体の体積とすると、状態方程式
 ・・・B
B÷@より、
 ∴
この過程での体積増加は、Aを用いて、
......[]
この過程では、気体の温度が変化しないので、気体の内部エネルギーが変化しないことに注意してください。

3 系の圧力を保ったまま系の温度だけ変化させるので、気体は定圧変化をします。定圧モル比熱の式より、この過程で系が環境から吸収した熱量は、
......[]

4 1サイクルの中で、系がを吸収するのは、の過程(1の過程)と、の過程(2の過程)で、の過程で吸収した熱量熱力学第1法則より、
1サイクルの中で系が吸収した熱量は、
の過程は定積変化なので系は仕事をせず、の過程で系のした仕事Wの過程は定圧変化で系のした仕事は、
 (気体のした仕事を参照)
1サイクルの中で系がした正味の仕事は、
熱機関の
熱効率は、
......[]

5 系が可動棒に及ぼすと可動棒が動く方向が逆向きなので、系は負の仕事をします。可動棒の長さl,可動棒が動いた距離dとすると、系がした仕事は、
より、
......[]

6 系の内部エネルギーの増分は、
熱力学第1法則より、系が環境から吸収した熱量は、
......[]

7 題意に即して、以後、fuTの関数であることを明示する形でと書きます。
です。また、可動棒に働くが左方向に距離d動く過程において、系のする仕事Wは、面積変化を用いて、
 ・・・C
と書けます。系の面積Sのときの内部エネルギー温度Tが一定の過程における内部エネルギーの変化は、
 ・・・D
となります。環境の温度だけ下がったときの温度のときのuの値は、微小量を無視すると、
 ・・・E
7の過程では可動棒を固定し系の面積に保つので系は仕事をしません。
温度Tからへと変化するので、Eを用いて系の内部エネルギーの変化は、

系が環境から吸収する熱量は、
......[]

8 D,Eより内部エネルギーの変化は、
可動棒が左方向に動くので系は正の仕事をします。系のした仕事は、を無視して、
熱力学第1法則より、系が環境から吸収する熱量は、
......[]

9 最後の過程では、系の面積が一定の過程なので、系は仕事をしません。内部エネルギーの変化は、
この過程で系が吸収する熱量は、
5の過程は温度T一定の等温変化と考えられます。問6は、
となります。なので、1サイクルの中で系が吸収した熱量
熱機関が1サイクル中にする仕事は、

......[]
熱機関の熱効率は、
......[]


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