京都大学理系2007年数学入試問題
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甲[1] 次の各問にそれぞれ答えよ。
問1.,とするとき、 を求めよ。
問2.得点1,2,・・・,nが等しい確率で得られるゲームを独立に3回繰り返す。このとき、2回目の得点が1回目の得点以上であり、さらに3回目の得点が2回目の得点以上となる確率を求めよ。
[解答へ]
甲[2] x,yを相異なる正の実数とする。数列を
, ()
によって定めるとき、が有限の値に収束するような座標平面上の点の範囲を図示せよ。
[解答へ]
甲[3] pを3以上の素数とする。4個の整数a,b,c,dが次の3条件
,,
を満たすとき、a,b,c,dをpを用いて表せ。
[解答へ]
甲[4] において、の二等分線とこの三角形の外接円との交点でAと異なる点をとする。同様に,の二等分線とこの外接円との交点をそれぞれ,とする。このとき3直線,,は1点Hで交わり、この点Hは三角形の垂心と一致することを証明せよ。
[解答へ]
甲[5] とする。座標平面上で原点の周りに回転する1次変換をfとし、直線について対称移動する1次変換をgとする。合成変換がx軸について対称移動する1次変換と一致するとき、αの値を求めよ。
[解答へ]
甲[6] とのグラフで囲まれた部分をx軸の回りに回転してできる立体の体積を求めよ。
[解答へ]
乙[1] 以下の各問にそれぞれ答えよ。
問1.定積分 を求めよ。 問2.1歩で1段または2段のいずれかで階段を昇るとき、1歩で2段昇ることは連続しないものとする。15段の階段を昇る昇り方は何通りあるか。
[解答へ]
乙[2] 甲[2]と同一
乙[3] 甲[3]と同一
乙[4] 点Oを中心とする円に内接するの3辺AB,BC,CAをそれぞれ2:3に内分する点をP,Q,Rとする。の外心がOと一致するとき、はどのような三角形か。
[解答へ]
乙[5] Aを2次の正方行列とする。列ベクトルに対し、列ベクトル,,・・・を
()
によって定める。あるゼロベクトルではないについて、3以上の自然数mで初めてがと一致するとき、行列は単位行列であることを示せ。
[解答へ]
乙[6] すべての実数で定義され何回でも微分できる関数が,を満たし、さらに任意の実数a,bに対してであって、
を満たしている。
(1) 任意の実数aに対して、であることを証明せよ。 (2) のグラフはで上に凸であることを証明せよ。 [解答へ]
各問検討
甲[1](解答はこちら) 問1は、ハミルトン・ケーリーの定理を用いて、行列の多項式の次元を下げるという典型問題です。行列には除算がないので、同型の(xに関する)多項式で除算を行うことになります。即ち、行列Aの多項式があるとき、xの多項式を多項式で割ったときに商が,余りがだとして、
このとき、xを行列Aに代えてできる等式
が成り立ちます。ここで、ハミルトン・ケーリーの定理によって、 (零行列)となるのであれば、
です。
問2は、1からの異なる通りの数の中から3つの数を選んで(通り)、小さい順にx,y,zとする()とき、yから1を引いて、zから2を引けば、となり、この問題の3回の得点の条件を満たします。この考え方が、もっとも簡単かも知れません。
甲[2](解答はこちら) 2項間漸化式の解法と等比数列の極限を,に場合分けして考えるだけの問題です。
と変形して、差の形にしてしまうと、やりにくくなるので、,を残す形で考えるのがコツです。
甲[3](解答はこちら) 整数問題で文字が多いので、一瞬ビビりますが、2つの等式から1文字消去してしまうと、整数問題として典型的な形、
整数A×整数B=整数C (整数Aと整数Bは整数Cの約数)
が出てきます。
問題文をじっと見つめたまま硬直してしまうと先には進めません。こうした問題では、とにかく手を動かして、隠れている条件を見つけ出すことが大切です。
また、解答の途中で、
という不等式が出てきます。整数問題では、こうした何気ない不等式にも条件が隠れています。分母に2がいるので、pは偶数か奇数か、とすぐに考えるようにしたいものです。ここでは、pは3以上の素数なので奇数、もも整数ではない、ということになり、これで、整数aが確定してしまうのです。何気ない彼女(彼氏)の仕草のうちから微妙な心の綾に気づきたいものです。
甲[4](解答はこちら) ゆとり教育見直しに伴って、平面幾何の証明は中学校に戻って行くと思われるので、こうした問題は大学入試からは消えてゆく運命にあるかも知れません。ですが、問題の状況自体は今後の大学入試にも引き継がれるものなので、円周上に点を幾つかとって角を考える問題では、円周角や中心角を考える、ということがキーワードであることには変わりないだろうと思います。
本問題もまた、円周角を考えることにより容易に解決できます。3直線,,が1点Hで交わることについては、Hが三角形ABCの内心であることを言えば十分でしょう。試験場で時間が余ってヒマであれば、三角形の各頂角の2等分線が1点で交わることの証明をつけておけば良いと思います。
甲[5](解答はこちら) 毎年入試問題を眺めていると、めまぐるしく高校課程の内容やセンター試験の範囲がコロコロ変わるので、1次変換は高校の範囲なのか、2項間漸化式はセンター試験で出るのか、頭を悩ませてしまいます。文科省のお役人さんの気まぐれに振り回され、1年生と2年生とで違うカリキュラムになったりする高校の先生もさぞ大変だろうと思います。京都大学では、入試の出題範囲を学習指導要領に追随させるのを諦めてしまいました。個人的には、カリキュラム内容は、ゆとり教育であろうとなかろうと変えるべきではなく、各項目の深さを調整すれば良いと思いますが、文科省のお役人さんには対称変換と回転変換の違いもわかってもらえないのかも知れません。
対称移動の行列と回転移動の行列を合わせて直交行列といい、ベクトルにかけたときに、ベクトルの大きさを変えない、という性質があります。2次の行列では、直交行列は、
,
の2通りに限られます。前者が角θ の回転移動を表し、後者が直線に関する対称移動を表します。
この問題は、これを知識としてもっていて、行列の積の計算を行い、三角関数の加法定理を使えば、容易に解答にたどりつけます。
甲[6](解答はこちら) 基本的な回転体の求積問題です。曲線を回転してできる回転体の内側が円錐状にくりぬけるので、曲線を回転してできる回転体の体積から円錐の体積を引けば答えが出ます。
解答では、微分計算も大したことはないので、微分して増減を調べていますが、わかりやすくするためです。回転体の形状さえつかめればよいので、積分範囲、何が外に来て内に来るか、という情報が得られればよいのです。問題によっては、微分計算が大変なものもあるので、ムダな時間を使わないように注意してください。
こうした問題では、計算ミスが命取りになります。入試の採点でも、京都大学の多忙な先生が、部分積分の途中の計算過程まで追ってくれるとはとても思えません。
という定積分が出てきますが、部分積分を2回行うと、マイナスの個数を勘違いしたり、2で割るのを忘れたりして、計算ミスを誘発しやすいので、
を利用して、以下のような計算をする方が計算ミス対策としては良いかも知れません。
とすると、
∴ ,
これより、
(C:積分定数) となるので、
労力は大して変わりませんが、計算ミスのリスクは減ると思います。
乙[1](解答はこちら) 問1のという積分は、まずは、根号をtとおきます。ですが、となってしまうので、が残ってしまいます。
ここは、という形ですが、という形の積分も時々見かけます(とします)。どちらも手間はかかりますが、と教科書流に置いて積分を行えます。
より、
(C:積分定数) とおくと、
この問題ではノー・ヒントなのですが、通常は、は、 を参考にせよ、というヒントがつくので、ヒントに従って、
(:積分定数) ・・・@ とすればよいと思います。
については、部分積分を行って、
より、右辺に出てきたを左辺に移項して、
ここで、@を使って、
(:積分定数) とします。
解答に書いたように、と置けば、
より、
(:積分定数) また、を2乗して、
∴
より、
∴
問2は、重複組み合わせが出てこない分だけ、別解の方が簡単に済みます。1歩で2段上る回数が5回以下ということをつかんだら、同じ位置に1個しか入らない方を後から入れていく方が良いということです。
乙[4](解答はこちら) 甲[4]は平面幾何で解答しましたが、この問題は、「外心」を扱うのに、,を考えるのであれば、図形で長さを問題にするので、ベクトルが良い、ということになります。
素直にベクトルの大きさを考え、内積の関係:が得られてしまえば、どのようにも料理できます。
乙[5](解答はこちら) なら、だからである、というような解答では、もちろん、点数はもらえません。「3以上の自然数mで初めて」という条件が見落とされてしまいます。
行列のべき乗が登場するのですが、行列Aの具体的な形が与えられているわけではなく、行列のべき乗を求めるわけでもなさそうです。
であれば、ハミルトン・ケーリーで次数下げするのだろう、ということになります。
Aが2次の正方行列であれば、ハミルトン・ケーリーを使うと、Aのべき乗は、Aの1次式で表せます。これで、をAの1次式で表しておき、にかけて、
とやるのだろう、というアウトラインが見えてきます。
ということが言いたいので、,を示したいわけですが、については、だとして変なことが起きないか、と、期待すれば、「3以上の自然数mで初めて」という条件に活躍の場が出てくるわけです。
試験会場では、なかなかそうはうまく発想できないかも知れません。問題によっては、あちこち掘り返して、全く違う角度から眺めると発想できる、という問題もありますが、それに比べれば、この問題は自然な発想で解ける問題です。
乙[6](解答はこちら) 問題文中に登場する関係式を関数方程式と言います。最近の受験生には物珍しいかも知れませんが、以前は入試問題としてもよく取り上げられていたテーマです。「任意の実数a,b」に対して成立している、と、書かれているので、a,bに適当に数値代入していくと、関数の性質が導かれるだけでなく、解答の追記に書いたように、関数の形を決めてしまうこともできます。
この問題の関係式と類似の関係式:
・・・@ が、特定の実数を除く実数a,bについて成り立つとします。
が存在するとして、としてみると、
分母を払って、
∴
仮にが恒等的に1であるとすると、@の分母が0となって、が定義できなくなるので、となるaをとれば、
となります。
xが0に近い値のときにはが定義できて、かつ、微分可能でだとします。a,b,がの定義域内の実数だとして、とすると、
従って、xが0に近い値のときには、
・・・A となります。
,と書いて、
逆関数の微分法の公式より、
よって、
(‘00年京大理系後期[6]で取り上げられています) ()とおくと、
(C:積分定数) これより、
は0に近い値なので、とします。
∴
関係式@は、正接の加法定理:
・・・B を表しています。つまり、Bのような加法定理が成り立つ関数がだということです。
京大乙[6]は、関係式が微妙に@と異なっていますが、正接と類似の加法定理が成り立つ関数で、双曲線関数と呼ばれる関数の中のを取り上げています。の場合は定義できないところがあるので問題にしづらいのですが、ならすべての実数で定義できるので、入試問題として取り上げやすいというわけです。
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