京大物理'20年前期[3]
次の文章を読んで、に適した式または数値を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、はすでにで与えられたものと同じものを表す。また、問1,問2では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。
図1のように、x軸、y軸、z軸を3辺とする立方体の箱の中を多数の粒子(質量m)が、壁面に衝突しながら運動している。この立方体の各辺の長さは一定の速さwで時間とともに増大する。すなわち、時刻t における各辺の長さはであるとする(Lは定数)。したがって、立方体の各面の面積も時間とともに大きくなる。具体的には、原点Oを頂点とする3つの面はそれぞれの位置に固定され、他の3つの面がそれぞれに垂直な方向に一定の速さwで移動するとする。ただし、各面が移動する速さwは粒子の速さに比べて十分に小さいとする。以下では、の位置にある面を壁A,それに対面し、x軸の正の向きに速さwで移動する面を壁Bと呼ぶ。粒子にはたらく重力の影響は無視する。
以下では簡単のために、速度がx軸の正あるいは負の方向を向いた1つの粒子を考え、まず、図2の(a)→(b)→(c)で表された過程を考察する。この粒子と他の粒子との衝突はないものとする。図2は、図1の立方体をz軸の正の側から見たものである。時刻 ()において、立方体の辺の長さはであり、粒子は壁B上にあって速度はx軸の負の方向を向き、その大きさはvであるとする。その後、時刻において粒子は壁Aに弾性衝突し、衝突後の速度はx軸の正の向きに大きさvとなった。における立方体の辺の長さはLである。さらに時刻 ()において、粒子は壁Bに弾性衝突し、直後の速度はx軸の負の向きに大きさとなった。における立方体の辺の長さはであった。とをL,v,wを用いて表すと,であり、図2の過程の時間はL,v,wを用いてと表される。さらに、wはvに比べて十分に小さいため、をL,v,で表し、微小なの2次以上を無視する近似を行うと、となる。なお、必要ならその絶対値が微小な実数xに対する近似式を用いてよい。壁Aが粒子から受けるx軸方向の力の時間平均は、粒子が受ける力積が時刻における衝突での粒子のx軸方向の運動量変化に等しいとした関係式から求まる。そこで、壁Aが粒子から受ける圧力Pを、を壁Aの面積で割ったものとする。としてを用い、壁Aの面積を衝突時刻でのであるとすると、m,v,Lを用いてとなる。なお、はwにはよらない量である。
次に、図3の(c)→(d)→(e)で表される、時刻に速さで壁Bを離れた粒子が、再び壁Aに弾性衝突し、壁Bに戻ってくるまでの過程を考える。まず、はvとwにより
(i) と与えられ、定数aはである。しかし、以下の解答では、指定された場合を除き、をvとwで表す際は、aを用いた式(i)の右辺の表式を用いること。粒子が時刻に壁Aに弾性衝突した時の立方体の辺の長さはL,v,,wを用いてとなる。図3の過程により壁Aが粒子から受ける圧力は、図2の過程に対するの結果において、vをに、Lをに置き換えることで得られる。そこで、圧力の変化分を考え、比をの関数として表し、の2次以上を無視すると
(ii) となる。ここで、はaを用いて表される量である。式(ii)の導出において、必要なら、その絶対値が微小な実数xの2次以上を無視する近似で
であることを用いてよい。ここで、,,,,,,cは任意の実数である。
さらに、図2の過程での粒子の壁Aへの衝突時刻における立方体の体積と、図3の過程での衝突時刻における体積に対して、体積の変化分を考える。比をの関数として表し、の2次以上を無視すると
(iii) となる。式(ii)と式(iii)の結果から、との間に
(iv) の関係式が成り立つことが分かる。ここで、γはaを用いてで与えられる。
以上の式(iv)の導出は、x軸方向にのみ運動する1つの粒子に注目したものであり、圧力Pはその粒子のみから壁Aが受ける圧力であった。しかし、Pをあらゆる方向に運動する全ての粒子から壁Aが受ける圧力とし、とを与えられた微小時間内での変化分としても、式(iv)が成り立つことが示される。さらに、Pがに、Vがに微小に変化する間に立方体内の粒子からなる理想気体の絶対温度がTからに微小に変化したとすると、式(iv)は理想気体の状態方程式を用いることで、
と表すこともできる。ここで、はγを用いて表される量であり、微小量,,の2次以上を無視した。
関係式(iv)は、理想気体の断熱変化におけるポアソンの法則として知られたものであり、aの値を代入したγの値は単原子分子気体のものを再現している。しかし、多原子分子気体の場合は、式(iv)の定数γはとは異なる値をとる。
そこで、図1の立方体内をx軸方向に運動する1粒子を再び考え、次のようなモデルを用いて、二原子分子気体に対する式(iv)のγを求めてみよう。二原子分子を2つの質点(原子)が長さ一定で質量を無視できるまっすぐな棒でつながったものと見なすと、この二原子分子には重心の並進運動の他に、図4のように、重心(図4の原点G)のまわりの、Y軸とZ軸を回転軸とする2つの回転運動がある。いま、図1の立方体の中をx軸方向に並進運動する二原子分子に対して図2と図3の過程を考える。この二原子分子のエネルギーEは、重心のx軸方向の並進運動のエネルギーと重心のまわりの2つの回転運動のエネルギーの和であるとし、各回転運動のエネルギーの値がどれもに等しく、の関係が常に成り立っていると仮定する。この場合の、図2(c)で表された、時刻における分子と壁Bの衝突後の分子の速さを求めるために、この衝突を二原子分子(質量m)と壁Bに対応した重い物体(質量M)のx軸方向の衝突過程に置き換え、最後に質量Mを質量mに比べて十分に大きくする。この衝突において、図4の二原子分子の構造を直接に考慮する必要はなく、二原子分子は上記のエネルギーEを持った質量mの粒子と考えればよい。衝突前後の分子と物体の速度は図5の通りとする。
問1 図5の衝突過程におけるエネルギー保存と運動量保存の関係式を書きくだせ。それらより、衝突後の二原子分子の速さをv,w,を用いて表わせ。なお、を導出する途中計算を書く必要はない。
問2 問1で求めたにおいてMをmに比べて十分に大きくする。すなわち、を近似的に0として、二原子分子気体の場合の式(i)のaの値と式(iv)のγの値を求めよ。
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解答 気体分子運動論は、通常の入試問題では単原子分子理想気体の定積変化を扱うことが多いのですが、本問では、断熱変化の過程を考察して単原子分子気体の比熱比を求めるだけでなく、モデルが問題文中の図として与えられているとはいえ、さらに2原子分子の場合の比熱比まで求める、という過大な内容になっていて、難問というだけでなく計算も大変で、近似の方法など親切な誘導がついてはいますが、完答は厳しい問題です。
あ 粒子は、時間 ()の間に速さvで距離進むので、,一方、時間の間に壁Bは速さwで距離だけ動くので、 い 粒子は、時間の間に速さvで距離進むので、,一方、時間の間に壁Bは速さwで距離だけ動くので、 う
......[答] え の結果で、分母・分子をで割り問題文の近似を行いを無視すると、 ......[答] お 時刻における衝突での粒子のx軸方向の運動量変化は、 の結果を用いて、 ∴ 壁Aの面積がであることから、 ......[答] き 粒子は、時間の間に速さで距離進むので、,一方、時間の間に壁Bは速さwで距離だけ動くので、の結果を用いて、 ∴ ......[答] 問題文にあるように、aを用いて表すので、とすることに注意します。途中、,の結果を使って、 問題文の近似式を用いて(近似式において,,,,,,とする)、 ∴ ......[答] け との結果より、 ここでも問題文の近似式を用いて、
6 ......[答]
こ ,の結果を用いて、 ∴ ,よって、 ......[答] さ 立方体内に粒子がnモルあり、気体定数をRとして、理想気体の状態方程式は、 ・・・@ ・・・A A−@として、を無視すると、 両辺をで辺々割ると、 ∴ 問題文にはγを用いて表される量と書かれているので、(iv)式を用いて、,よって、 つまり、 ......[答]
問1 衝突前(速さv)の二原子分子の並進運動のエネルギーはなので、重心のまわりの2つの回転運動のエネルギーも含めて、二原子分子のエネルギーは、 衝突後(速さ)の二原子分子のエネルギーは同様に、
よって、エネルギー保存の関係式は、 ・・・B ・・・C Bに代入して、をかけると、 整理してmで割ると、
,なので、 ・・・D
の導出過程は解答として要求されていないので、B,C,Dを解答とします。
問2 Dでとすると(関数の極限を参照)、
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