東北大物理'08年前期[2]

充電されたコンデンサーに抵抗やコイルをつないで放電させると、コンデンサーに蓄えられていたエネルギーは、抵抗によって生じる熱やコイルがつくる磁場のエネルギーに変化する。ここでは、コンデンサーA(電気容量),コンデンサーB(電気容量),抵抗(電気抵抗R)、コイル(自己インダクタンスL)、直流電源(電圧)を含む回路を考え、抵抗とコイルの働きを比較する。電源の内部抵抗や、回路の導線およびコイルの電気抵抗は無視できるものとする。また、電磁波の放射は考えなくてよい。このとき、以下の問いに答えよ。また、結果だけでなく、考え方や計算の過程も記せ。
1 図1に示す回路を考える。初期状態でスイッチは開いており、コンデンサーABに電荷は蓄えられていなかった。
(a) 時刻においてスイッチを閉じ、コンデンサーAの充電を開始した。抵抗を流れる電流Iの時間変化のおおよその形を、時刻より充電がほぼ完了するまでの範囲でグラフ1に実線で描け。また、時刻での電流の大きさをRを用いて縦軸に記せ。
(b) 1(a)において電気抵抗値がRより大きな抵抗を用いた場合、電流Iの時間変化にはどのような違いが現れるか。電流の時間変化のおおよその形を問1(a)と比較できるようにグラフ1に破線で描け。
(c) 1(a)においてコンデンサーAの充電が完了した後、スイッチを開いてからスイッチを閉じた。その後、十分に時間が経過したときのコンデンサーAの電気量と、コンデンサーBの電気量を、それぞれ、Rの中から必要なものを用いて表せ。
(d) 1(c)では、コンデンサーAは放電し、エネルギーを放出する。そのエネルギーの一部は抵抗でジュール熱に変化し、残りはコンデンサーBに移る。ジュール熱として最終的に失われるエネルギーの大きさを、を用いて表せ。
2 次に、コイルを含む図2に示す回路を考える。初期状態でスイッチは開いており、コンデンサーABには電荷は蓄えられていなかった。
(a) スイッチを閉じてコンデンサーAを充電した後、スイッチを開いた。その後、時刻においてスイッチを閉じたところ、コイルに電流が流れた。その後、電流は時刻で最大値をとり、減少に転じた。電流Iの時間変化を表すグラフとして正しいと考えられるものを、図3()()の中から一つ選び、記号で答えよ。また、時刻における電流Iの値とその時間変化に留意して、理由を記せ。
(b) 時刻において、コンデンサーA,コンデンサーBにかかるそれぞれの電圧であることを考慮して求め、それらをLの中から必要なものを用いて表せ。
(c) 時刻において、コンデンサーBに蓄えられているエネルギーとコイルに蓄えられているエネルギーを、それぞれ、Lの中から必要なものを用いて表せ。
(d) 時刻以降において電流Iが最初に0になった時刻にスイッチを開いた。このとき、コンデンサーBに蓄えられていた電気量を、Lの中から必要なものを用いて表せ。
(e) この一連の操作で、充電によって蓄えられたコンデンサーAのエネルギーをすべてコンデンサーBに移すために必要なの間の関係式を求めよ。


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解答 抵抗とコイルを比較しているのですが、なかなか興味深い問題です。
1の最初は、微分方程式などを解く必要はありません。時間のムダです。「コンデンサーは、スイッチ切り替え直後に導通したのと同様の動作を行い、充分時間経過して充電が完了してしまうと電流を流さない。コイルは、スイッチ切り替え直後に電流を流さず、充分時間経過すると単なる導線として動作する。また、その間は指数関数的な変化を行う。」という基礎事項(コンデンサーの過渡現象コイルの過渡現象を参照)を知っていればよいのです。

1(a) スイッチを閉じた直後は、コンデンサーは導通したのと同様の動作を行います。オームの法則より、時刻における電流です。充電がほぼ完了すると電流0に近づいていきます。その間は指数関数的に変化し、電流I時間変化は右図グラフ1の実線のようになります。
(b) 時刻における電流抵抗Rの場合よりも小さくなります。その後はコンデンサーに流れ込む電流が少ないので、充電完了までの時間がかかるようになります。そのことが明瞭になるように、Rよりも大きな抵抗を用いた場合の電流変化のグラフは、(a)の実線と途中で交わるように描くことにより、右図グラフ1の破線のようになります。
(c) 充分に時間が経過すると、抵抗を流れる電流0となり、抵抗電圧0になります。このとき、コンデンサーABは、両端の電圧が等しくなり並列接続されているのと同様であって、合成容量です。を切り替える前にA電荷を蓄えていたので、AB両端の電圧は、
 ・・・@
よって、ABが蓄えている電気量は、
......[]
(d) を切り替える前はAだけがエネルギーを持っています(コンデンサーの過渡現象を参照)
充分に時間が経過すると、ABエネルギーの和は、@を用いて、

ジュール熱として最終的に失われるエネルギーの大きさは、に等しく、
......[]

2(a) 時刻においては、スイッチ切り替え直後のため、コイルは電流を流さず、です。この時点では、コンデンサーBには電荷が蓄えられていないため、B両端の電圧0です。コンデンサーA両端の電圧,コイル両端の電圧 (自己誘導を参照)なので、
 (Bの上側の極板に正電荷が流れ込む向きを電流正としています)
(,つまり、電流Iは増加)
従って、時刻において、であり、接線の傾きが正であるようなグラフを選びます。
() ......[]
理由:時刻において、コイルの自己誘導のため電流は0で、電流の変化率は正だから。 ......[]
注.LC回路なので、単振動するのだろう、ということで、正弦波の()としてもよいかも知れません。
(b) 時刻において電流が最大値をとる、ということは、ここで、になる、ということです。ということは、時刻において、コイルの電圧であり、コンデンサーAB両端の電圧が等しく、1(c)と全く同じ状況になります。であれば、AB電圧は@のに等しく、
......[] ・・・A
(c) Bに蓄えられているエネルギーは、
......[]
コイルに蓄えられているエネルギーは、問1(c)に等しく、
......[]
(d) 試験会場であれば、単振動と決めつけて、時刻後に最初にとなる時点(時刻とします。時刻から単振動の半周期)での、コイル両端の電圧時刻における電圧の符号を逆にしたものとしておいて、キルヒホッフの第2法則より、
 ・・・B
電荷保存より、
 ・・・C
B,Cを連立して、
......[]
としてしまうのが賢明だと思います。
単振動かどうかわからない、という前提に立つのであれば、
時刻におけるエネルギーは、
時刻において、電流0よりコイルのエネルギー0 (自己誘導を参照)であって、ABエネルギーは、,よってBの代わりに、エネルギー保存より、
 ・・・D
という式立ててCと連立します。Cより、
これをDに代入することにより、
分母を払って整理すると、


時刻におけるB電圧なので、時刻における電圧としては、

......[]
となります。
(e) B(あるいはC)より、
時刻においてAが蓄えている電荷は、
Aが蓄えているエネルギーは、
コンデンサーAエネルギーをすべてコンデンサーBに移すとになるので、そのために必要なの間の関係式は、
......[]
注.コンデンサーAの「エネルギー」を移すのであって、電荷を移すのではないことに注意してください。の場合、になり得ますが、このとき、逆にAエネルギーになってしまいます。


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