東京大学理系2011年前期数学入試問題


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[1] 座標平面において、点Pを中心とする半径1の円をCとする。aを満たす実数とし、直線Cとの交点をQRとする。
(1) PQRの面積を求めよ。
(2) aの範囲を動くとき、が最大となるaを求めよ。
[解答へ]


[2] 実数xの小数部分を、かつが整数となる実数yのこととし、これを記号で表す。実数aに対して、無限数列の各項 ()を次のように順次定める。
(i)
(ii)
(1) のとき、数列を求めよ。
(2) 任意の自然数nに対してとなるような以上の実数aをすべて求めよ。
(3) aが有理数であるとする。aを整数pと自然数qを用いてと表すとき、q以上のすべての自然数nに対して、であることを示せ。
[解答へ]


[3] Lを正定数とする。座標平面のx軸上の正の部分にある点Pに対し、原点Oを中心とし点Pを通る円周上を、Pから出発して反時計回りに道のりLだけ進んだ点をQと表す。
(1) を求めよ。
(2) の範囲の実数aに対し、積分
を求めよ。
(3) 極限を求めよ。
[解答へ]


[4] 座標平面上の1Pをとる。放物線上の2QRを、3PQRQRを底辺とする二等辺三角形をなすように動かすとき、△PQRの重心Gの軌跡を求めよ。
[解答へ]


[5] pq2つの正の整数とする。整数abcで条件
を満たすものを考え、このようなabcの形に並べたものをパターンと呼ぶ。各パターンに対して
とおく。
(1) パターンのうち、となるものの個数を求めよ。また、となるパターンの個数を求めよ。
以下、の場合を考える。
(2) sを整数とする。パターンでとなるものの個数を求めよ。
(3) パターンの個数を求めよ。
[解答へ]


[6](1) xyを実数とし、とする。tを変数とする2次関数における最大値と最小値の差を求めよ。
(2) 次の条件を満たす点全体からなる座標平面内の領域をSとする。
かつ、実数zの範囲の全ての実数tに対して
を満たすようなものが存在する。
Sの概形を図示せよ。
(3) 次の条件を満たす点全体からなる座標空間内の領域をVとする。
かつ、の範囲の全ての実数tに対して、
が成り立つ。
Vの体積を求めよ。
[解答へ]




各問検討

[1](解答はこちら) 難問ひしめくイメージのある東大の数学ですが、毎年、他の国公立大学でも普通に出題されるような標準的な問題が1題〜2題、出題されます。2011年では、この問題と[4]がそうした問題に当たります。
試験会場では、試験開始後最初に全体を見渡して、こうした標準問題を探すことから始めます。手間のかかりそうな計算問題、論理的に複雑そうな問題を後に回すようにします。
2011年では、[3](2)[6](2)(3)を後に回します。[3](1)[6](1)[5][2]という順番に攻めて行き、ここまででミスがないようによく見直して確実に得点します。[5][2](3)の論述は手間取ると思いますが、この辺が合格・不合格の分かれ目になるので、ここには力を入れます。ここまでできたところで時間的に余裕があるなら[6](2)[3](2)に進むようにしますが、ここは、ある程度のところで妥協することになるでしょう。おもしろい問題ですが[6](3)に夢中になったりすると、他の問題に時間をさけなくなり、得点的には不利になります。余程腕力に自信のある人以外は、[6](3)は諦めるべきでしょう。
さて、そうした観点から
[1]は絶対に落とせない問題です。円と直線がからむ問題で、円の中心と直線との距離に着目するのは、教科書レベルの必須技巧です。(2)は、出題者の意図に沿って解答するなら、ミスのないように微分計算を行い、増減表を書いて最終解答にたどりつきます。(1)の利用を避けて(2)単独で2次関数に持ち込むこともできますが、微分計算くらいしっかり練習しておけよ、という出題者の希望を入れて、確実に商の微分法の計算をするのでよいと思います。
従って、この問題を見れば、東大を目指す受験生も、いわゆる頻出問題で使う重要技巧は必ず修得しておくべきだということがわかります。
[1][4]だけでは、他の科目で大きく貯金していない限り合格は困難ですが、[1][4]を落とすようでは、合格はほぼ不可能です。
東大入試では、受験数学の細かい技巧に関する知識は無くても大丈夫ですが、教科書にも出てくる重要技巧については、知らないとか忘れた、ということは許されないのです。T
AUBではセンター試験もあるわけで、教科書レベルの内容であれば、いついかなるときに聞かれてもサッと思いつける、と自信を持って言えるようになるまで、教科書の復習をしっかりやっておくことが東大理系受験においても重要です。
また、今年、円と直線の問題が出たからと言って、東大では、円と直線が重要だ、などとは全く言えません。今年たまたま出題されたというだけであって、今後
10年間採り上げられない、という可能性もあります。過去問をていねいに見ておく必要はありますが、過去出題された分野以外はやらない、という戦略は誤りです。高校数学の全分野にわたって、教科書を網羅的に修得するように心がけてください。
なお、
Aとして、解答の図でとおくと、より、のとき最大で、このとき、
三角形
APRにおいて正弦定理より、
 ∴
より,従って、


とすることもできます。




[2](解答はこちら) 本問は、(1)で実例を考えることを受験生に促しているので、問題文で定義されている記号をこわがらなければ、(1)(2)は解答できると思います。
(3)は、とかとかして、ちょっと実験してみれば容易に題意はつかめると思いますが、論理的にきちんと示そうとすると難しい、という問題です。ですが、この問題は、完全解答は厳しいとしても、説明の巧拙は抜きにして、割る数がだんだん小さくなって割り算の余りもだんだん小さくなるので、最悪、余りがから1ずつ減っていったとしても高々q回の操作で余りが0になり、0になる、ということを何とか論述したいところです。
こういう問題は、弟や妹、あるいはクラブの後輩に、分数の加減乗除の計算法や、因数定理・除法の原理などを説明するのに苦労した経験があるかどうか、ということが大きく影響します。あいまいな説明だったり、当たり前だから当たり前と言い張るのでは、相手もなかなか納得してくれません。論理的に明快に説明する必要があります。あまり厳格に考えすぎると、時間がどんどん経過してしまうので、適当なところで妥協する必要はありますが、気持ちとしては、きちんと論証しようという意識をもつべきです。
解答では、整数
pを整数qで割るときの余りがqより小さいことに着目して、からを作るとき、逆数にして、分子を分母で割るときの余りの数列を考えました。
なら、以降は
0です。なら必ずこうなります。
のときは、
2で割ったときの余りは01なので、ならになります。
であっても、あるいはであれば題意は成立します。
のときには、数学的帰納法の枠組みを使って、のときの余りがのときの割る数になりながら、余りの数列が単調に減少していくことを示しています。
この途中で、運良く余りとなれば、であっても、で、以降は
0になります。
非常に運が悪くて、からまで全部
0にならないとき(実際にはkを非負整数として、 ()のとき、 ()のとき、くらいにしか起こらない)でも、となるので、であれば、となり、になる、というストーリーになっています。
もっと簡単に説明することも可能でしょう。各自、工夫してみてください。
試験会場では気が焦るので、じっくりと論証の構想を立てることが難しいのですが、この問題では、
10分以上、場合によっては数十分かけて構想に費やす勇気を持つべきです。
原子力発電所の安全性が厳しく問われていて科学技術に対する信頼性が失われているとき、科学者・技術者が、自分にとってはわかりきったことでも、一般の人に納得してもらえるように、明快に説明する能力が重要だ、ということを東大の出題者は意図しているように思います。




[3](解答はこちら) 昨年の[4]をさらにややこしくした積分計算の問題です。解答の積分計算は、思い切り遠回りになっていて、を使って表し直すあたりは非常に面倒ですが、これでも、時間内には計算しきれるだろうと思います。時間内にはとてもやりきれないと感じるのであれば、別の解法を考えるべきですが、時間内に収まりそうなら、計算技巧にこだわって時間をロスするよりも、計算を強行してしまったほうが速い、ということも考えるべきです。制限時間内にまとめきれる自信のある解法の工夫にはチャレンジすべきですが、まとめきれるかどうか確信がもてないのに解法を凝るのは失敗に直結します。
この積分計算では、とおいて計算することができます。

また、より、

tのとき、u





より、

よって、
とする方がラクです。ただし、とおくことに根拠があるわけではないので、本問をとおくのがテクニックだ、などとして暗記しても無意味です。多分、この置換積分の置き方は、今後50年は東大ではお目にかからないでしょう。



[4](解答はこちら) 本問はややひねられていると言え、標準問題なので落とせません。東大でも、こうした標準的な問題が毎年必ず出題されるので、試験会場では、これを確実に得点することを目指してください。
04年理系前期[1]には、本問の二等辺三角形を正三角形とした問題が出題されています。本問とは異なるタイプの問題ですが、やはり対称性を活かして考える問題でした。放物線を題材とした図形と方程式分野の問題は、他にも93年理系後期[3]などしばしば見かけます。
08年理系前期[4]では、本問と同様に、放物線と直線との2交点の間に対称性があるので、2次方程式の解と係数の関係、対称式を利用して解くことになります。こうした問題は東大に限らず頻出なのですが、いわゆる頻出技巧は、東大受験者であっても、しっかり修得しておく必要がある、ということを示唆しています。
ただし、
2次方程式の2解の間に対称性がない状況設定の07年理系前期[3]は、頻出技巧だけでは解決のできない難問でした。
放物線と直線との
2交点の間に対称性があれば、放物線の方程式、直線の方程式を連立して得られる2次方程式の2解をαβとして、解と係数の関係によって、を求め、対称式の性質を使って考えて行くことができます。このときに1つ注意点があります。本問でも、問題文に何の記述もありませんが、「αβが、交点のx座標になっている」というところに条件が隠されています。「座標」ということは、実数でなければならないので、2次方程式が実数解をもつ条件:判別式≧0を考える必要があります。これを見落とさないようにしてください。
上を点が動くとき、点が描く軌跡を求めよ、というような問題でも同様です。として、対称式を利用すれば、

 ∴  ・・・@
という具合に軌跡の式を求めることはできるのですが、xy2解とするt2次方程式:
が実数解を持つことから、
判別式: ∴
@より、
 ∴
という条件が隠れています。軌跡は、放物線@のの部分、となるので注意してください。



[5](解答はこちら) 問題文を見ただけで敬遠したくなる問題ですが、2011年の6題の中では、最もチャレンジのしがいのある問題であり、また、合格・不合格に大きな影響を与える問題だと思います。解答を見ればわかる通り、本問で前提とされている知識は等差数列の和の知識くらいなものです。教科書しか勉強してこなかった、という受験生でも取り組める問題です。経験したことがない問題だからパス、とした受験生には厳しい結果が待ち受けていたことでしょう。
東大が育成しようとしている人材は、経験したことがある問題にしか取り組めない人材ではなく、経験したこともない問題にも積極的に挑戦しようという人材である、という出題者の意図が伝わってくる問題です。東大でも、本年
[1][4]のような問題も出るので、経験によって解決できるはずの問題は、もちろん解決できなければいけないし、さらに、未経験の問題にも立ち向かう気持ちを持っていなければいけない、ということなのです。東大受験生は、もちろん、標準的な大学で出題されるような問題もこなせるし、それでいて、普通の人が顔をそむけてしまうような問題にも取り組まなければならないのです。
原子力発電所が困難な問題を抱えています。安全に原子炉を停止させるのにどうしたら良いのか、まき散らされてしまった放射能をどう処理するのか、原子力に代わるエネルギー源をどう確保するのか、解決不可能に見える技術的な課題がたくさんありますが、日本中の技術者が全員、経験したことがないから私には対処できません、と、言い始めたら、日本全体が立ち往生してしまいます。解決不可能に見える問題でも、誰かがいろいろアイデアを捻り出して、解決策を考え出していけなくてはなりません。東大が育成しようとしているのは、そうした人材なのです。
そうした観点から言えば、
2011年度の問題の中では、本問こそ最も東大らしい問題であり、この問題から目をそむけるなら、その時点で東大受験の資格はないと言うことになります。
本問は、パターンとか、とか、見たこともない記号が登場してきますが、問題文の中で記号や概念を定義し、その記号や概念を用いて解く、という問題は、本年
[2]も含め、実は、慶大理工'01[B1][B2]や早大理工'97[4]の「変形可能」など、難関大学ではしばしば見られるものです。教えられたこと、経験したことの中だけで問題を解こうとするのではなく、解法を考えている中で、問題文の裏に潜んでいる事実を発見し、新たに解法を発明していく、というタイプの問題にも挑戦する、ということは、東大受験生に限られることではありません。新しいことに挑戦するのでなければ人類には進歩はない、ということもよく考えて頂きたいと思います。
そうした意味で、こちらをご覧の皆さんには、勉強に限らず、今まで未経験のことにも創意工夫の気持ちをもって積極的に挑戦して頂きたいと思います。受験技巧を数多くマスターして、受験技巧のライブラリの範囲内の問題を解くばかりでなく、各問題ごとに、どうやれば解けるのか、解法を発明する気持ちで取り組んで頂きたいのです。一見して勉強とは無関係に見えるようなことでも、未体験問題での発想法や創造力を鍛えるのに役立つ、ということはいくらもあります。受験数学と無関係に見えるようなことでも、目をそむけないようにしましょう。
最後にもう一言書いておくと、新奇性の強い問題が論理的にも複雑だったら、制限時間内に誰にも解けないでしょう。新奇性の強い問題は、見かけ倒しで意外と易問であることが多いのです。本問も、空間内の格子点を数える問題と同じだと見破ってしまえば、解法のレパートリー内で片付いてしまう問題と言えなくもありません。




[6](解答はこちら) 本問は、(1)はともかく、(2)以降は深入りすると、得点的には非常に不利になります。時間無制限にのんびり解くのであれば面白い問題ですが、制限時間がついているときに、紆余曲折なしで正確な議論に到達するのは無理です。中間点狙いの粗い議論で妥協してどんどん計算していかないと不覚をとる恐れが出てきます。昨2010年前期[6]2009年前期[6]2008年前期[6]と、最近は前期[6]に無理な問題が来ています。2012年前期[6]に無理問題が来るかどうかはわかりません。無理問題が第1問に来る時もあります。試験会場で、最初に全問を見渡してしっかり戦略を立ててから取り組まないと、時間切れで解ける問題をみすみす失って涙を飲む、ということになりかねません。よく注意してください。
解答中に注記しておきましたが、本問
(3)では、zを固定するよりもxを固定する方がラクです。ただし、解いてみてわかることなので、この辺は、運・不運があります。試験場で採用した解法が、その問題では、たまたま煩雑な手順になる、ということも充分にありうることなので、東大理系受験生は、解法を修得したというだけで安心してしまわないで、各解法の利害得失についても研究しておくようにしましょう。つねにベストな解法を目指す、ということをやっているとかえって不利になる、と私は思いますが、試験場で、これは大変だ、ということになったときに、即座に方針転換するだけの勇気と事前の解法研究、そして問題を見極める眼が必要だと言えるでしょう。
(3)x固定で考えると以下のようになります。
 ・・・@
(1)の結果を代入して、
(i) のとき、 ∴
(ii)
のとき、 ∴
(iii)
のとき、
(iv) のとき、 ∴
yz
平面内で、
z切片は
においてとすると
においてとすると
()
における接線は
においてとすると

z固定と比べて、の場合分けのようなことが起こりません。
yz平面に平行な平面でVを切ったときの断面は、3頂点とする直角二等辺三角形と、4頂点とする正方形を合わせた図形から、曲線y軸、直線で囲む部分を除き、さらに、4頂点とする台形を除いた図形で、断面積は、


Vの体積は、

となります。出題者は、こちらの方の解答手順を想定していたと思われます。



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