東工大物理'22年前期[2]
Nを正の整数とする。真空中において、総量の正電荷が半径Rの球内に一様に分布し、負電荷を持つ荷電粒子がN個だけ存在するとする。この球の中心を原点Oとして、互いに直交するようにx軸,y軸,z軸を設ける。このとき、正電荷の分布が原点から距離rだけ離れた点につくる電場は、原点を中心とする半径rの球内部の正電荷が全て原点に集中したと考えたときに生じる電場に等しく、その外部の正電荷にはよらないことが知られている。図1は、の場合に、正電荷の分布と荷電粒子の位置の例を示したものである。
荷電粒子の質量をm,クーロンの法則の比例定数をkとし、正電荷の分布は不変で動かず、荷電粒子に対して静電気力以外の力を及ぼさないものとする。また、電磁波の放射や重力は無視できるものとする。
[A] 以下の問に答えよ。
(a) 以下の文章中の空欄(ア)〜(カ)に当てはまる適切な数式を、e,R,m,kのうち必要なものを用いて表せ。
の場合に、荷電粒子が原点から距離rだけ離れた点に存在するとし、この荷電粒子が正電荷の分布から受ける静電気力の大きさFと、この静電気力による荷電粒子の位置エネルギーUを考える。まず、の場合における静電気力は原点に向かい、その大きさはのようにrに比例し、その比例定数はである。ばねによる弾性力と同様に力の大きさがrに比例するので、荷電粒子の位置エネルギーは、原点を基準としてとなる。
一方、の場合における静電気力も原点に向かい、その大きさはのようにrの二乗に反比例する。よって、荷電粒子の位置エネルギーは、となる。ここで、Cはrによらない定数であり、における位置エネルギーとにおける位置エネルギーとがにおいて一致することから、と定まる。
以上の結果を用いると、原点で静止している荷電粒子を無限遠にまで引き離すために必要となる最小の仕事Wは、となることがわかる。 (b) の場合に、半径Rの球内に存在する3個の荷電粒子を考える。図2のように、それらがのx-y平面内において、原点を重心とする正三角形の各頂点で静止し、そこでは静電気力がつり合う。このとき、正電荷の総量がであることに注意して、原点から荷電粒子の位置までの距離を、e,R,m,kのうち必要なものを用いて表せ。
[B] の場合に、z軸の正の向きに一定で一様な磁場を加え、その磁束密度の大きさをBとする。このとき、図3のように、のx-y平面内において原点を中心とする半径a ()の円軌道上を等速円運動する荷電粒子を考える。荷電粒子の角速度をωとし、等速円運動の向きはz軸の正の側から見て反時計回りであるとする。以下の問に答えよ。
(c) 荷電粒子の角速度ωを求めよ。ただし、本問では、[A]の問(a)の(ア)で求めた比例定数をKとおき、e,m,B,Kのうち必要なものを用いて表せ。
(d) 等速円運動の周期よりも充分に長い時間にわたって円軌道上のある点を通過する電気量を平均することで、円軌道上を流れる電流Iを求め、e,m,a,ωのうち必要なものを用いて表せ。ただし、電流の向きが反時計回りのときIの値は正、時計回りのときIの値は負となるものとする。
(e) 問(d)の電流が原点につくる磁場のz成分を、e,m,a,ωのうち必要なものを用いて表せ。
[C] の場合に、原点で静止している荷電粒子を考える。ある時刻からx軸の正の向きに一定で一様な電場を加えたところ、荷電粒子は半径Rの球内にとどまらずにx軸上で往復運動を始めたが、無限遠にまで到達することはなかった。以下の問に答えよ。
(f) 荷電粒子の位置エネルギーは、正電荷の分布から受ける静電気力によるものと一様な電場から受ける静電気力によるものの和で与えられる。原点を基準とするとき、x軸上におけるの概形として最も適当なものを図4の選択肢@〜Iから選び、番号で答えよ。ただし、それぞれのグラフに描かれているxの範囲外では、は単調に増加あるいは減少し続けるものとする。
(g) 荷電粒子が半径Rの球内にとどまらずに運動するような電場の強さの下限となる値を、e,R,m,kのうち必要なものを用いて表せ。
(h) 荷電粒子が無限遠にまで到達しないような電場の強さの上限となる値を、e,R,m,kのうち必要なものを用いて表せ。
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解答 かなり数学的処理を要求する問題です。符号にも充分注意が必要です。
[A](a) 半径Rの球の体積は,この中に正電荷eが一様に分布しているので、原点を中心とする半径r ()で球の体積の球の内部の電荷は、 この電荷が原点に集中しているとして、問題文のヒントより、荷電粒子が受けるクーロン力の大きさFは、 ・・・@ よって、となる比例定数Kは、 ......[ア]において、ばねの弾性力の位置エネルギーと同様に考えて、 ・・・A よって、 ......[イ]あるいは、クーロン力に逆らう外力 (中心から外向き)が荷電粒子を(原点が基準です)から位置rまで持ってくる仕事を考えて、 の場合は、原点に電荷eが集中していると考えて、荷電粒子が受けるクーロン力の大きさFは、 ,よって、 ......[ウ] ・・・B よって、 ......[エ]あるいは、クーロン力に逆らう外力 (中心から外向き)のする仕事と考えると、 (C:積分定数) において、AとBが一致するとして、 ∴ ......[オ] これよりBは、 () ・・・C
ここで、とすると、
原点で静止しているので運動エネルギーは0,荷電粒子を無限遠にまで引き離す仕事がWのとき、エネルギーの原理より、無限遠での運動エネルギーは、
よって、最小の仕事は、 ......[カ]
(b) 右図でAにいる荷電粒子が原点に集中している正電荷から受ける力はx軸負方向で(ア)と同様に、 ・・・D AとBとの距離はBCに等しく、3個の荷電粒子が正三角形の頂点に位置していることから、
右図A点にいる荷電粒子がB点にいる荷電粒子から受ける力は斥力で、右図のベクトルの方向(x軸正方向とをなす向き)でその大きさは、A点にいる荷電粒子がC点にいる荷電粒子から受ける力は、右図のベクトルの方向(x軸正方向とをなす向き)で大きさは,この2つの力の合力はx軸正方向で、 ・・・E
DとEの力のつり合いより、 ∴ ......[答]
(d) 等速円運動の周期はです。電流は時計回りで負です。電流Iは、電荷が時間をかけて1周することと、平均を考えるというヒントから、ωを使って答えることに注意して、 ......[答]
......[答]
[C] x軸の正の向きに一様な電場の強さをEとして、この電場が位置xに作る電位は,荷電粒子の位置エネルギーは、です。
(f) [A]で考えた位置エネルギーは原点を基準にしていて、ここでも原点を基準にして考えるので、[A]の結果を使って考えます。原点に静止している荷電粒子はx軸正方向に向かう電場からx軸負方向に力を受けて動き出します。動き出した後は、に来るので[A]でと考え、つまりのとき、荷電粒子の位置エネルギーは、Aとを合わせて、 ・・・F このグラフは、を軸とする下に凸な放物線です(2次関数を参照)。
つまりのとき、荷電粒子の位置エネルギーは、Cでとしたものにを合わせて、 ・・・G のときです。
また、半径Rの球内にとどまらなかったことからにおける位置エネルギーは原点における位置エネルギーよりも小さくなります。
以上のようになっているグラフは、G ......[答]
(g) (f)でも書いたように、荷電粒子が半径Rの球内にとどまらなかったことから、Fでのとき、, ∴ ......[答] 注.(f)でグラフとしてGを選んでいるので、Fのグラフ()より、のときのみ確認すれば十分です。但し、の場合を考えて、Gを微分すると、 より、Uはで極大になりますが、極大を与えるxがを満たす必要があるので、,つまり,(g)の結果と合わせてである必要があります。また、Fの軸の位置は、より、(区間の左寄り)にあります。
・・・H 等号は、,つまり ()のとき。
ここで、より、 ・・・I
このUの最大値が0以上であれば、荷電粒子は無限遠に到達しません。よって、 , ∴ (よりIを満たしています) ......[答] 注.(g)の注でにおいてでUが極大と書きましたが、Gでとしても、Hの最大値が得られます。結局、(g)の注に、無限遠に行かないという条件も加えると、電場Eは、を満たす必要があります。
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