素粒子


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現在、高エネルギー加速器を用いた実験や宇宙線の観測により、多数の素粒子の存在がわかっていますが、そのうちで最もよく知られている素粒子は電子です。電子を荷電粒子として扱い、比電荷を求めたのはJ.J.トムソンです(原子を参照)が、1895年から10年に渡りオランダのローレンツが、マクスウェルの電磁気学に基づいて電子を考察しました。彼は、原子は荷電粒子からできていると主張し、弟子のゼーマンが発見したゼーマン効果(ナトリウムを磁場中に置くと、ナトリウムから出てくる光のうちD線のスペクトルが2本以上に分かれる)を考察し、J.J.トムソンとは別個に電子の比電荷を求めました。また、宇宙の絶対静止系エーテルの否定となった、マイケルソン・モーリーの実験(光波を参照)について、相対的に移動する座標系の間の変換公式(ローレンツ変換と言います)を導き、運動する物体は運動方向に縮む、運動する時計は遅れる、というローレンツ収縮と呼ばれる解釈を20世紀初頭に発表しました。この考え方は、後にアインシュタインによって相対性理論にまとめられることになります。

ローレンツは電子を電荷を有する球体と考えました。ローレンツによると、電荷を持つ荷電粒子の球体の半径を
rとすると、球体の表面に置かれた電荷eの位置エネルギー(電位を参照)は、クーロン力の比例定数をkとして、
です。荷電粒子の質量をm,光速をcとすると、この荷電粒子が持つ静止エネルギー(原子核を参照),これを電荷が静止しているとして、クーロン力の位置エネルギーの絶対値と等値すると、真空の誘電率、透磁率をとして、より、
 ∴
真空の透磁率をとし、また電子の値、を用いると、
この値を古典電子半径と言います。素粒子論以前は、この値が電子の半径と考えられていました。

ですが、半径の狭い球体内に電荷が押し込められている、ということになると、どのように電荷が分布しているのか?連続的に球体の表面に分布しているのか?あるいは、球の中心
1点に集中して存在しているのか?という問題が生じます。電荷が球体表面に分布するということになると、それらの間に働くクーロン力の斥力は凄まじいものになり、その斥力に打ち勝って電荷を電子内にまとめている力は何なのか、という疑問が生じます。逆に球の中心1点に集中して存在しているとすると、この点でクーロン力の位置エネルギーの絶対値は無限大になってしまいます。そこで、1947年に朝永振一郎らが構築した「くりこみ理論」によって無限大の困難を避け、素粒子論では、電子、その他の素粒子の大きさを0として考えます。

1909年にガイガーとマースデンが行った実験で、金の薄膜にα線を当てると、ほとんどのα線が素通りする中に大きく反跳するものがあることが発見されました。この実験を指導したラザフォードは、1911年に、正電荷を有する原子核が原子の中心に集中して存在し、その周囲を電子が周回する、という原子モデルを発表しました。しかし、その後、ラザフォード自身で陽子を発見し、さらには同位体の存在を説明するために中性子の存在を予言するに至って、原子核は、陽子と中性子から構成されるという構造をもつことがわかってきました。

z成分が変化する磁場の中で速さvz軸の周りに円運動する荷電粒子が持つ磁気モーメントを調べます。z軸周辺で局所的な円筒座標系をとり磁束密度の各方向成分をとして、一定と考えると、
円運動の運動方程式 ∴  ・・・@
マクスウェルの方程式より、
,∴
 ∴  ・・・A
磁場方向に荷電粒子が受ける力は、@,Aより、
 ・・・B
この式の中のは、@より、
と見ると、荷電粒子が速さvで長さの円周を一周する時間で電荷qを割ったものを電流と見なすと、は円の面積なので、μは、半径rの円軌道を周回する荷電粒子の作る磁気モーメントです。ボーアの原子模型の場合(電荷:e,磁気モーメント:)には、のときのボーアの量子条件より、となります。
ボーア磁子と言います。

1922年のシュテルン・ゲルラッハの実験で、銀の原子ビームを一様でない磁場に通すと磁場方向に2つに分岐して曲がる(ローレンツ力によるものなら磁場と垂直な方向に曲がるはず)ことが発見されました。磁場方向に曲がるのは銀原子中の電子が磁気モーメント(微小円電流)を持っていてこれが磁場方向にBのの力を受けるからと説明されました。銀原子は47個の電子を持っていますが、K殻、L殻、M殻は閉殻、N殻の4s軌道、4p軌道、4d軌道も満員で、ここまでで電子46個の角運動量の和はゼロになり、5s軌道の電子1個が磁場の影響を受けます。銀原子ビームの分岐は、5s軌道の電子1個の角運動量が2通りの値を持つからではないか、と考えられました(量子力学の基礎(その3)を参照)

前述のゼーマン効果を、ローレンツは古典論に基づいて説明したのですが、量子力学によって、ナトリウムの出す光のうち
D線は、ナトリウム原子が持つ電子の3p3sの遷移で発生する光子によるものとわかりました。ナトリウムはK殻、L殻が閉殻で3s軌道の電子が水素の主量子数の電子のようなふるまいをします。このD線は、D1D22本のスペクトルに分裂しているのですが、1925年オランダのウーレンベックとゴーズミット(ユダヤ系のため後に米国に帰化)が、ナトリウムの3pは、電子の自転(当時は電子は大きさをもつと考えられていました)による角運動量の違いによってエネルギー準位が2つに分かれスペクトルが分裂する、と説明しました。シュテルン・ゲルラッハの実験の銀原子ビームの分裂の理由も同様に説明できます。原子核内で方位量子数で決まる角運動量を軌道角運動量、また、電子1個が固有に持つ角運動量をスピン角運動量、あるいは単にスピンと言います。電子の軌道角運動量による磁場が電子のスピンに影響を与えるなど、角運動量同士の相互作用、また磁場を加えたときの磁場との相互作用により、スペクトルが複雑に分かれることが分かっています。

この項目「素粒子」では、素粒子の理論・実験について見て行きますが、素粒子の検出には、
1897年にウィルソンが発明した霧箱を用います。過飽和した気体中を荷電粒子が通過すると気体分子をイオン化します。イオン化された気体分子の霧粒の列を見ることによって素粒子の飛跡を知ることができます。イオンを核にして気泡ができるときには、気泡の列を見ることによって飛跡がわかります。これは泡箱と言い、1952年グレーザーが発明しました。ニュートリノは電荷を持たないため霧箱では飛跡が検出できません。ニュートリノが物質と衝突した際にできる気泡により間接的に飛跡を調べます。岐阜県神岡のカミオカンデでは、ニュートリノが電子と衝突したあとに電子が放射するチェレンコフ光を光電子増倍管で検出します。素粒子の検出には、他にも放電箱や計数箱が工夫されています。光子の場合には、蛍光を発生させてシンチレーションカウンターで検出します。電荷を持つ素粒子では、磁場をかけるとローレンツ力を受けて円運動するので、円運動の向きから電荷の正負を調べ、円運動の回転半径から電荷の大きさ、粒子の運動量を求めます。電荷の速度が大きい場合には相対論的効果を考慮する必要があります。素粒子が飛跡を作った時間が分かれば飛跡の長さから速さが分かり、素粒子の質量が求められます。

陽子同士を衝突させる場合にはクーロン力に打ち勝つエネルギーを陽子に与える必要があります。また、高エネルギーの素粒子を発生させる場合などにも、巨大な加速器が必要になります。安定な荷電粒子の場合には、電場をかけて加速します。高電圧を得るために、コッククロフト・ウォルトン回路
(東大物理'11[2])などが使われます。
加速器には、線形加速器と円形加速器の
2通りが考えられます。
線形加速器では、互いに絶縁された導体筒を直線状に数多く並べ、各電極に高周波電圧をかけ、加速器内を通過する荷電粒子と同じ速さで各電極の電圧を移動させて、荷電粒子を加速します。
円形加速器は、サイクロトロンとシンクロトロンの
2通りあります。
サイクロトロンは、内部が空洞になっている半円形の電極を間隔を空けて
2つ合わせて円形になるように設置し、2つの電極間に高周波電圧をかけ、この円と垂直に磁場をかけます。円の中心部分から荷電粒子を円形の空洞内に投入すると、2つの半円形の電極の間隙部分を通過するときに荷電粒子が加速(荷電粒子がいた側が荷電粒子と同符号電位、荷電粒子が侵入する側が異符号電位となる電圧で加速します)され、荷電粒子の速さが大きくなるたびに円運動の半径が大きくなり、必要なエネルギーまで加速されたところで、円の外に取り出します。磁束密度Bの一様な磁場中を速さvで、半径rの円運動する荷電粒子qが半周する時間は半径に依存せず一定(運動方程式:より、半周する時間は)なので、一定の周波数の高周波電圧で加速できます。
シンクロトロンは、加速したい荷電粒子が周回運動する経路に沿って、運動方向を曲げる磁場を作る電磁石を取り付けた部分と、粒子を加速させるための電圧を加える間隙部分とを設けます。粒子はあらかじめ別の線形加速器で加速して装置内に入射させます。間隙部分で加速させるのに従って電磁石の磁場を強くし、荷電粒子が加速器内を周回運動するように制御し、必要なエネルギーまで加速された後に、荷電粒子のビームを外部に取り出します。周回軌道を長くするように加速器を造ることにより、大きなエネルギーの粒子を得ることができます。

粒子を標的に当てて散乱させるとき、単位面積当たり毎秒
N個の粒子を入射させると、角θの方向の立体角内に散乱される粒子数を毎秒として、に比例するので、
となります。ここで、は面積の次元を持っていての中に粒子を散乱させる標的の面積を表すと考えられます。これを微分断面積と言い、全立体角に渡って積分すると、
は、散乱する確率を与え、散乱される粒子の総個数は毎秒です。このPを全断面積と言います。また、角θを散乱角と言います。粒子同士の衝突を分析する際には、散乱断面積、散乱角を調べることになります。

1926年にオーストリアのシュレーディンガーが、ド・ブロイの物質波の提案を受けて、波動方程式から、物質波を作る粒子が従う非相対論的なシュレーディンガー方程式を導出しました(量子力学の基礎を参照)。この方程式の解は、粒子の存在確率の波を表し、が確率密度関数であると解釈されました。
ここで、
角運動量について考えます。位置にある物体が運動量を持つとき、物体の角運動量は、 (×は外積です)で与えられます。角運動量が空間の変換で受ける影響を考えたいのですが、まず、平面から話を進めます。平面上のベクトルの長さを変えない()変換Tは、θを角として、行列
 (複号同順) ・・・C
で表されます。この変換を直交変換、行列T直交行列と言います(1次変換(その2)を参照)。単位行列をとして、直交行列は、
より、 (は行列Tの転置行列、つまり、のとき行列を参照)という性質を持ちます。行列の成分を複素数とする場合、ですが、となるとき、行列Uの表す変換は複素数を成分とするベクトルの大きさを変えません()。このとき、変換をユニタリ変換、行列Uユニタリ行列と言います。直交行列は成分が実数であるユニタリ行列と言うことができます。となる行列をエルミート行列と言います。量子力学で物理量を求める演算子をA,固有値をa,固有ベクトルをとして、となりますが、Aはエルミート行列でaは実数です。
直交変換全体は
を作ります。「集合Gが演算について群を作る」というのは、
任意のについて
任意のについて
単位元が存在して任意のについて
任意のについて逆元が存在して
という性質をもつことを言います。θを任意の実数とするときの直交行列T全体をと表します。行列の積について、
任意のについて、
 (複号同順)
任意のについて
任意のについて
任意のに対して (複号同順)
となり、は群を作り、2次元直交群と言います。には2タイプあり、というタイプとというタイプです。
は原点の回りの角
θの回転移動(回転変換)は直線に関する対称移動(鏡映変換、反転)を表します(1次変換(その2)を参照)。両者は、行列式の値が異なり、です。の全体でも群を作るのですが、これを2次元特殊直交群と言いと表します。2次元の回転を扱うものに、絶対値1の複素数があります。これは言わば1次元のユニタリ行列とも言えるもので、の表す変換全体は群をなし、これを1次元ユニタリ群と言います。の要素もの要素も実質的に同じ回転を表します。この事実を、は同型である、と言います。行列は一般に、2つの行列ABについて、ですが、となるとき可換であると言います。群の要素同士の積が可換であるとき、可換群、またはアーベル群と言います。2次元特殊ユニタリ群では、の元Uは、として、と書けます。として、

より、であって、は非可換群です。
3次元の場合についても、まずz軸のまわりの角ϕの回転を行い、次にy軸のまわりの角θの回転を行い、最後にz軸のまわりの角φの回転をかけたもの
の全体で空間のあらゆる回転を表すのですが、群を作ります。行列式は1になるので、この群は3次元特殊直交群です。回転変換の群、は可換群です。角運動量の大きさの2は空間回転で変化せず、つまりに属する変換を受けても変化しません。この事実を、対称性を持つ、という言い方をします。

角運動量に話を戻し、として角運動量の成分は、

です。
シュレーディンガー方程式を作るときの規則:
を施すと、
となります。量子力学では、演算子の交換関係を考えます。です。例えば古典論ではx座標と運動量のx成分とで、ですが、量子力学では必ずしもこうはなりません。x座標演算子と運動量のx成分演算子とで、交換関係を調べる(演算子の交換関係なので関数ϕにかけて調べます)と、
などより、
となります。
になるとき、演算子
ABは可換()であると言います。xは可換()です。演算子ABが可換であるとき、ABは同じ固有関数を持ち物理量ABを同時に測定できます。のとき()は同時には測定できず、例えば、xは同時には測定できず、ハイゼンベルクの不確定性原理:が成立します。
に注意して、



,同様に、 ・・・D
また、
とDを用いて、
 ・・・E
 ・・・F
 ・・・G
,E+F+Gより、
よって、は交換可能で同じ固有関数を持ちます。シュレーディンガー方程式を解く(量子力学の基礎(その3)を参照)と、角速度の大きさの2は固有値 (lは方位量子数と呼ばれています。主量子数をnとして、)を持ちます。の固有値は (mは磁気量子数と呼ばれています。)となります。

今まで書いてきた角運動量
Lは軌道角運動量と呼ばれているものです。この軌道角運動量による磁場の影響を考慮すると、電子固有のスピン角運動量との間に相互作用があり、これも含めてシュレーディンガー方程式を解くと、角運動量の固有値が、 ()となります。軌道角運動量だけのときと比べて、jの奇数倍になる場合が出てきます。これは電子固有のスピンによる影響です。電子のスピン角運動量の固有値は2通りの値(電子はスピンを持つ、という言い方をします)を取り、これが軌道角運動量と合成されて、jが半端な値を取るようになります。スピンを表すのに、固有値に応じて、
という2つのベクトル(スピノルと言います)を考えます。軌道角運動量z成分演算子と同様に、スピン角運動量z成分演算子が固有値の状態を表すように、とすると、とすればよいことが分かります。が角運動量演算子の交換関係Dと同様の関係を満たすようにするためには、
 ・・・H
として、とすればよく、をスピン角運動量の表現行列、パウリ行列と言います。パウリ行列は次の関係式を満たします。

(は単位行列) ・・・I
これによると、も、と同様の交換関係を持ちます。
素粒子(その2)へつづく。


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